365カレッジ リニューアルのお知らせ

股関節・ひざ関節症の最終手段は人工関節!

整形外科

永生病院関節センター長 及川 久之

人工股関節置換術は痛みの解消、可動域の改善に効果があり脚長差の矯正も可能

[おいかわ・ひさゆき]——日本大学医学部卒業。同大学医学部附属板橋病院整形外科、同大学医学部整形外科医局長、川口市立医療センター整形外科医長・部長・診療局長、永生病院整形外科医長を経て、2015年より現職。日本整形外科専門医、日本人工関節学会認定医、日本リウマチ学会専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄専門医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。

(へん)(けい)(せい)()(かん)(せつ)・ひざ関節症の治療は保存療法が基本です。関節軟骨がほとんど失われてしまい、痛みなどの症状が強くて股関節やひざ関節の変形もかなり進んでいる場合を除けば、初めから手術が選択されることはほとんどありません。

通常、手術が検討されるのは「運動療法」「薬物療法」「注射療法」「装具療法」「物理療法」「肥満の改善」「日常生活の工夫」といった保存療法を行っても痛みや歩行障害が十分に改善しない場合です。患者さんの状態などにもよりますが、基本的には保存療法を3~6ヵ月間行っても改善が見られないときは手術療法が検討されます。

変形性股関節・ひざ関節症の手術療法は、関節周辺に小さな(あな)を開け、(かん)(せつ)(きょう)という器具を使って行う「関節鏡視下手術」や人工関節を使わずに変形した関節の形を整えて行う「関節温存手術(骨切り術)」、関節の変形がかなり進んでほかの治療法では改善できない最終手段の「人工関節置換術」があります。

人工股関節置換術は、変形した骨や余分に形成された(こつ)(きょく)(軟骨が骨化したトゲ状の骨)などを取り除いた股関節の(こつ)()(しょう)(土台となる骨)に、金属やセラミックなどで作られた人工股関節を埋め込んで股関節を置き換える手術です。人工股関節置換術の適応となる疾患は変形性股関節症、(だい)(たい)(こつ)(とう)()()、関節リウマチなどです。対象年齢は一般的に60歳以上といわれています。しかし、日常生活や仕事を行ううえで障害が大きかったり痛みが強かったりする場合は、年齢が若くても、将来的に再置換術を受ける可能性があることを承知していただいたうえで、人工股関節置換術を行うことがあります。

変形性股関節症の痛みの多くは、股関節の変形が原因で起こります。人工股関節置換術のメリットは、なんといっても痛みが取れ、歩き方も改善することです。

また、人工股関節置換術を受けることで股関節の可動域(動かすことができる範囲)が広がり、階段の昇り降りやトイレでの立ち座り、靴下の着脱、(つめ)()りの動作など、日常生活もらくになります。1ヵ月以上入院しなければならない関節温存手術に比べて、入院期間やリハビリテーションの期間が1~3週間と短く済むのもメリットの1つです。

日本人の場合、(せん)(てん)(せい)()(かん)(せつ)(だつ)(きゅう)(生まれてまもない乳児期に股関節が外れた状態)や(せん)(てん)(せい)(きゅう)(がい)(けい)(せい)()(ぜん)(発育の過程で股関節が不完全な形態)が原因で変形性股関節症になるケースが多いといわれています。変形性股関節症が進行して股関節の変形が進むと、大腿骨頭の位置が外側上方にずれて変形している側の脚が短くなり、(きゃく)(ちょう)()が生じて偏りから腰痛やひざ痛が起こることがあります。人工股関節置換術のメリットには、脚長差をある程度まで矯正し、脚の左右のバランスを整えて腰痛やひざ痛も改善します。

人工股関節は耐用年数があり劣化したり骨が痩せ細ったりすると再置換術が必要になる

人工股関節の耐用年数は、1990年代後半に()(もう)の耐久性が高められたクロスリンクポリエチレンが導入されたことによって劇的に向上し、現在ではほとんどが20年以上となっています。以前は、人工股関節の材料(特にポリエチレン)の摩耗粉が生体反応を引き起こし、人工股関節の周りの骨が骨溶解(骨が溶けて失われること)を起こしてしまう問題がありました。しかし近年では、人工股関節の摩耗が従来の6分の1以下になり、骨溶解が劇的に減少し緩みをきたす症例数も減りました。さらに最近では、抗酸化作用のあるビタミンEを添加したポリエチレンが使用されるようになり、さらなる耐久性の向上が期待されています。

