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高齢者の二大関節症はひざ・股関節で末期股関節症患者の約8割がひざ痛を合併と判明

整形外科

黒河内病院院長/北里大学整形外科助教 森谷 光俊

変形性ひざ・股関節症は寝たきりのリスクを高める疾患で軟骨がすり減って痛みが発生

[もりや・みつとし]——1978年、埼玉県生まれ。医学博士。2003年、藤田医科大学卒業後、北里大学医学部整形外科入局。2010年、北里大学医学部整形外科学助教、2019年より現職。相模原市病院協会理事、相模原市医師会理事、公益財団法人日本テニス協会医事委員会常任委員、東京2020オリンピックテニス競技選手対応ドクター、2024テニス日本ナショナルチームメディカルサポートドクター。

高齢社会を迎えた日本において、社会的問題となっているのが運動器症候群(ロコモティブシンドローム。以下、ロコモと略す)です。ロコモはケガや病気、加齢によって体の動きに関わる骨や関節、筋肉、靭帯などの運動器が衰え、立ったり歩いたりする機能が低下している状態をいいます。進行すると要支援・要介護になるリスクが高まり、寝たきりを招くおそれもあります。

ロコモの一つとして知られるのが、関節が変形して激しい痛みを伴う変形性関節症です。その中でも「変形性ひざ関節症」と「変形性股関節症」は、高齢者の行動範囲を狭くする〝二大関節症〟というべき疾患です。

現在、変形性ひざ関節症の患者数は約1800万人、変形性股関節症は120万~510万人に上るとされ、今後も増えると考えられています。

変形性ひざ関節症は、ひざの関節軟骨がすり減り、関節の炎症や変形が生じることで違和感や痛みが起こります。関節に炎症が起こる原因として加齢や肥満、遺伝などの危険因子が報告されています。

もう一つの変形性股関節症は、股関節の関節軟骨がすり減ることで起こる関節症です。主な原因は股関節の形態異常や老化現象で、股関節の軟骨がすり減って痛みや炎症が生じます。

私が院長を務める黒河内病院には、ひざや股関節の痛みに悩まされている患者さんが多く来院されます。私は、股関節の専門医として、一人ひとりの患者さんに真摯に向き合うように心がけています。診療の中で痛感するのが、変形性股関節症の患者さんの中に、股関節のみならずひざの痛みも訴える患者さんが多いことです。

一般的に、変形性股関節症患者さんの約40~50%が変形性ひざ関節症を合併しているといわれています。当院を受診する変形性股関節症の患者さんの場合は、約7割の方がひざ関節の痛みを訴えています。

大学で行われた調査で股関節症の約8割にひざ痛が合併し6割以上が中等度以上

変形性股関節症と変形性ひざ関節症の合併に関して、私が所属している北里大学が行った調査があります。調査の対象は、2008年11月から2011年10月までで、北里大学で人工関節手術が行われる予定だった末期の変形性股関節症患者さんです。中でも、手術前日に痛みや運動機能の測定ができる117名(女性105名、男性12名)を対象としました。

ひざ関節と股関節の痛みに関しては、動かした時の痛みを10段階で評価し、痛みがない時を0、最大の痛みを10としました。調査の結果、ひざ関節に痛みのある変形性股関節症の患者さんは77.8%もいることが判明し、3.0以上の中等度の痛みがある人は42.7%、5.4以上の重度の痛みがある人は23.1%に上りました。病期が末期だったこともありますが、変形性股関節症の患者さんの約8割にひざ関節の痛みが認められたのは驚くべき事実といえます。

進行度にもよりますが、私はひざ関節と股関節の痛みを合併している患者さんには、基本的に最初に股関節の治療を行うように伝えています。実際に、股関節の治療を行うだけでひざの痛みが軽減したと喜ばれる方は少なくありません。変形性関節症は、早期発見・治療を行うことで、治療の質が高まります。股関節もしくはひざ関節に痛みがある人は主治医と相談し、もう一方の部位の検査を怠らないようにしましょう。