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新型コロナウイルス肺炎は間質性肺炎!

呼吸器科

岐阜大学科学研究基盤センター共同研究講座抗酸化研究部門特任教授 犬房 春彦

治療法が未確立である新型コロナウイルスの感染対策は免疫力増強で酸化ストレスがカギ

[いぬふさ・はるひこ]——1982年、近畿大学医学部卒業。同大学医学部大学院外科学系専攻修了。医学博士。同大学講師、臨床医学部門・臨床栄養学教授、ストラスブール大学欧州テレサージェリー研究所客員教授、バルセロナ大学外科学教室客員教授、近畿大学医学部先端医療・医療経済対策室室長などを経て、2013年11月より現職。日本認知症予防学会エビデンス創出委員会実行委員、日本消化器病学会評議員(東海地区)、日本内視鏡外科学会会員。

新型コロナウイルス感染症に対する不安が世界中で広がっています。ワクチンや新薬の開発が急ピッチで進められているものの、有効な治療法は確立されていません。そのため、現時点において新型コロナウイルスに対抗するには、私たちの体に備わっている免疫力を最大限に発揮させることが求められます。

免疫力を高めるうえで欠かせないキーワードが「酸化ストレス」です。酸化ストレスとは、体の酸化を促進する活性酸素(酸化作用の強い酸素)と酸化を抑える抗酸化作用のバランスがくずれた状態のことです。体の中で活性酸素が増えて酸化ストレスが上昇すると、免疫力は低下します。反対に、抗酸化作用によって活性酸素を抑えると、酸化ストレスが低下して免疫力を高めることができます。

呼吸によって取り込まれた酸素の一部が変化することで作られる活性酸素は、体内に侵入した細菌やウイルスを退治する役割があります。その一方で、過剰に増えると全身の細胞を傷つけてしまうのです。

活性酸素は「スーパーオキシド」「ヒドロキシルラジカル」「過酸化水素」「一重項酸素」の四種類に分けられます。中でもスーパーオキシドとヒドロキシルラジカルは、不対電子(フリーラジカル)を持つ化学的に非常に不安定な物質で、極めて強い酸化作用を持っています。

最近では、新型コロナウイルスの感染を防ぐために、「()()(えん)()(さん)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。過酸化水素や次亜塩素酸は、免疫の(かなめ)である白血球によって細菌やウイルスを撃退するときに作られる物質です。そのほか、傷口の消毒に使用するオキシドールや塩素系漂白剤の次亜塩素酸ナトリウムも、白血球が作り出す活性酸素と同じような働きをします。これらには適量であれば優れた消毒効果があるものの、過剰に使うと私たちの体に悪影響を及ぼすので注意が必要です。

過酸化水素や次亜塩素酸が白血球から過剰に作られると、細菌やウイルスだけでなく、正常な細胞も傷つけてしまうのです。

体内の過剰な活性酸素を抑えるために働くのが抗酸化作用です。抗酸化作用を発揮する代表的な抗酸化物質には、スーパーオキシドディスムターゼやカタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼといった体内で作られる抗酸化酵素に加え、ビタミンCやビタミンE、カロテノイド類、カテキン類など食事からとる抗酸化物質があります。

健康な体では正しく抗酸化作用が働きますが、加齢や病気によって抗酸化作用が低下すると、体内で活性酸素が過剰に増えてしまいます。その結果、酸化ストレスが上昇して免疫力が低下してしまうのです。

新型コロナウイルスによる肺炎は間質性肺炎で酸化ストレスの上昇による肺の線維化が原因

新型コロナウイルス感染症の特徴として、高齢者に重症患者が多いことが挙げられます。高齢者は加齢とともに酸化ストレスが上昇するだけでなく、(のう)(こう)(そく)や糖尿病、高血圧などの基礎疾患を抱えていることが多く、酸化ストレスの高い状態が長期間にわたって続いています。酸化ストレスが高い状態は、ウイルスに対抗する免疫力を下げてしまうため、感染後に重症化しやすくなるのです。

新型コロナウイルスの感染や感染後の重症化を防ぐためには、酸化ストレスを下げることが必要不可欠です。酸化ストレスが低下すると、細胞や組織の炎症が抑えられ、白血球が正常に働くようになるからです。

新型コロナウイルスの正体は不明な点が多いものの、『健康365』の読者の皆さんには、「新型コロナウイルス肺炎は(かん)(しつ)(せい)(はい)(えん)である」ことをお伝えしたいと思います。間質性肺炎は肺の間質組織に(せん)()()が起こる難治性の肺疾患で、有効な治療法がないことから日本では難病に指定されています。現在、間質性肺炎の患者さんが受けられる治療は、ステロイド剤によって炎症を抑えるくらいしかありません。

犬房教授は「新型コロナウイルス肺炎は間質性肺炎」という新見解をユーチューブでも発信している

新型コロナウイルスによる肺炎のCT画像の特徴は、背中側の肺の()(よう)周辺に、間質性肺炎と同様の線維化の症状が見られる点です。肺はおなか側と背中側に分けることができます。あおむけに寝る人がほとんどのため、背中側は重力によって血液が多く流れていると考えられています。また、(じょう)(よう)(ちゅう)(よう)・下葉(右肺。左肺は上葉・下葉)に分けることができる肺は、重力の関係で中葉・下葉に血液が多く流れています。そのため、血液が多く流れている背中側の肺の下葉には、白血球が多く存在しています。酸化ストレスが上昇した体は白血球が傷ついているため、肺の下葉で活性酸素が多く発生します。その結果、肺胞が線維化を起こし、間質性肺炎を発症してしまうのです。上の画像の患者さんの場合、新型コロナウイルスの影響もありますが、感染による酸化ストレスの上昇が間質性肺炎を招いたともいえるでしょう。

