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においは病気を知らせる重大サインで歯周病の出血・腫れがない口臭はCOPDの危険大

歯科

中城歯科医院院長 中城 基雄

5000人を超える口臭治療の経験から大病の前兆としての口臭に警鐘を鳴らす

[なかじょう・もとお]——神奈川県生まれ。東京歯科大学卒業。日本大学大学院歯科放射線学教室にて歯学博士取得後、神奈川県横浜市で中城歯科医院を開院。2003年、鍼灸師の国家資格を取得。東洋医学の知識も駆使する口臭治療専門の歯科医として多数のメディアで活躍。日本口臭学会認定医。近著に『スマホがあなたをブスにする 歯科医師が教える1日3分でキレイを保つ方法』(大和出版)。

私は口臭治療専門の歯科医師として、15年間で5000人以上の患者さんを診察してきました。従来の歯科医学に東洋医学を取り入れた独自の治療法で口臭の治療経験を重ねるうちに、「口臭は全身の状態を示すサイン」「大病の早期発見に役立つ体からのメッセージ」と実感するようになりました。

コロナ()を機に、私の歯科医院では口臭治療に遠隔治療を取り入れるようになりました。患者さんは自宅で専用の臭気袋に息を吹き込んだ後、密封して臭気を閉じ込めたまま医院まで返送します。私は届いた袋を開封した後、専用機器による分析も踏まえて、におい物質の有無と種類を測定し、漢方薬の処方や生活習慣の改善といった治療方針を患者さんに伝えます。この間の過程をすべてノーカットで動画に収録して患者さんに見せることで、遠隔でも十分な信頼関係を築けると実感しています。

診断と治療はすべて遠隔で行うため、患者さんは医院まで足を運ぶ必要はありません。口臭治療は家族や友人などに知られることなく治療を望む人が少なくありません。現在、多くの医療機関で遠隔治療が行われていますが、口臭治療ほど患者さんのニーズに合った領域はないと思います。

私は歯科医師ゆえ、治療領域は原則として口腔(こうくう)領域に限られます。しかしながら、口臭を治療することで全身の体調が整い、口臭のみならずさまざまな不調まで改善したと喜ばれる人がとても多いのです。私の信念といえる「口臭は体からのメッセージ」という考えは、5000人以上の患者さんから教えていただいた事実といえます。

さらに私の医院では、口臭治療の過程において、本人は気づかなかった疾患の早期発見につながった例も少なくありません。今回は肺の特集ということで、印象的な患者さんの例をご紹介します。

Aさん(50代・男性)は強い口臭に悩み、解決を図るために懸命な努力を重ねていました。しかしながら口臭が改善しなかったAさんは、私の医院で治療を受けることを希望されました。Aさんに息を吐いてもらうと、私は口臭の原因が「炎症臭」にあると感じました。炎症臭とは私が口臭用語として使っている造語の一つで、なんらかの炎症反応が原因で起こる不快なにおいを指します。

中高年の口臭としてよく見られるのが、歯周病(ししゅうびょう)歯肉炎(しにくえん)による炎症性の口臭です。歯周病は、歯と歯茎(はぐき)(歯肉)の間でプラーク(歯垢(しこう))が原因で増殖した細菌に感染することで起こります。歯周病の初期に見られるのが歯肉炎で、歯茎の()れや出血が主な特徴です。歯周炎は糖尿病の患者さんに合併しやすく、心疾患や脳血管障害との関連も指摘されています。

炎症性の口臭を調べた場合、通常はメチルメルカプタンというにおい物質が高い数値を示します。メチルメルカプタンは「血なまぐさい」においが特徴のにおい物質で、(うみ)を伴うと「金魚鉢や水槽のにおい」を思わせる不快なにおいを放ちます。

「炎症臭」を発端に呼吸器内科の診察でCOPDと分かり早期発見がかなった

Aさんの吐息をかいだ私は、歯周病や歯肉炎による口臭(炎症性口臭)を疑いました。ところが、Aさんの口の中をていねいに調べても、歯茎の炎症は見られません。私は歯周ポケットの深さや出血傾向、歯の動揺度に問題がなく、歯周病を疑う余地がない患者さんにはCOPD(シーオーピーデイー)慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん))を疑います。そこで私はAさんに呼吸器内科を紹介し、診察をすすめました。

後日、Aさんから報告を受けた呼吸器内科での診察結果は、私の見立てどおりの内容でした。AさんはCOPDを発症していることが分かったのです。

Aさんは、私の診察を受けた段階では息苦しさや呼吸苦といったCOPDの自覚症状がありませんでした。そのため、COPDという診断は予想外だったそうですが、現実としてCOPDを発症していたのです。

COPDは現在の医学でも完治させることが難しい疾患の一つですが、口臭がもたらした早期発見によって治療に取り組むことができたAさんは、肺機能の低下に悩まされることなく元気に過ごされています。口臭によってCOPDの発症を早期に発見し、肺機能を維持しているAさんの例こそ、「口臭は万病を知らせてくれる体からの重大サイン」という私の思いを顕著に示した例といえるでしょう。

東洋医学では、各臓器の機能低下に伴って臓器ごとに異なる臭気が起こる「五香」の考えがある

私は歯科医師のみならず、漢方をはじめとする東洋医学や鍼灸(しんきゅう)の知識を習得しています。東洋医学の世界では、体の役割を五つの臓器別に分類した「五臓(ごぞう)(肝・心・()・肺・(じん))」の考えがあります。さらに、これらの五つの臓器それぞれに負荷がかかることで発生する臭気を「五香(ごこう)」と呼び、西洋医学との整合性も取れています。

一般的にCOPDは喫煙習慣の長い人ほど発症しやすくなりますが、肺の機能は健康な人でも加齢によって徐々に衰えていくため、機能が低下しても「年のせい」と思って実感しにくいものです。そのため、COPDは早期発見・早期治療が肺機能を維持するためのカギとなります。喫煙習慣がある、もしくは過去にあった人はもちろん、家族や知人に「いつもと違うにおい」を感じたら、肺の病気を疑って呼吸器内科で検査を受けるといいでしょう。