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食事療法に欠かせない減塩が簡単にできる! 腎臓専門医が考案[柴崎流減塩メソッド]

糖尿病・腎臓内科
独立行政法人国立病院機構北海道医療センター腎臓内科医長・広報室長 柴崎 跡也

腎臓病食の基本は減塩で外食時は丼物や汁物を避けて市販の総菜は成分表示も確認

[しばざき・せきや]——1967年、北海道生まれ。1994年、北海道大学医学部卒業。同大学医学部第二内科に入局。医学博士。釧路赤十字病院、北見赤十字病院、市立札幌病院、米国イェール大学、北大病院を経て、2015年より現職。慢性腎臓病や多発性嚢胞腎の分野で、市民講座・出前講座による指導や病診連携に尽力している。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医。

慢性腎臓病まんせいじんぞうびょう(CKD)の進行を遅らせて体調を良好に保つために有効なのが、食事療法です。慢性腎臓病の食事療法では、食事で摂取する塩分やたんぱく質の量を管理し、適正なエネルギーを確保することが大切です。

食事療法の中でも、慢性腎臓病患者さんが最優先で取り組むべきことは「減塩」です。減塩が必要になる最大の理由は、塩分のとりすぎが高血圧を招くためです。

食塩の主成分はナトリウムというミネラルです。ナトリウムは私たちの体にとって、水分量の調節や神経伝達をするうえで欠かせない物質です。ところが、塩分をとりすぎることで体内のナトリウム量が多くなると、体は濃度を一定に保とうとするため、血液中の水分量が増えます。すると、心臓は量が増えた血液を全身に届けるために圧力を強めて送り出します。これが、塩分の過剰摂取によって血圧が上昇するしくみです。

高血圧の状態が続くと、腎臓の内部にある毛細血管が傷つけられて腎臓の機能が低下します。その結果、血液中の不要な塩分を体外に排泄はいせつできなくなり、さらに高血圧が進む悪循環に陥ってしまうのです。

高血圧の悪循環を止めるためには、塩分のコントロールが必要です。病期にもよりますが、慢性腎臓病の患者さんは基本的に、1日の塩分摂取量を6㌘未満に抑えるようにしましょう。

塩分摂取量を抑えるためには、可能な限り外食を控えてください。外食のメニューや市販の総菜のほとんどは濃い味付けで、塩分が多く含まれています。腎臓病食は自宅で作るのが理想的です。

どうしても外食が避けられない場合の工夫として、メニューの選び方に注意しましょう。丼物やカレーライスなどの一品物ではなく、主菜と副菜をバランスよく頼むだけでも、食事に含まれている塩分の量は変わります。ラーメンやみそ汁の汁は残し、漬物などの塩分の多いものもとらないようにしてください。外食先のメニューに塩分表示がなくても、スマートフォンなどを活用すると栄養成分表を検索できます。おおよその塩分量を把握してからメニューを選びましょう。

市販の食品を購入するさいには、成分表示にあるナトリウム量を必ず確認するようにしてください。めんどうでも一つひとつすべての食品の成分表示を確認し、ナトリウム量がいちばん少ないものを選ぶことで、減塩に努めましょう。

注意してほしいのは、表示されているナトリウムの量は、塩分そのものの量ではないことです。ナトリウム量の数値を食塩量の数値に換算する方法を覚えておくと、スーパーマーケットなどで買い物をするときに役立ちます。

手軽に作れるメレンゲ泡しょうゆなどの減塩調味料やスパイスが食事療法の継続に有効

それでは、家庭で取り組むことができる具体的な減塩法をご紹介しましょう。味付けや調理のしかたにちょっとした工夫を取り入れることで、食事療法が継続しやすくなります。

調味料を使うさいには、塩分が多く含まれているしょうゆやみそ、ソースは控えましょう。コショウやトウガラシ、カレー粉、酢、レモンなどを上手に使うと、味の変化を楽しめます。

私のおすすめは、たくさんのスパイスを組み合わせた味付けです。タマネギやニンニク、パセリなどの香味野菜、ローズマリーやバジルなどのハーブ類、そしてコショウやマスタードシードなどの香辛料を組み合わせることで、塩分に頼らずに複雑な味を楽しめます。市販の「無塩スパイスミックス」を活用するなどして、手軽に調理に取り入れることができます。