間質性肺炎の予防・改善には、何よりも酸化ストレスを低下させることが大切です。万が一、新型コロナウイルスに感染しても重症化を防ぐために、酸化ストレスを意識した生活習慣を送りましょう。今回の記事では、私が提案する「(いぬ)(ふさ)式抗酸化生活」をご紹介します。

タバコに含まれる70種類以上の有害物質は酸化ストレスを著しく上昇させる

体内で酸化作用と抗酸化作用のバランスが乱れて酸化ストレスが上昇すると、主に白血球から過剰に活性酸素が発生。正常な細胞や組織を傷つけて、免疫力の低下のみならず、肺疾患やがんを引き起こす

禁酒
お酒に含まれるアルコールは、肝臓で()(どく)されます。しかし、解毒される際に作られるのが「アセトアルデヒド」です。発がん性があるアセトアルデヒドは、二日酔いや(がん)(めん)(こう)(ちょう)の原因になる物質で、酸化ストレスを急上昇させます。

沈黙の臓器といわれる肝臓は、強い酸化ストレスにさらされても自覚症状が現れません。しかし、過度の飲酒や過食によって作られる酸化ストレスは、肝臓の細胞を傷つけて線維化を引き起こし、確実に肝臓を(むしば)んでいきます。酸化ストレスにまみれた肝臓は肝炎から(かん)(こう)(へん)、肝不全と進行し、肝がんに至ることも少なくないのです。

お酒を飲むときは水を補給しましょう。なぜなら、アルコールを肝臓で解毒する際には、水が大量に必要になるからです。もし、水が足りない状態でアルコールをとりつづけると肝臓での解毒が追いつかず、大量のアセトアルデヒドが作られてしまいます。その結果、酸化ストレスが上昇して、肝臓の細胞が傷ついてしまうのです。お酒を飲むときは水が入ったグラスを用意して適量を楽しみましょう。

禁煙
タバコの有害物質として挙げられるのが、血流の悪化によって動脈硬化を促進させるニコチンやヤニの原因となるタール、酸素不足を起こす一酸化炭素です。タバコにはニコチンやタール以外に70種類以上もの有害物質が含まれています。その中で最も酸化ストレスを上昇させる有害物質が「アセトアルデヒド」なのです。

アセトアルデヒドはタバコの中に含まれるだけでなく、タバコに含まれる有害物質を吸収した(こう)(くう)(ない)にある()(えき)(せん)からも(ぶん)(ぴつ)されます。唾液に含まれるアセトアルデヒドは、飲み込まれることで食道や胃を傷つけたり、吸収されたりすることで全身のがんの危険度を高めます。タバコをやめるだけで酸化ストレスは低下し、がんの予防や肺機能の悪化を防ぐことにつながります。

糖質制限
高血糖とは、エネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)が血液中で大量に余っている状態です。私たちが活動する際に必要なエネルギーは、(さい)(ぼう)(ない)(しょう)()(かん)の1つであるミトコンドリアが呼吸から得た酸素を用いて食事からとった栄養素を燃焼させることで作られます。この働きを(たい)(しゃといいます。しかしながら、グルコースはエネルギーに速く変換されるため、過剰に存在するとミトコンドリアの役割が減って代謝が低下することが分かっています。

その結果、ミトコンドリアが代謝してエネルギーに変換するはずだった酸素が細胞内に大量に余るようになります。過剰になった酸素は活性酸素となり、酸化ストレスが上昇して正常な細胞を傷つけるのです。すでに糖尿病や肥満の人は特に注意が必要です。

糖尿病や肥満を改善するには、糖質を制限したり、運動したりするといいでしょう。「食習慣は個人の歴史を表す」といわれるように、すぐに改めるのは難しいものです。例えば、ご飯を1日3杯から2杯に減らすなど、小さな試みを続けることで酸化ストレスを下げることができます。

犬房式抗酸化生活で酸化ストレスを下げることができ肺機能の維持に役立つ

精神的ストレスの軽減
精神的なストレスを受けた体は、防御反応として筋肉を収縮させて緊張状態となります。このとき、抗ストレスホルモンの一種であるコルチゾールが(ふく)(じん)から分泌され、血管が収縮して血液の少ない虚血状態となります。その後、緊張から解放されて血流が改善すると、大量の活性酸素が発生します。その結果、酸化ストレスが上昇し、正常な細胞を傷つけてしまうのです。

肺疾患をはじめ、さまざまな疾患を抱える患者さんは精神的ストレスをためやすい環境にあります。趣味を楽しんだり、気分転換を上手に図ったりして、らくな気持ちで過ごせるように努めましょう。精神的ストレスの軽減は、酸化ストレスの低下に大いに役立ちます。

体温の上昇
低体温は万病の元といわれるように、血流が悪化すると体の細胞に酸素や栄養素が届かなくなり、組織が正常に働かなくなります。その結果、免疫力が低下して病気が起こりやすくなります。

体を温める方法として、カイロや湯たんぽを使う人は少なくはありません。カイロや湯たんぽを使うときは、体の冷えている部位に当てるのではなく、背中や腰に当てることが大切です。

冷えている部分にカイロや湯たんぽを当てても血流は大きく改善しませんが、背中や腰に当てると心臓から全身に血液を送る大動脈が温められます。温められて血流がよくなった大動脈から血液がスムーズに送られるようになるため、全身の細胞に酸素と栄養素が届けられるのです。

酸化ストレスを下げて免疫力を上げることは、新型コロナウイルスの感染による肺炎を防ぐだけでなく、さまざまな病気から身を守ることにつながります。今日から早速、犬房式抗酸化生活を実践して病気に打ち()つ体を手に入れましょう。