ただし、人工股関節置換術は、決して万能な治療法ではありません。「人工股関節置換術は治療の出発点」と考える医師もいるほどです。

まず、人工股関節は一種の器械にすぎず、耐用年数があって一生もつものではないという問題があります。人工股関節の部分が劣化したり、土台となる骨が()せ細ったりしてしまうと、人工股関節が緩んでしまうため、困難な人工股関節の再置換術が必要になるケースもあります。

さらに、人工股関節置換術後には、「(くっ)(きょく)(ひざを曲げて胸のほうに上げる)」「(ない)(てん)(脚を内側に閉じる)」「(ない)(せん)(脚を内側にひねる)」という3つの動作を同時に行うなどの危険な()()やアクシデントによる脱臼が起こるおそれがあります。また、人工股関節周辺での骨折、細菌感染などの合併症が生じることもあります。

人工股関節は、(かん)(せつ)(ほう)(関節周辺の硬い膜)や筋肉に支えられることによって安定していきます。しかし、術後数ヵ月までは関節包や筋肉の支えが不十分なため、脱臼の危険性が高まるのです。

脱臼のしやすさは、手術時の切開の場所や人工股関節のデザイン、人工股関節の部品を設置する位置や角度、患者さんの骨格などによって左右されます。手術後は、日常生活で女の子座り(脚を横に向けそろえて座る)など股関節を内側にひねるような座り方や、深くて柔らかいソファーに座ったり(股関節を深く屈曲する)、脚を組んだりする動作は後方への脱臼を誘発しますので、避けなければなりません。年齢とともに腰が曲がってきた場合は、腰を無理に伸ばすと骨盤が後方へ傾くため、人工股関節が前方に脱臼することもあります。

近年では、皮膚や筋肉、(じん)(たい)にかける負担を必要最小限にしたMIS(エムアイエス)(最小・低侵襲手術)という方法があります。MISによって皮膚や筋肉、靭帯、関節包を温存することができ、術後に脱臼が起こるリスクは低くなり、日常生活動作の制限も少なくなってきています。 

一方、人工ひざ関節手術は、ひざの骨の一部を削って金属やポリエチレンなどで作られた人工関節に置き換える手術です。関節鏡視下手術や関節温存手術に比べて、痛みを確実に改善することができ、長期間にわたって効果が期待できます。

ひざ関節痛を訴える患者さんの中には、ひざの内側の関節軟骨がなくなって(すき)()が完全に失われている方が少なくありません。ひざ関節の変形が大きく、痛みなどの症状が強いために日常生活に支障をきたしている場合、人工ひざ関節手術の対象となります。

人工ひざ関節には約20年の耐用年数があるため、手術の対象年齢は60~65歳以上が目安です。また、医療の進歩によって人工ひざ関節の耐用年数は延び、20年以上でも問題なく生活している方もいます。

人工ひざ関節手術の合併症の1つに術後感染症があります。感染リスクの高い糖尿病や関節リウマチなどの患者さんは手術前にできるだけ持病を改善する必要があります。また、認知症の方は手術を受けることが非常に困難です。手術に対する理解や手術後のリハビリテーションが非常に重要になってくるからです。

人工ひざ関節手術の方法は次のとおりです。全身麻酔や(よう)(つい)()(すい)をかけた後にひざの皮膚を縦に約12㌢切開します。変性・損傷した大腿骨と(けい)(こつ)の関節軟骨を取り除き、形を整えるために骨の表面を削ります。人工ひざ関節は4つの部品から構成され、「大腿骨コンポーネント」「脛骨コンポーネント」「(しつ)(がい)(こつ)ポリエチレン」「インサート(関節軟骨の代わりをする板)」を削った骨の各部分に取り付け、医療用の(こつ)セメント(人工関節と骨を固定する接着剤)で固定します。脛骨コンポネートの上にインサートを取り付け、靭帯などの組織を元どおりに戻して、皮膚の傷を縫合して閉じます。