天然のうまみ成分であるコンブやカツオ節から取ったダシも積極的に活用しましょう。コンブとカツオ節は、それぞれうまみ成分の種類が異なります。両方をあわせて使うことで、うまみの相乗効果が期待できます。ただし、継続しやすいかどうかを最優先に考えて、毎日の調理に取り入れやすいものを活用しましょう。市販の顆粒かりゅうダシは便利ですが、塩分が多く含まれるものが少なくないので注意してください。

どうしてもみそやしょうゆ、顆粒ダシを使いたい場合には、無塩や減塩のものを選ぶようにしましょう。塩分ゼロの「無塩みそ(みそ風調味料)」も市販されているので、使わない手はありません。もの足りなさを感じた場合は、好みに応じて減塩みそや少量の食塩を加えて使うことをおすすめします。また、市販の「しょうゆこうじ」は、塩分量が減塩しょうゆと同等であるだけでなく、麹のうまみ成分が入っているため、さまざまな料理に応用できる調味料です。

さらに、しょうゆやめんつゆといった塩分量の多い調味料を食事療法に取り入れる工夫についてお伝えしましょう。しょうゆにゼラチンを加え泡立てて作る「泡しょうゆ」が、メディアで取り上げられて話題になりました。液体よりも粘度の高い状態のほうが、舌の上に長く残り、少量でも塩気を感じやすくなるのです。

とはいえ、泡しょうゆはゼラチンを加熱して冷やしながら作る手間がかかるため、私はゼラチンの代わりに卵白を使う「メレンゲ泡しょうゆ」をおすすめします。メレンゲ泡しょうゆは、減塩しょうゆに卵白を加えて泡立てるだけで、常温で手軽に作ることができます。泡立て器やボウルがなくても、手軽に泡立てられる安価な調理器具が市販されているので、試してみてはいかがでしょうか。ただし、卵白を使用しているメレンゲ泡しょうゆは傷みやすいため、必ず2時間以内に使いきってください。

メレンゲ泡しょうゆが余ってしまったら、200℃のオーブンで5分焼いて「焼きメレンゲしょうゆ」にすると、当日中は日持ちさせることができます。メレンゲの焼き菓子のようにしっかりとした形で焼き上がりますが、柔らかい食感としょうゆの香ばしさが感じられます。食べるときは、焼きメレンゲしょうゆが舌に当たるように口の中に入れると、塩分を感じやすくなって満足感が高まります。

食事療法を継続するには、慢性腎臓病への理解を深め、病識(自分が病気であるという自覚)を持つことがとても大切です。いまは自覚症状がなくても、地道な努力を重ねて食事療法を前向きに続けることで、透析とうせき治療の導入を延ばすことは十分に可能です。私がている患者さんも、病識のある人ほど効果的な食事療法を長く続けることに成功しています。

慢性腎臓病の食事療法には、塩分だけでなく、たんぱく質やカリウム、リンなどの制限もあります。これらの制限は、病期や患者さんの状態に応じて変わります。慢性腎臓病の悪化を防ぐためによいとされている食事療法をやみくもに行うのではなく、医師と相談しながら自分にとって重要なものを厳選し、優先順位を正しくつけて行ってください。

たんぱく質制限中の慢性腎臓病患者さんは過剰な食事制限による栄養不足に注意が必要

たんぱく質やカリウムの摂取量は、病期に関係なく必要に応じて制限するとよいでしょう。例えば、カリウム摂取量の制限は、一般的にはステージG4以上になると導入されますが、血中のカリウム濃度が低ければ行う必要はありません。一方、ステージG3以下の患者さんでも、高カリウム血症の疑いがある場合にはカリウムの量を制限する必要があります。

また、透析を受けている患者さんが意識しているリンの制限は、透析導入前の保存期の患者さんにも同様に当てはまるわけではありません。リンはたんぱく質の豊富な食品に多く含まれているため、たんぱく質制限を行っている患者さんであれば意識しすぎる必要はないといえるでしょう。

腎臓病の食事療法で難しいのは、たんぱく質を制限しながら適正なエネルギーを確保することです。1日のエネルギー摂取量の目安は「標準体重(㌔㌘)×25~35㌔㌍」とされています。過剰な食事制限によって栄養不足に陥ると、体重や筋肉量が減るだけでなく、最も重要な抵抗力・免疫力が低下してしまいます。制限があるからといって単に食事量を減らすだけでなく、日常生活の活動量や体格に見合った適正なエネルギーを確保するようにしましょう。

柴崎跡也先生が診療されている国立病院機構北海道医療センターの連絡先は、〒063-0005 北海道札幌市西区山の手5条7-1-1 ☎011-611-8111です。

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