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国立大学発! 慢性腎臓病の病期にかかわらず有効と実証された [東北大式・腎臓トレーニング]で透析回避

糖尿病・腎臓内科
東北大学大学院医学系研究科内部障害学教授 上月 正博

病期にかかわらず運動療法は有効で透析患者さんでも生活の質が向上

[こうづき・まさひろ]——1956年、山形県生まれ。医学博士。1981年、東北大学医学部卒業。同大学医学部第2内科、オーストラリア・メルボルン大学医学部内科招聘研究員、東北大学医学部附属病院助手・講師を経て、2000年より東北大学大学院医学系研究科教授。日本腎臓リハビリテーション学会理事長。著書に『腎臓病は運動でよくなる! 東北大学が考案した最強の「腎臓リハビリ」』(マキノ出版)など多数。

現在、慢性腎臓病まんせいじんぞうびょう(CKD)の治療は、大きな転換期を迎えています。かつて、腎臓病の患者さんが運動を行うことは強く禁止されていました。運動をすることによって、肝機能の悪化を意味するたんぱく尿が出やすくなることが分かっていたからです。慢性腎臓病の患者さんが腎機能を維持するには、安静に過ごすことが何よりも重要と考えられていました。

ところが近年の研究で、運動によってたんぱく尿が出るのは一時的なもので、特に強い運動でなければ腎機能に悪影響を与えないことが判明しました。さらに、慢性腎臓病の患者さんは常に安静にしている必要はなく、適度に運動するほうが合併症を予防・改善できると分かったのです。

私たちの研究グループは、慢性腎臓病に対する運動療法の効果を確かめるため、10年以上前から有効性の研究を重ねてきました。まず、慢性腎臓病の状態にしたラット(実験用のネズミ)に適度な運動をさせたところ、慢性腎臓病の合併症を回避できることが判明。さらに合併症だけでなく、運動には腎機能を保護する働きがあることも明らかになったのです。

ステージG3~5の慢性腎臓病患者さん2784人を対象に、運動の有無による腎機能への影響を比較した試験。運動習慣があるグループは運動習慣がないグループに比べて死亡率が低く、人工透析への移行も遅くできることが分かった

続いて、イギリスでは患者さんを対象にした試験が行われました。ステージG3~5の慢性腎臓病の患者さん20人を、運動をまったくしないグループと、1回40分、週3回の有酸素運動を行うグループに分け、2年間にわたって腎機能の状態を比較しました。その結果、運動をしなかったグループの腎機能は少しずつ低下したのに対し、週に3回の運動をしたグループの腎機能は維持や改善が見られたのです。

さらに、適切な運動によって慢性腎臓病の進行度の指標となる、推算糸球体しきゅうたいろ過量(eGFR値)の数値も改善することが、複数の研究機関から報告されています。すでに透析とうせきを受けている患者さんの場合も運動によって体力が向上するだけでなく、透析の効率が向上したり、寿命が長くなったりすることも分かってきました。

慢性腎臓病によって起こる合併症に、全身の筋力が低下するサルコペニアやフレイル(虚弱)があります。その他にも、心筋梗塞しんきんこうそく、心不全などの心血管疾患や脳卒中を引き起こすこともあります。これらの疾患の予防には、運動療法が有効であることは以前から指摘されていました。慢性腎臓病にも運動療法が有効という結果は、患者さんにとって命に関わる恐ろしい合併症の予防という面でも、大きな光明といえるのです。

ウォーキングは週に3~5日、1日20~60分、1回10分以上が目安

慢性腎臓病に対する運動の効果が明らかになったことによって、2016年から一部の慢性腎臓病の運動療法に健康保険の適用が認められるようになってきました。さらに、全国の医療機関で、運動や生活指導を行う腎臓リハビリテーションが普及しつつあります。

慢性腎臓病の運動療法には病期による制限はありません。初期の患者さんだけでなく、透析間近の患者さんや透析治療中の患者さんにもおすすめです。ただし、狭心症などで心臓の機能が安定しない人、最大血圧(正常値は139㍉以下、140㍉以上は高血圧)が180㍉以上あるいは最小血圧(正常値は89㍉以下、90㍉以上は高血圧)が100㍉以上の人、空腹時血糖値(126㍉㌘以上は糖尿病)が250㍉㌘以上の人、極端に肥満の人は原則として禁止です。足腰を痛めている人、腎機能が急速に低下している人、足にむくみがある人も要注意なので、運動に取り組む前に主治医と相談してください。

慢性腎臓病患者さんにおすすめの運動療法は、有酸素運動と筋力トレーニングが基本です。いずれも酸素不足は腎臓の負担になってしまうので、無理をせず息を止めずに行いましょう。

有酸素運動は週に3~5日、筋力トレーニングは週に2~3日行うのが目安です。代表的な有酸素運動であるウォーキングを行う場合は、1回10分以上、1日20~60分取り組むといいでしょう。きつい場合は、3~5分と短い時間の中で繰り返してもかまいません。有酸素運動はウォーキングの他、水泳やサイクリングなどもおすすめです。

手軽に取り組むことのできる筋力トレーニングとして、スクワットがおすすめです。10~15回を1セットとして、息を止めずに、無理のないセット数を行うようにしてください。慣れてきたら、水を入れたペットボトルなどを両手に持つと筋肉への負荷が強くなるので、さらに筋力がアップします。

今回は、運動が苦手な人でも取り組めて、腎機能の維持・改善に役立つ筋力トレーニングを3つ紹介します。「ダイナミックフラミンゴ体操」は目を開けたまま1分間片足立ちをして、下半身を強化します。「ヒップリフト」は腰や背すじ、臀部でんぶの筋力を向上させます。「レッグレイズ」は下半身や腹筋の強化に役立ちます。

運動中や運動後に水分補給をすることを忘れてはいけません。摂取できる水分量に制限がある人は、必ず事前に主治医と相談しましょう。運動はマイペースで行い、決して無理をしないでください。

運動療法で何よりも大切なのは、継続することです。最初から高い目標を持つのではなく、「外出時に1つ手前のバス停で降りて歩く」「エレベーターを使わずに階段を昇る」など、自分のできる範囲から取り組むといいでしょう。

運動する習慣を長続きさせるには、運動仲間を作ったり、トレーニングウェアなどのファッションにこだわったりするのも1つの方法です。また、景色のいい場所に出向いて、四季の風景を楽しみながらウォーキングするのもいいでしょう。