腎機能が低下すると骨や筋肉・皮膚に石灰化が起こりかゆみや痛みを誘発
1330万人と推計される慢性腎臓病患者さんのうち、33万人以上が人工透析を受けています。人工透析を10年以上続けている人は約9万人、20年以上続けている人は約3万人といわれています。
人工透析を長く続けていると、多くの合併症に悩まされるようになります。その中でも多いのが、かゆみや乾燥肌、そして関節・筋肉の痛みです。
皮膚の乾燥は、透析によって起こる汗腺の萎縮が原因と考えられています。通常、汗腺から出た汗は皮脂と混じり合って表皮を覆い、外からの刺激を防いでくれます。しかし、汗腺が萎縮すると汗の量が減るため、皮膚の防御機能が低下します。さらに、皮膚が乾燥すると、かゆみを感じる神経が表皮の近くまで伸びてくるため、かゆみを感じやすくなるのです。
長時間にわたる透析は、副甲状腺の機能にも影響を与えます。具体的には皮膚や関節・筋肉に「異所性石灰化」という状態を招いて、かゆみや痛みを引き起こすのです。副甲状腺の働きは、主にカルシウムの濃度を上昇させるホルモンを分泌することです。しかし、ホルモンの分泌量が増えすぎると、骨以外の正常な組織が石灰化(異所性石灰化)し、皮膚のかゆみや関節・筋肉の痛みを引き起こすのです。
透析時に血液が浄化不足になることでも、かゆみが起こります。本来なら血液中からろ過されるはずの尿毒素が体内にたまることで、かゆみの原因であるヒスタミンが分泌されやすくなります。さらに、尿毒素が皮膚に蓄積すると皮膚が刺激され、かゆみを引き起こすと考えられています。
かゆみの症状を抑える薬として開発されたのが「ナルフラフィン塩酸塩」です。ナルフラフィン塩酸塩は、70~90%の透析患者さんに効果があり、約80%の患者さんが効果に満足しているとの報告があります。
透析まで進行した末期腎不全の患者さんは「閉塞性動脈硬化症」にも注意しなければなりません。重度の動脈硬化といえる閉塞性動脈硬化症は、血管が狭くなったり(狭窄)、つまったり(閉塞)して血流が悪化し、細胞や組織に酸素が届きにくくなる症状です。
腎機能の悪化で起こる閉塞性動脈硬化症は壊疽の原因にもなり足の切断の危険大
健康な人でも加齢に伴って動脈硬化が起こりますが、慢性腎臓病の患者さんは動脈硬化の進行が速い傾向があり、閉塞性動脈硬化症が起こりやすいのです。
閉塞性動脈硬化症が発症しやすい場所は、心臓から遠く、血流障害の起こりやすい「足」です。足は壊疽が起こりやすい場所でもあります。
健康な人ならすぐに治るような足の傷も、閉塞性動脈硬化症の患者さんは、傷を治すために必要な酸素や栄養が行き届きません。細胞が虚血状態(組織への血液供給が急激に不足する状態)となり、壊疽が起こりやすくなるのです。
閉塞性動脈硬化症の患者さんは神経障害を併発しやすいことも、壊疽が起こる理由の1つです。現在、慢性腎臓病の最大原因として挙げられるのが糖尿病です。糖尿病は重大な合併症を引き起こし、特に糖尿病神経症・糖尿病網膜症・糖尿病腎症は3大合併症と呼ばれています。3大合併症のうち、最も早く現れるのが神経障害です。
糖尿病神経症になると、手足のピリピリした痛みやしびれを感じるほか、足裏の感覚が徐々に失われるようになります。さらに進行すると、感覚神経のみならず、自律神経(意思とは無関係に内臓や血管の働きを支配する神経)や運動神経まで障害されます。
運動神経が障害されると、足の筋肉がうまく働かなくなり、足指や足裏に不自然な圧力がかかるようになります。結果的に、タコや魚の目、靴ずれなどのケガが起こります。さらに感覚神経が鈍くなると、足に傷ができたことにすら気づかなくなります。すると、放置された傷が悪化したり、細菌に感染したりして壊疽へ進行します。
足を切断すると、生活の質(QOL)は著しく低下します。足の切断手術を受けた患者さんの5年生存率は約30%といわれています。
透析患者さんが壊疽を起こさないようにするには、神経障害の早期発見が重要です。毎日、足をチェックすることはもちろん、傷を作らないように、室内では靴下とスリッパを着用しましょう。