人工ひざ関節手術は痛みの解消、O脚の矯正に効果があり他関節の負担も軽減

人工ひざ関節置換術のメリットは、関節表面全体を取り換えるため、痛みが劇的に改善する点です。長年、ひざの痛みに苦しんできた患者さんにとってはたいへん有効で、歩くときの姿がきれいになる点もメリットといえるでしょう。

手術前に比べてひざが曲がるようになることも多く、O脚も矯正されるため、脚がまっすぐ伸びて姿勢がよくなります。そのため、ほかの関節への負担を減らすことにもなります。

人工ひざ関節置換術後は、骨折の治療のようにギプスで固定することなく、麻酔から覚めたらすぐにリハビリテーションが始まります。手術の翌日には車イスに乗って病院内を移動できるようになります。術後2~3日後にはリハビリテーション室で平行棒内歩行などの歩行訓練が始まります。

1~2週間後には、T字型の(つえ)を使って歩く訓練を始めます。杖は手術した脚と反対側の手で持ちます。手術した脚と同時に杖を前に出して歩くようにするとひざへの負担が軽減します。

2週間後からは、手すりを使って階段を昇り降りする訓練を行います。階段を昇るときは痛みのないほうの脚から踏み出し、降りるときは痛みのあるほうの脚から踏み出すと負担が軽減します。3週間後には、ほとんどの患者さんがT字型の杖を使って退院できるようになります。

ただし、すべての動作が元どおりにできるようになるわけではありません。人工ひざ関節に負担がかかるため、正座や衝撃を伴う激しい運動はおすすめできません。人工ひざ関節の摩耗が進んで耐用年数が短くなったり、ひざが不安定になってぐらつくようになったりしてしまうからです。

人工関節置換術後に起こる細菌感染症や深部静脈血栓症などの合併症に注意が必要

ひざがぐらつくようになると、ふとした拍子に転倒してしまう場合があります。人工ひざ関節置換術を受けた患者さんにとって、転倒は一大事といえます。

転倒する場所は屋外ばかりでなく、自宅でも多く発生しているのです。自宅で転倒しやすい場所は、居間やリビングが最も多く、玄関や階段も注意する必要があります。身体機能の低下によってすり足になりがちな高齢者の場合、カーペットや敷居のようなちょっとした段差でも転倒する危険が高まります。カーペットを外したり、玄関や階段に手すりを付けたりするなど、生活環境を見直して転倒の予防に努めましょう。

股関節・ひざ関節ともに人工関節置換術後には、細菌感染症や(しん)()(じょう)(みゃく)(けっ)(せん)(しょう)などといった合併症のリスクを伴います。人工関節の周囲は普通の状態よりも細菌が感染しやすく、感染してしまうと治りにくいという問題があります。股関節やひざ関節の周りに傷を作らないだけでなく、感染症を引き起こす可能性のある虫歯や巻き爪、みずむしなどにも注意が必要です。

深部静脈血栓症は、()()の静脈の中で血液が固まってしまい、血液の(かたまり)(血栓)が生じる病気です。血栓が血管内を流れて肺の動脈に詰まる肺血栓症を起こした場合、死に至ることもあります。深部静脈血栓症は飛行機内で長時間同じ姿勢でいるときなどに発症することがあるため、「エコノミークラス症候群」とも呼ばれます。長時間、下肢を下げた姿勢で動かさないでいると、血流の流れがよどんで血栓が生じやすくなります。

現在では予防対策として、入院中に下肢静脈の血流を促す弾性ストッキングの使用や睡眠中に下肢の血液循環が改善するフットポンプの装着、内服薬などによる術後血栓予防が行われるようになりました。その結果、深部静脈血栓症のリスクは少なくなっています。

人工関節置換術は、股関節やひざ関節の悩ましい痛みを取るという点では非常に有効な手段といえます。痛みから解放されることによって生活の質が向上し、前向きに生きることができます。また、歩行能力の改善は心身の健康にもいいといわれています。しかし、患者さんの年齢や要望、症状・関節の変形の程度、片側か両側かなど、1人ひとりの状況に応じて長期的な生活の質の改善・維持を常に念頭に置いて人工関節置換術の選択をすることが重要です。