山形県立保健医療大学理事長・学長、東北大学名誉教授 上月 正博
心臓リハビリの実践で虚血性心疾患の死亡率や入院リスクが減少すると科学的に証明

弱った心臓が元気になる——。患者さんにとって、まさに夢のようなことが起こる方法をご存じでしょうか。私が取り組んでいる「東北大式心臓リハビリ(以下、心臓リハビリと略す)」は、急性冠症候群(狭心症や心筋梗塞)、慢性心不全、末梢動脈疾患、といった数多くの心臓病に対して、世界基準の医療技術評価で最高ランクの信頼が置けると認められています。
具体的な医学的根拠の1例をご紹介しましょう。米国のテイラーらのグループが、過去に発表された48編の前向き無作為割り付け試験をメタ解析と呼ばれる方法で分析した2004年の報告です。急性心筋梗塞や狭心症、冠動脈バイパス術後など虚血性心疾患の患者において、退院後3~6ヵ月にわたって外来で実施される心臓リハビリに参加した患者は、参加しなかった患者に比べ、あらゆる原因による総死亡率が20%減少、心疾患による死亡率が26%も減少すると分かっています。
心臓リハビリを行うと、血管が広がり、体のすみずみまで血液が行き届くようになります。血液の巡りがスムーズになった結果、心臓の負担が軽くなり、失われた活力が戻ってくるのです。
心臓リハビリを実践する際は、①いきいきウォーキング、②ゆるスクワット、③ゆっくり片足立ちの3つを習慣にするといいでしょう(イラスト参照)。
①いきいきウォーキング
心臓リハビリでなによりも大切なのが有酸素運動です。ウォーキングをする際は、毎日30分の有酸素運動を中強度で行うことで医学的根拠のある効果を体感できます。
いきいきウォーキングは、以下の点を注意して行うことが重要です。
●正面を見て視線を少し遠くに置く
●軽くこぶしを握り、腕を前後に大きく振る
●胸を張る
●背筋を伸ばす
●ひざを伸ばす
●かかとで着地し、爪先で蹴りだす
●歩幅はできるだけ大きくする
●息切れを起こさないようにする
いきいきウォーキングを実践する際に気をつけてほしいことが2つあります。1つは、生活の中で30分の歩行時間を新たに設けるのではなく、なんとなく毎日ダラダラ歩いている時間のうち、30分に相当する3000歩を、中強度の運動(いきいきウォーキング)に置き換えるということ。そして、もう1つは30分連続で歩きつづける必要はないことです。5分、10分と小分けにしてもかまわないので、1日の歩行時間の合計が30分になるようにしましょう。毎日積み重ねることで、着実に寿命を延ばすことができます。しかも、1日の通算歩行時間が長いほど効果が高くなるんです。

②ゆるスクワット
心臓リハビリの根幹である有酸素運動の効果を上げるために、軽い筋力トレーニングにも取り組みましょう。全身の筋肉のうち60~70%は下半身の筋肉で占められています。特に太ももは、さまざまな日常生活動作に関わる「大腿四頭筋」「ハムストリングス」といった大きな筋肉が集まっています。
ゆるスクワットのやり方は、次のとおりです。
①腰に手をあてて、足を肩幅に開いて立つ
②口からゆっくり息を吐きながら、五秒かけて軽くひざを曲げて腰を落とす
③腰を落としきったら、鼻からゆっくり息を吸いながら、5秒かけて①の姿勢に戻る
①~③を5~10回繰り返しましょう。目標は、朝・昼・晩の1日3回(合計3セット)です。注意点としては、運動中は息継ぎをし、決して息を止めないことです。
③ゆっくり片足立ち
片足立ちをすると、足や背中の骨のみならず、筋肉も鍛えられます。さらに、わずか1分間の片足立ちをするだけで、53分間もウォーキングした時と同じだけの骨負荷がかかることが分かっています。片足立ちをした際にふらつきがある人は、バランス感覚を養うことで転倒防止の効果も見込めます。骨の強度を上げることで骨粗鬆症の予防にもつながります。
ゆっくり片足立ちのやり方は、次のとおりです。
①右手でイスの背や手すりをつかみ、しっかりと両目をあけた状態で自然に立つ
②右足を床から5㌢ほど浮かせ、そのままの状態を1分間保つ
③左手でイスの背や手すりをつかみ、しっかりと両目をあけた状態で自然に立つ
④左足を床から5㌢ほど浮かせ、そのままの状態を1分間保つ
1セットとして、右足①~②と左足③~④を1回ずつ(合計2分間)行いましょう。目標は、朝・昼・晩の1日3回(合計3セット)です。習慣化するコツは、歯磨きや電話をしたりする時に〝ながら運動〟として行うといいでしょう。
心臓リハビリは、単なる機能回復の手段ではありません。生活習慣病や心臓病を予防・改善し、健康長寿へとつなげるための、安全かつ堅実な方法でもあるのです。心臓リハビリを実践することで、心臓病を患う前よりずっと元気になったと喜んでいる人がたくさんいらっしゃいます。心臓リハビリによって健康長寿をかなえる人が増えることに貢献できれば、これに勝る喜びはありません。