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変形性ひざ関節症には保存療法が有効

整形外科

千葉大学特任教授 渡辺 淳也

変形性ひざ関節症は保存療法が5つあり慢性的な痛み・炎症が改善して悪化を抑制

保存療法の基本は運動療法で、ほかの治療法を組み合わせることでひざの痛みの改善が期待できる

変形性ひざ関節症の痛みを和らげる保存療法は「運動療法」「薬物療法」「注射療法」「装具療法」「物理療法」の5つに大別されます。

運動療法

主な運動療法は「ストレッチ」と「有酸素運動」の2つです。硬くなった筋肉や(けん)などの組織を伸ばして、柔軟性を向上させるのがストレッチです。ひざの痛みを軽減する効果が期待でき、運動療法の基本といえます。

おすすめのストレッチは、入浴中の正座です。入浴中の正座は、ひざの可動域(動かすことができる範囲)を可能な限り正常な状態に戻すことができます。

正座をするとひざが最大限に曲がるため、高いストレッチ効果が期待できます。通常、ひざが痛む場合は曲げることが難しく、正座が困難になります。しかし、入浴中に正座を行えば、ひざ関節周辺の筋肉や腱などの組織が温まって柔軟性が向上し、ひざを曲げやすくなります。また、湯ぶねの中では浮力の影響でひざにかかる重力が減って負担も軽減されます。

一方、有酸素運動は、筋肉を収縮させる際のエネルギーに酸素を使う、長時間でも継続可能な運動のことをいいます。おすすめの有酸素運動はウォーキングです。ストレッチを行って痛みが軽減してきたら、軽めのウォーキングを始めるといいでしょう。

薬物療法

変形性ひざ関節症では、関節軟骨がすり減って生じる細かな〝削りかす〟によって、(かん)(せつ)(ほう)の内側にある(かつ)(まく)という膜が刺激されて炎症が起こります。薬物療法でよく使用されるのは「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs(エヌセイズ))」という薬です。NSAIDsには炎症を抑制して痛みを軽減する効果が期待できます。

NSAIDsにはいくつかの種類がありますが、まず最初に選択されるのが内服薬です。高い消炎鎮痛効果があり、多くの患者さんに有効といえます。ただし、NSAIDsには副作用があり、胃の不快感や食欲不振、胸焼けをはじめ、胃の出血や()(かい)(よう)を招くケースもあるため、長期間の服用は避けるようにしましょう。

内服薬と併用することが多いのが、ひざ周辺の皮膚に貼ったり、塗ったりする外用薬です。皮膚から有効成分が体内に吸収されるため、内服薬に比べて胃腸障害のリスクは低い反面、肌が敏感な人はかぶれてしまうこともあります。

また、痛みが強いときや内服薬の副作用がひどい場合は、()(やく)が用いられることもあります。坐薬は胃腸を通過せずに直腸で有効成分が吸収されるため、内服薬よりも即効性があります。ただし、()や直腸に炎症がある人は使うことができません。

注射療法

注射療法は、関節軟骨や関節液の成分であるヒアルロン酸を注入する治療法です。ヒアルロン酸は(ねん)(だん)(せい)物質といわれ、非常に高い粘性(粘りけ)と弾性(元に戻ろうとする性質)があるのが特徴です。そのため、ひざ関節を滑らかに動かしたり、関節にかかる衝撃を吸収したりする働きがあります。

変形性ひざ関節症になると、関節液内のヒアルロン酸の量が少なくなって、粘弾性が低下してしまいます。そのため、不足したヒアルロン酸を注射器で関節内に注入して「痛みが和らぐ」「炎症が抑えられる」「ひざの動きが滑らかになる」「関節軟骨の栄養になる」といった効果が得られます。

装具療法の杖はひざの負担を軽減し骨折・寝たきりの原因になる転倒を回避

[わたなべ・あつや]——1996年、千葉大学医学部卒業。同大学医学部附属病院整形外科勤務などを経て、2005年、同大学大学院医学研究院修了。帝京大学ちば総合医療センター先進画像診断センター長などを経て、2014年、千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座特任准教授と東千葉メディカルセンター整形外科副部長。2016年より現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会リウマチ認定医。

装具療法

装具療法では、(つえ)(そく)(てい)(ばん)を使って、ひざの痛みを和らげます。他人の目が気になって、杖の使用に抵抗がある人も多いと思います。しかし、杖を使えば脚にかかる体重が分散されるため、ひざにかかる負担も大きく軽減されます。「ひざの痛みのせいで外出できない」という人は積極的に活用することをおすすめします。

さまざまな形状の杖がありますが、一般的にはT字型の杖がおすすめです。杖の長さの目安は、立ったときに杖を握った手が「(だい)(てん)()(脚のつけ根の外側に張り出している部分)」の位置に来るようにします。歩くときは症状のある脚とは反対側の手で杖を持ち、痛みのある脚といっしょに杖を前に出して動きを支えるようにします。

足底板は、靴の中敷きのように足の裏に密着させる矯正用具です。O脚やX脚の変形性ひざ関節症の初期に使うことで、ひざの痛みが軽減することが分かっています。

O脚の場合、体重がひざの内側に強くかかってしまい、加齢とともにひざの骨の表面を包んでいる関節軟骨が徐々にすり減っていきます。そこで、内側が薄くて外側が厚い足底板を装着することで、負荷がかかる場所をひざの外側にずらします。X脚の場合は、体重の負荷を内側にずらすタイプの足底板を使用します。

物理療法

物理療法は、運動以外の物理的な手段を用いて運動機能の活性化を目指す理学療法の総称です。(とう)(つう)の緩和や血流の促進、関節の可動域の改善などの効果があります。変形性ひざ関節症の場合は「温熱療法」「電気刺激療法」「光線療法」の3つが代表的です。

物理療法の中で最もよく行われる温熱療法では、保温性が高いゲルが詰まったホットパックやマイクロ波という電波の一種、超音波などを使い、血流を改善して傷ついた組織の()()を促す効果があります。また、ひざ関節周辺の筋肉や腱などの組織を柔軟にする効果があり、可動域も向上します。

電気刺激療法は、ひざ周辺の筋肉に微弱な電流を流して収縮させることで血流を改善し、痛みを和らげる治療法です。痛みをコントロールするのに有効ですが、高齢者の場合は乾燥肌の人が多く、低温やけどに注意が必要です。

光線療法は、ひざの痛む部位にレーザーや遠赤外線を照射して痛みを和らげる治療法です。レーザーには、鎮痛や血流促進、炎症抑制などの効果があります。また、遠赤外線には、ひざを温めて血流を促進させたり、ひざ関節周辺の筋肉や腱などの組織を柔軟にしたりする効果があります。

変形性ひざ関節症の保存療法の基本となるのは運動療法です。運動療法に取り組みながらほかの治療法を組み合わせることで、変形性ひざ関節症の痛みを断ち切ることができるのです。