何気ない指の動きで痛みやしびれを感じたらヘバーデン結節を疑いましょう
「ペットボトルの蓋を開ける」「包丁を使う」という日常の何気ない動作で、指の関節に痛みやしびれを覚えることはないでしょうか。毎日使っている手の指が、動かすたびにズキズキ痛んだりジンジンしびれたりすると、生活の質(QOL)が著しく低下してしまいます。
富永ペインクリニックの院長を務める私は、痛みの専門医として地域に密着した医療に携わっています。クリニックを開院してから現在に至るまで、痛みに悩む患者さんを1万5000人以上診てきています。患者さんの中には、「薬や湿布を使っても痛みが治まらない」「痛みは年のせいだと思って我慢している」「治してくれる医師が見つからない」と嘆く方がおおぜいいました。中でも、特に悩ましい手指の痛みを伴う指関節症がヘバーデン結節です。
ヘバーデン結節は、指の第一関節にコブのような結節ができ、徐々に変形してしまう病気です。患者さんの多くは指先を少し動かすだけで痛みやしびれを感じ、悪化すると安静にしていても痛みを覚えるようになります。レントゲン検査によって指の関節が変形していたり、関節の隙間が狭くなっていたり、骨に骨棘というトゲができていたりすることが分かるとヘバーデン結節と診断されます。
ヘバーデン結節の原因は、手指の使いすぎや加齢、遺伝などといわれますが、はっきりと分かっていないのが現状です。ただし、男性に比べて女性がかかりやすいことは明らかで、更年期を迎える時期に見られる女性ホルモンの減少が引き金になっている場合が少なくありません。
ヘバーデン結節の痛みは変形した骨や関節からではなく、神経を通じて感じます。痛みを和らげる代表的な治療法は、神経ブロック注射です。神経に作用する場所に局所麻酔薬を注入し、痛みに敏感になっている神経そのものに働きかけることで痛みを取り去ります。神経ブロック注射によって痛みがなくなると関節が動かしやすくなるため、滞っていた血流が改善されます。筋肉や血管の緊張もほぐれて、痛みやしびれが和らぐのです。
神経ブロック注射を受けた患者さんの多くは、痛みのせいでできなかった家事や仕事ができるようになるなど、生活の質が見違えるほどよくなります。指の痛みが和らぐにつれて、徐々に前向きな気持ちや明るさを取り戻していくのです。
しかし、神経ブロック注射は、医師にしかできない医療行為です。ヘバーデン結節の痛みに悩んでいる多くの患者さんから寄せられた「自分で痛みを和らげたい」という要望にこたえるために編み出したのが[富永式神経マッサージ]です。
富永式のポイントはイタ気持ちいい強さの刺激で10秒後には悩ましい痛みが改善
富永式神経マッサージは、神経ブロック注射と同様に、神経に直接刺激を与えて痛みを和らげる手法です。手や指を動かしたり、痛みを感じたりするのは主に3つの神経で、「橈骨神経」「尺骨神経」「正中神経」といいます。3つの神経が通っている場所やそれぞれの役割は次のようになります。
● 橈骨神経
橈骨神経はひじ関節の曲げ伸ばしをしたり、手指や手首をそらしたりする動きに関わる神経です。首から鎖骨の下を通り、わきの下、二の腕の骨の外側を通過して手の親指側へと走っていて、手の甲側の親指、人さし指、親指のつけ根などの痛みを伝えます。
● 尺骨神経
尺骨神経は手首や手指を曲げる以外に、手のほとんどの筋肉の動きに関わっている神経です。
首から出て鎖骨の下を通って小指側に向かって伸びていて、小指と薬指の小指側の痛みを脳に伝えています。
● 正中神経
正中神経は手首や手指を曲げたり、親指のつけ根の筋肉を動かしたりする神経です。首から出て鎖骨の下を通り、ひじの真ん中から手首で手根管というトンネルの中を通過して親指側へと続きます。親指から人さし指、中指、薬指の中指側までの手のひら側の痛みを伝えています。
