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奥義を極めた整復師が伝授! 全身に張り巡らされた筋肉を包む筋膜の癒着を引きはがして脊柱管狭窄症の痛み・しびれを改善[太田式筋膜リリース]

整形外科

太田接骨院院長、柔道整復師 太田 慶造

脊柱管狭窄症の痛み・しびれの根源は神経の圧迫だが、そのほかにも「筋膜の癒着」が関与

腰部脊柱管狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう(以下、脊柱管狭窄症と略す)は、背骨の中を通る脊柱管が狭くなって、神経を圧迫するために起こる病気です。背骨は29個の椎骨ついこつが首から腰にかけて積み重なって構成されています。椎骨の中央には穴が開いており、つなげるとトンネルのように管状になることから「脊柱管」と呼ばれています。

脊柱管狭窄症の痛みやしびれは、歩行時に腰部自体よりも臀部でんぶから下肢かしに現れることが多くあります。脊柱管狭窄症に特徴的な症状として、休憩や前傾姿勢を取ることでまた歩き出すことができる「間欠性跛行かんけつせいはこう」という歩行障害が挙げられます。

脊柱管には脳からつながる神経の束(脊髄せきずい馬尾ばび神経)が通っており、椎骨と椎骨は椎間板ついかんばんや椎間関節、前縦靭帯ぜんじゅうじんたい後縦こうじゅう靭帯、黄色おうしょく靭帯によって連結されています。脊柱管狭窄症は、加齢などが原因で脊柱管周辺の骨や関節が変形したり黄色靭帯が肥厚ひこうしたりして、脊柱管が狭くなることで発症します。しかし、画像所見で脊柱管の狭窄が認められても、痛みやしびれなどの症状を自覚していない人も少なくありません。

脊柱管狭窄症の痛みやしびれの根源は、狭窄した脊柱管における神経の圧迫ですが、実はこのほかにも痛みやしびれを増強させる要因が隠れています。それは「筋膜きんまく癒着ゆちゃく」です。筋膜は皮膚・筋肉・関節包かんせつほう(関節を包んでいる袋状の膜)などの組織と癒着すると拘縮こうしゅく(関節が硬くなって動かしにくくなった状態)を引き起こし、筋肉や関節の滑らかな動きを制限して炎症が起こりやすくなります。その結果、痛みやしびれを増強させるのです。

筋膜に癒着を起こす原因には相反する二つのケースが考えられます。一つは疲労や使いすぎによる筋膜の「炎症」、もう一つは長時間の座位や運動不足などによる関節の「不活動」によるものです。

筋膜の癒着は、皮膚や筋肉の間から始まり、しだいに広く深く進行して関節包にも及びます。筋力低下だけではなく、関節の可動域(動かすことができる範囲)を制限し、血流の悪化や神経の圧迫などで痛みやしびれを増強する要因となります。

さらに、関節を支える靭帯は不活動によってしなやかで強靭きょうじんな性質を失い、脆弱化ぜいじゃくかします。そのため、脊椎せきつい関節が不安定になって姿勢を保つことも困難になり、時には「骨化こつか(筋肉や筋膜、靭帯、関節包などが骨のようになってしまうこと)」することもあります。

上体を前屈した際や脚を上げた際、腰部よりも臀部や太ももの裏、ひざ裏、ふくらはぎなどに強い緊張感と痛みが生じていないでしょうか。このような場合は、すでに腰の痛みの要因が腰部以外の筋膜の癒着にある可能性が示唆されます。筋膜の癒着は筋肉の伸張性を著しく低下させるため、腰椎ようついには前屈の余裕がありながら、臀部からふくらはぎの筋膜が癒着して筋肉が伸びにくくなってしまいます。上体を前屈しにくくなるように制限を加え、姿勢の悪化や腰部の筋緊張・血流障害を誘発し、腰椎の変性を促進させるという悪循環が生じてしまうのです。

