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心筋梗塞・狭心症は早期発見が大切で胸痛や肩・背中・腕に現れる放散痛が危険サイン

呼吸器科

しながわ内科・循環器クリニック院長 品川 弥人

心筋梗塞や狭心症は心臓にある冠動脈の動脈硬化により発症し早期発見・治療が大切

[しながわ・ひさひと]——1974年、東京都生まれ。2000年、北里大学医学部卒業。北里大学病院内科、沼津市立病院循環器内科、竹田綜合病院循環器内科勤務を経て、2006年に北里大学医学部循環器内科学教室助教。 2012年、ドイツヴュルツブルク大学心不全センターに留学。2015年より現職。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器内科専門医。日本内科学会、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本心不全学会に所属。

心臓の壁は心筋という筋肉で構成され、収縮と拡張によるポンプ機能で全身に血液を送り出しています。心不全は心臓に異常が生じてポンプ機能が低下し、循環不全となった状態です。心不全を引き起こす疾患として多いのが、虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)です。

虚血性心疾患は、心筋に酸素と栄養を供給している冠動脈(かんどうみゃく)に動脈硬化(動脈の老化)が起こって発症する疾患の総称です。冠動脈は心臓に酸素や栄養を送るための血管で、主に三本の枝からなっています。生活習慣病をはじめとするさまざまな原因によって冠動脈が狭くなったり(狭窄(きょうさく))血管が詰まって閉塞(へいそく)したりすることで虚血性心疾患が発症します。冠動脈の狭窄や閉塞を引き起こす主な原因こそ動脈硬化です。

動脈硬化が進行すると、傷ついた血管壁の中にコレステロールなどの脂質成分が蓄積して血管の内側が隆起してしまいます。血管壁の中にできた隆起はプラークと呼ばれ、進行すると血管が狭くなり、血液の流れが悪くなります。この状態で激しく動いた時などに血液が不足して心臓が酸欠状態になると、胸に痛みが生じる「狭心症」が起こります。

さらに病状が進行してプラークが破れると、患部に血液成分の一つである血小板が集まります。血小板は破れたプラークから漏れ出た脂質成分と反応し、血管内に血栓(けっせん)という血液の(かたまり)を作ります。血栓によって冠動脈が完全にふさがり、血流が途絶えて心筋の細胞が壊死(えし)してしまった状態が「急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)」です。一方で、多少の血流が維持されているものの、血管が詰まりかけて心筋梗塞に移行しやすい危険な状態を「不安定狭心症」と呼びます。急性心筋梗塞が起こると、脈のリズムが乱れる「不整脈」や、心筋の壊死によって心不全が引き起こされることもあります。

急性心筋梗塞は、早期に異変を察知してできるだけ早く治療を受けることで救命率が上がります。通常、急性心筋梗塞の治療は冠動脈の血流改善を目的として行われ、主なものとして「カテーテル治療」「バイパス手術」「薬物療法」があります。

カテーテル治療は、カテーテルという管を使った心臓の治療法です。カテーテルを手や脚の動脈から挿入して心臓の冠動脈の入り口まで到達させ、ガイドワイヤーを血管の狭窄している部分に通過させます。先に通過させたガイドワイヤーに沿ってバルーンという器具を血管が狭窄している部分に送り、膨らませて内側から広げます。必要に応じて血栓を除去し、バルーンで広げた病変部位に、ステントと呼ばれる金属でできた網状の筒を留置して再び血管が狭くならないように処置をします。

カテーテル治療はバイパス手術に比べて患者さんの体にかかる負担が少なくすむ利点があり、軽症の患者さんや、体への負担をできるだけ減らしたい高齢の患者さんにすすめられます。

バイパス手術は、狭窄や閉塞が見られる血管の代替として別の部位の血管を使って新しい血液の通り道を作る治療法です。体への負担が増す欠点はありますが、カテーテル治療が困難な場合や治療箇所が複数ある場合に有効な治療法です。

急性心筋梗塞の入院後や狭心症などでは、医師の指導のもとに薬物療法が行われます。抗血小板薬をはじめとした治療薬を用いながら、総合的な見地から治療が行われていきます。

虚血性心疾患の典型的な症状として、胸の広範囲の圧迫されるような痛みが挙げられます。狭心症の場合、労作(ろうさ)によって増悪し、安静にすると治まるのが特徴です。心筋梗塞の痛みは20分以上続くことが多く、時には数時間に及んで冷や汗や吐き気、意識が遠のくこともあります。

心臓の機能維持には胸の痛みと放散痛に要注意で運動習慣が早期発見につながる

心臓に病変があっても、胸の痛みと同時に首や背中、左肩から腕にかけて「放散痛」と呼ばれる痛みが起こることもあります。心臓以外の部位に痛みが起こる理由は〝神経の勘違い〟です。心臓の神経が脳に痛みの信号を伝える際、同じ神経の経路を使っている肩やあご、腕の神経に痛みの情報を送ってしまい、痛みとして認識されることがあります。胸だけでなく肩や腕、あごに痛みを感じた場合は、なんらかの心疾患を警戒して専門医を受診しましょう。胸の痛みや放散痛は虚血性心疾患の特徴的な症状ですが、糖尿病の患者さんは合併症の神経障害によって痛みに気づかないこと(無痛性心筋虚血)があるので注意しましょう。

また、虚血性心疾患は心臓の活動中に血液が不足することで痛みが生じるため、活動頻度が少ない高齢者は症状に気づかない場合も少なくありません。変形性関節症などで痛みがある高齢者は行動を制限しがちですが、散歩程度の運動を定期的に行って心臓の変化を見落とさないようにしましょう。運動は、虚血性心疾患の予防にもつながるので、無理のない範囲で取り組むようにしてください。

虚血性心疾患の最大原因といえる動脈硬化は、高血圧や糖尿病といった生活習慣病によって進行します。夏は脱水症状を抑えようと塩分を摂取する人も少なくありませんが、心臓を守るためにも過度な塩分摂取は控えましょう。生活習慣病の治療を受けている人は、「自覚症状がないから大丈夫」と甘く見ずに、心臓病の発症を防ぐためにも生活習慣病の治療を怠らないようにしてください。