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“緊張と脱力”で血管を強化! 心筋・脳梗塞を防ぐ「杉岡式・7つの習慣と運動法」

循環器科

すぎおかクリニック院長 杉岡 充爾

心筋梗塞の発症後は心臓リハビリが大切で日常生活の中でかかる心臓への負荷に要注意

[すぎおか・じゅうじ]——1965年、千葉県生まれ。千葉大学医学部卒業。医学博士。千葉県船橋市立医療センターにて、心筋梗塞をはじめとする救急医療に約20年間携わる。2014年の開業後は、未病の前段階にあたる「潜病」の重要性を提唱。独自の視点で医療・健康情報を発信するYouTubeチャンネル『Dr. 杉岡のスーパー健康サポートTV』も人気。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、日本心血管インターベーション治療学会専門医。

ここからは実践編として、心臓病の大敵といえる「血栓(けっせん)」「動脈硬化」を防ぐ生活習慣と運動をご紹介していきます。前回の記事で解説したように、動脈硬化は心臓の冠動(かんどう)(みゃく)の血流を悪くして、心筋梗塞(しんきんこうそく)(きょう)(しん)(しょう)のリスクを高めます。さらに夏は、水分不足から下肢(かし)を中心として血管に血栓ができやすくなっています。

新しい生活習慣を実践する前に、まずはあなたの心臓が健康かどうかを簡単にチェックできる方法をご紹介しましょう。これは欧州心臓病学会(ESC)で報告された方法で、「1階から4階までの階段を1分以内に上ることができるかどうか」を調べて心臓の健康度を確かめるものです。この方法は、冠動脈疾患の既往のある人と疑われる人(計165人)を対象に、METs(代謝当量。身体活動の強度を示す単位)と運動負荷試験の結果との関係を分析して導き出されました。階段を上るだけで心臓が健康かどうかを確かめられるので、ぜひ試してみてください。階段を昇るのに1分半以上かかった人や、4階まで上れなかった人は、心臓病の可能性もあるので注意しましょう。

続いて、私が患者さんに提案している「血栓を作らない7つの習慣」をご紹介します。

①食生活を見直す
高血圧や高血糖、脂質異常といった生活習慣病に関する症状は、動脈硬化を引き起こす大きな要因です。まずは、油や塩分のとりすぎを控えることから始めましょう。また、糖質を多くとりすぎると膵臓(すいぞう)からインスリンが多く分泌(ぶんぴつ)されて、血栓の原因の一つである血管の炎症を引き起こします。

生活習慣病を防ぐ食生活の基本は「野菜を多くとること」ですが、多くの種類の野菜をバランス良く食べることが大切です。私が「レインボーダイエット」と呼んでいる、緑・黄・赤・オレンジ・白・茶色など、さまざまな色の野菜を食べることで、異なる栄養素をまんべんなくとることができます。

②アクティブになる
先の記事でも挙げたエコノミークラス症候群は、飛行機のエコノミークラスなど、狭い座席に長時間座って足を動かさないことで血栓ができやすくなる症状を表した言葉です。飛行機の狭い座席のみならず、ご高齢の方の中には、外出はもちろん、部屋からもあまり出ない生活を送っている人がいるかもしれません。血栓を防ぐために可能な範囲でアクティブになりましょう。

③禁煙をする
タバコには多くの有害物質が含まれているため、血管にダメージを与えます。動脈硬化を防ぐために、禁煙は必須といえます。喫煙によって快楽を得られるかもしれませんが、健康やそれに伴う幸せは得られません。

④ターメリックをとる
動脈硬化を防ぐためにおすすめしたい食材が「ターメリック」です。ショウガ科のターメリックはウコンともいわれ、主に料理のスパイスとして用いられます。ターメリックには抗血栓・抗凝固作用のあることが学術論文で報告されています。

⑤ニンニクを食べる
万能食材といわれる「ニンニク」には、プラークの蓄積予防効果や体の炎症を抑える効果があるため血栓予防に役立ちます。ある研究では、毎日10㌘のニンニクを2ヵ月間食べることで血液が凝固しにくくなったと報告されています。

⑥ビタミンEをとる
血栓を防ぐためにとっておきたい栄養素が「ビタミンE」です。ビタミンEは数多くある栄養素の中でも抗凝固作用が強く、血管を拡張する効果も確認されています。ビタミンEは、ブロッコリーやホウレンソウ、アーモンド、アボカド、ヒマワリの種などの食べ物に多く含まれています。

⑦薬を替えてみる
経口避妊薬や一部の抗がん剤の中には、血栓が作られやすいものがあります。その薬が今、ほんとうに必要なのか、もしくは、同じ作用を持つ薬に血栓が作られにくいものはないか、主治医に相談するといいでしょう。

生活習慣の改善に続いて、自宅で簡単にできる運動法をご紹介します。血管の老化といえる動脈硬化を防ぐには、血管を拡張する働きがある「NO(一酸化窒素(いっさんかちっそ))」という物質を体内で出すことがポイントです。

私たちの動脈は通常、外膜・中膜・内膜の三層で構成されています。外膜は血管の外側を保護する層で、内膜の最も内側にあるのが内皮細胞(ないひさいぼう)です。血管は年齢とともに老化していきますが、動脈硬化は内皮細胞に炎症や障害が生じて起こります。

内皮細胞には血管の収縮と拡張を調節する役割があり、血管拡張物質であるNOを産生・放出して血管の緊張を緩める働きがあります。血管の拡張作用は放出されるNOの量に左右されるため、NOが不足すると血管は硬くなり、動脈硬化が進みます。つまり、NOが十分に放出されると血管が柔軟になりやすくなるのです。

動脈硬化を防ぐには血流スピードを変えて一酸化窒素を出すことが良く血圧計も活用できる

NOは「血流のスピードが変わった時」に放出されます。そのため、血流のスピードを意識して変えることで、十分な量のNOが放出されるようになります。次にご紹介する体操は、無理なくNOを出すことができるシンプルなものですが、その効果は抜群です。

緊張・脱力体操
私が「緊張・脱力体操」と呼んでいる体操は、体の一部もしくは全身を緊張・脱力させることで血管の収縮と拡張を促します。例えば、両肩を上げたまま10秒間ほど姿勢を維持した後、一気に〝ストン〟と落としてみましょう。肩が軽くなった気がしませんか? これは、血管の収縮と拡張によって血流スピードが変わり、NOが出たからです。緊張・脱力体操は、まずは肩から始めて、慣れてきたら全身の緊張と脱力に挑戦してみましょう。

血圧計を使った緊張と脱力
市販の血圧計の中で最も一般的なものが、腕帯を上腕部に巻いて計測するタイプです。血圧を測定する際は上腕部を締め付けた後に緩ませますが、その過程において血流のスピードが変化し、NOが産生されます。「血圧計を買っても測定がめんどうで使っていない」という人は、動脈硬化を防ぐ目的で血圧を測定するのもいいでしょう。

筋肉をほぐすストレッチ
太ももやお(しり)など、筋肉量が多い部位をほぐしましょう。筋肉が柔らかくなると血管にかかる圧が減り、血液の流れが良くなります。また、ふくらはぎは〝第二の心臓〟といわれるように、下肢(かし)の血液を心臓に戻す際のポンプ役を担っています。上のイラストにある「ふくらはぎストレッチ」で、ふくらはぎを伸ばして柔らかくしましょう。

現在、医療機関によっては、内皮細胞の機能が正常かどうかを調べる「FMD検査」という検査を受けることができます。ご紹介した生活習慣や運動法を実践しながら、定期的に内皮細胞の状態を調べてみるのもいいでしょう。