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脊柱管狭窄症の治療に有効!神経ブロック療法の長所・短所を痛みの専門医が解説

整形外科
はるみクリニック院長 中山 晴美

神経ブロック療法は痛みを軽減させながら血流の改善も促して組織の回復力を高める

[なかやま・はるみ]——茨城県生まれ。1992年、筑波大学医学専門学群卒業後、同大学附属病院の関連病院にて勤務。2002年、同大学大学院博士課程修了。医学博士。米国ハワイ大学生理学教室勤務を経て現職。整形外科、ペインクリニック、理学療法のみならず、漢方やアンチエイジング、美容分野にも取り組む。ペインクリニック認定医、麻酔科専門医。

私が院長を務めるはるみクリニックは、さまざまな疾患に伴って起こる〝痛み〟を治療する医療機関です。ペインクリニック(麻酔科)を中心に、痛みを訴える患者さんが多い整形外科も併設して、患者さんの治療にあたっています。

痛みを伴う整形外科領域の疾患の1つに、腰部脊柱管狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう(以下、脊柱管狭窄症と略す)があります。私たちの背骨は、椎骨ついこつと呼ばれる骨が24個積み重なってできています。椎骨どうしの間には椎間板ついかんばんという組織があり、クッションの役割を果たしています。椎骨の中には神経が通っている脊柱管があります。加齢をはじめ、さまざまな理由によって脊柱管が狭くなると、管の中を通る神経が圧迫されて痛みやしびれが起こるようになります。

脊柱管狭窄症の治療法として、薬物療法や手術の他に、麻酔科の専門医が行う神経ブロック療法が挙げられます。神経ブロック療法は、痛みを感じる神経の近くに麻酔薬を注入して、痛みが伝わる経路をブロック(遮断)する治療法です。

神経ブロック療法の作用は、痛みを感じさせる神経をマヒさせるだけと思われがちですが、痛みを伴う患部周辺の血流を促進させる作用もあります。脊柱管狭窄症など、慢性的な痛みに悩まされている患者さんは、自律神経の交感神経が過剰に緊張しています。交感神経の緊張は筋肉を収縮して血流の悪化を招くため、痛みが増幅しやすくなります。

中山院長は患者さんとの対話を重視して治療を行っている

神経ブロック療法には、交感神経の過剰な緊張を緩める作用があります。筋肉がほぐれて血流が改善されると、全身の細胞に酸素が行き渡るようになります。このように、神経ブロック療法には、痛みを直接的に軽減させるだけでなく、血流の改善によって組織の回復力を促す利点もあるのです。

私たちの全身には、神経が網の目のように広がっています。脊柱管の中には神経の束が通り、腰、臀部でんぶ、太もも、足先へと、細かい神経が枝分かれして伸びています。神経ブロック療法は、痛みやしびれの部位や範囲によって、治療の選択肢が異なります。太ももや足先など、特定の部位に痛みやしびれを感じる患者さんには、ピンポイントで麻酔薬を注射する「トリガーポイント注射」を行います。局所的に筋肉の緊張を緩め、滞っていた血流を促進させることで、痛みの軽減が期待できます。ただし、トリガーポイント注射は、痛みを発している特定の部位にのみ注射をするため、麻酔薬の効果が比較的短時間しか続かないという短所があります。

下半身の痛み・しびれには広範囲の神経に麻酔薬を行き渡らせる硬膜外ブロックが有効

硬膜外ブロック注射は脊柱管の中を通る脊髄を包む硬膜外腔に注射して麻酔液を注入する治療法。広範囲にわたって痛みの伝達を遮断することができる

下半身全体にわたって痛みやしびれを感じている脊柱管狭窄症の患者さんには、脊柱管の中を通る脊髄せきずいを包んでいる硬膜こうまくkに麻酔薬を注入することで、枝分かれした神経まで麻酔薬の効果を行き渡らせる「硬膜外ブロック注射」が有効です。硬膜外ブロック注射の具体的な治療法を説明しましょう。

硬膜外ブロック注射を受ける患者さんには、ベッドで横向き、あるいはうつぶせになってもらった後、局所麻酔の注射をします。硬膜外ブロック注射の針は太いため、注射時の痛みを軽減するために局所麻酔を行います。その後、椎骨と椎骨の間から注射針を入れ、硬膜外腔こうまくがいくうに麻酔薬を注入していきます。注射針の先で脊髄を傷つけないようにするには、豊富な治療経験に基づいた専門技術が必要です。医師の技術や患者さんの体質によっては、注射のさいにエコー(超音波)を使って椎骨の位置を確認しながら麻酔薬を注入することもあります。

痛みは知覚神経によって感じます。患者さんの痛みを取るためには知覚神経にだけ麻酔薬を注射すればいいのですが、硬膜外腔にある神経には知覚神経だけでなく運動神経や自律神経も通っています。そのため、硬膜外ブロック注射を受けてから1~3時間程度は、運動神経や自律神経(特に交感神経)にもマヒが見られます。硬膜外ブロック注射を受けた後は下半身がしびれたり、運動機能が鈍ったりするため、注射後、患者さんには安静にしていただきます。

硬膜外ブロック注射やトリガーポイント注射など、神経ブロック療法で用いる麻酔薬の持続時間は、理論的には1~3時間程度です。しかしながら、患者さんによっては一週間以上、さらに長期間にわたって効果を感じる人も少なくありません。患者さんの中には、神経ブロック療法を一度受けただけで、以後の注射が不要になった人もいるほど、神経ブロック療法の効果には個人差があります。

神経ブロック療法を受けた脊柱管狭窄症の患者さんたちの中から、「神経ブロック療法を受けたら足腰が温かくなった」という声がよく聞かれます。神経ブロック療法の血流改善作用によって酸素が細胞に行き渡ることで回復力が高まることも、神経ブロック療法の利点といえるでしょう。

神経ブロック療法の短所は、患者さんによっては治療そのものが受けられないという点です。例えば、ケガなどによって背骨の一部を切除し、治療用の金属が体の中に入っている方は、麻酔薬が硬膜に沿って流れない可能性もあるため、硬膜外ブロック注射は受けられません。また、糖尿病が進行して感染症のリスクが高い方も、体の深部に注射針を入れる治療を受けるさいは注意が必要です。その他、神経ブロック療法によって血流が改善すると、血圧が急降下するおそれのある方は、必ず医師に相談しましょう。

神経ブロック療法は、ペインクリニックや麻酔科がある医療機関で受けることができます。痛みの程度には個人差があるので、医師と相談しながら自分に合った治療法を選ぶといいでしょう。

中山晴美先生が診療されているはるみクリニックの連絡先は、〒340-0822 埼玉県八潮市大瀬1-1-3 フレスポ八潮2F ☎048-994-5510です。
この記事は「健康365」2019年11月号に掲載されています。