神経は痛みを伝える知覚神経と、体の部位を動かす運動神経の2種類に分かれます。知覚神経は、痛みやしびれなどの知覚情報を脳に送る役割をしています。運動神経は、筋肉や関節を動かしなさいという脳からの指令を末梢神経に伝えます。橈骨神経や尺骨神経、正中神経は知覚神経と運動神経の両方の機能を担っています。
人間の体には、知覚神経と運動神経が並走する場所が複数あります。体の浅い位置にあり、自分で触れることができるところを「神経ポイント」と呼んでいます。富永式神経マッサージでは、神経ポイントを刺激することによって痛みを瞬時に取り除くことができるのです(痛みが改善![富永式神経マッサージ]の画像参照)。
富永式神経マッサージに必要なのは、自分の指先だけです。最大のコツは「爪を立てて刺激を与える」ことで、指の腹や手のひらを使うツボ押しやマッサージとは、やり方が異なります。力加減の目安は、刺激した後に爪の跡が軽く皮膚に残るくらいです。「気持ちいい」というよりは、「少し痛い」「イタ気持ちいい」くらいの感覚でグッと押してこすりましょう。
富永式神経マッサージは痛みを伝えている神経に作用する神経ポイントを直接刺激し、脳に伝えて痛みを取り除くマッサージです。そのため、圧が弱すぎたり、ただ気持ちいいだけだったりすると、脳に十分な刺激が伝わらないので効果が得られにくくなります。
神経ポイントに圧を加える時間は、わずか10秒です。時間が長すぎると過剰な痛みの刺激によって交感神経が優位になるため体が緊張して、より血行が悪くなって痛みも増してしまいます。
神経マッサージをするタイミングは、痛みがひどい場合は〝そのとき〟に行いましょう。慢性的に痛みが続いている場合は、朝・夕の1日2回行うのが有効です。やみくもに長い時間行ったり、回数を増やしたりしても効果は高まりません。
富永式神経マッサージは、爪を使って神経ポイントを押すマッサージですが、長くとがった爪で行うと皮膚を傷つけるおそれがあります。肌が弱い方は、強い赤みが出たり傷ができたりしていないか、様子を見ながら行ってください。マッサージをしていないときにも皮膚の状態がヒリヒリして痛むようなら休憩し、皮膚が回復してから再開するようにしましょう。また、抗血小板薬や抗凝固薬を服用している方は、強く押しすぎると皮下出血を起こすことがあるので注意が必要です。
心の状態によって変化する痛みはマッサージと信頼できる人からのねぎらいの言葉で改善
痛みは富永式神経マッサージを行うことで和らぎますが、心の状態によって大きく変化します。仲のいい友人と昼食を食べて談笑しているときは手指の痛みを感じないのに、旦那さんから「メシはまだか」といわれたとたんに激しい痛みに襲われる人は少なくありません。傷の炎症が悪化したわけではなく、脳の痛みの捉え方が大きく影響していることも多いため、好きな音楽やアロマ、読書などで気分転換すると、痛みのコントロールがしやすくなります。
痛みは目に見えないため、自分以外の人には伝わりにくく、具体的な症状を話しにくいと思います。しかし、家族や身近にいる人には、自分の痛みやつらさ、苦労、気持ちなどを一度話してみましょう。すべてを理解してもらうことは難しいかもしれませんが、信頼できる人からのねぎらいの言葉ひとつで痛みがスッと和らぐこともあります。痛みに耐えながら毎日の家事を続ける自分を褒めてあげることが、痛みの改善には不可欠といっても過言ではありません。
富永式神経マッサージは、仕事や家事、子育て、介護、家族関係などさまざまな状況によってすぐに病医院に行けない方でも自分で痛みを治せる画期的な方法です。痛みにじゃまされずに自分のやりたいことをする人生のきっかけになれば、医師としてこんなにうれしいことはありません。