腰椎に負担をかけずに下半身の癒着した筋膜の働きを改善すれば痛み・しびれも軽減

筋膜の主成分は、強さと弾力性に富んだコラーゲン・エラスチンという2種類のたんぱく質と水分です。筋膜は、筋肉全体を覆っている最外層の「筋外膜」、いくつかの筋線維を束ねて覆っている「筋周膜」、さらに筋線維1本1本を包む「筋内膜」の3種類に分けられます。

筋膜は全身の浅部から深部に至り、筋肉の滑らかな運動を助けながら体の形状を保つ働きを担う「第2の骨格」といわれています。また、筋膜は筋肉を包むだけの膜と思われがちですが、骨や内臓器官、血管、神経なども包み込み、適切な部位にとどめたり適切な形状を維持したりしているのです。

筋膜は「全身を包むボディスーツのようだ」と形容されることが多く、筋肉の表面だけを覆う膜のように思われることもあります。しかし、深部の細かな筋肉の一つひとつにも筋膜の滑らかな作用が求められ、関節の可動域にも影響を与えます。上体の「前屈」「背屈」「回旋かいせん」「側屈」などの大きな動きには、多くの筋肉がグループとして働く必要があるように、筋膜の働きも動作に応じて広範囲かつ深部にまで求められることになります。

つまり、脊柱管狭窄症のように腰椎に変性が起こっている組織に大きな負担をかけずに下半身の癒着した筋膜の働きを改善すれば、腰部の筋膜にも好影響を与えて血流やリンパ液の流れがよくなり、痛みやしびれの軽減が期待できるのです。

[太田式筋膜リリース]は寝ながらできる股関節周辺の筋膜癒着改善・筋力回復法

[おおた・けいぞう]——1956年、京都府生まれ。明治東洋医学院専門学校を卒業後、1977年に柔道整復師の資格を取得。他の接骨院や救急病院などでの勤務を経て、1982年に太田接骨院を開院。地域の総合病院と連携しながら患者さんの施術にあたる一方で、江戸時代に刊行された『正骨範』や『整骨新書』をはじめ、整骨・接骨の実技に関する膨大な史料をひもときながら伝統医療の研究に取り組んでいる。太田式熨法研究会代表を兼務。

今回ご紹介するのは[太田おおた式筋膜リリース]です。太田式筋膜リリースは、脊柱管狭窄症や腰痛でお悩みの方におすすめする、寝ながらできる股関節こかんせつ周辺の筋膜癒着改善・筋力回復法です。

寝ながらの運動をおすすめする理由は、間欠性跛行の改善にあります。歩行時に痛みが出ると外出がおっくうになり、必然的に座位の時間が長くなると思われます。その点、寝ながらの運動であれば転倒の危険がなく、背骨にかかる負担も格段に減少して歩行に劣らない運動効果を得ることも十分に可能です。その気になれば、体はいつでもどこでも動かし、鍛えることができます。

私は、太田式筋膜リリースを始める前に股関節周辺の軟部組織の癒着を確認することが運動効果を高める良法だと考えています。例えば、前かがみの姿勢になると、多くの方が「背すじを伸ばそう」とされますが、股関節をしっかり伸ばそうとされる方はほとんどいません。

私が、ご高齢の方の腰部を施術する際に最も重要視しているのが、股関節の屈曲(ひざを曲げて胸に近づける動き)と伸展(脚を伸ばして背中側に反らす動き)がしっかりとできるか否かです。股関節の屈曲と伸展が正常であるということは、直立姿勢を支える「腸腰筋ちょうようきん」と「殿筋でんきん」が問題なく作用していることを示しているからです。特に股関節が伸展する角度は15度程度ですが、この15度を保つことがとても大切な要素になります。それでは、まず[股関節周辺の癒着度チェック]でご自身の状態を確認してから、太田式筋膜リリースを実践してみましょう。

適度に体を動かす習慣が筋膜の癒着を最小限に防ぐ有効手段です。初めはうまく動かせないかもしれませんが、焦らずに力を入れすぎず、無理なく継続することを願っています。

股関節周辺の癒着度チェック

太田式筋膜リリース