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[東北大式運動療法]で心筋梗塞の再発を阻止

循環器科

東北大学大学院医学系研究科内部障害学教授 上月 正博

心臓病の運動療法は継続が大切で疎かにすると再発リスクの軽減は期待できない

[こうづき・まさひろ]——1956年、山形県生まれ。医学博士。1981年、東北大学医学部卒業。同大学医学部第2内科、オーストラリア・メルボルン大学医学部内科招聘研究員、東北大学医学部附属病院助手・講師を経て、2000年より現職。国際腎臓リハビリテーション学会理事長、日本腎臓リハビリテーション学会前理事長。著書に『腎臓病は運動でよくなる!東北大学が考案した最強の「腎臓リハビリ」』、監修書に『心臓強化 病気を防ぎ克服する本』(ともにマキノ出版)など多数。

この記事では、循環器の治療分野で患者さんに指導される心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリと略す)の中から、エビデンス(科学的根拠)がある運動療法について解説します。

かつては狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)といった心臓病を患った患者さんは、心臓にかかる負担を減らすために運動は避け、安静第一とされてきました。

ところが、近年の研究によって、運動療法を実践することで心臓の機能を維持し、生存率も高まることが明らかになってきたのです。米国ミネソタ州で行われた研究では、運動療法に取り組むことで、心筋梗塞の再発率を28%も下げられることが判明しています。

運動療法で大切なのは、何よりも継続です。心臓リハビリは、手術の直後(急性期)から始まります。ところが、退院後(回復期)や退院後からしばらくたった後(維持期)は、運動療法の実践から遠ざかってしまう患者さんが少なくありません。すると、いくら服薬や食事の指導を守っていても、再発のリスクは軽減されないのです。

運動療法を継続すると筋肉量が増えるため、呼吸筋の機能や血管の拡張反応などが改善します。すると、酸素を取り込む能力や、末梢(まっしょう)血管の血流が向上します。その結果、心臓への負担軽減につながり、ひいては心機能の改善も期待できるのです。運動療法による再発リスク低下の効果は、運動療法を約半年継続してから出てきます。

心臓病に運動療法が有効であることは学術的にも認められていますが、実践にあたって無理は厳禁です。運動を行う日の体調はもちろん、翌日に疲れやむくみが残ったり、運動後の1週間以内に体重が2㌔以上増えたりした場合は心不全が悪化している可能性があります。その場合は運動を控えて、すぐに専門病院を受診してください。

心疾患の中でも、大動脈の血管壁が裂けてしまう大動(だいどう)(みゃく)解離(かいり)を発症した人は、血圧の管理が大切です。発症後3ヵ月以内は最大血圧が140㍉以上になると、再発の危険が高まります。不整脈がある人も、運動後の体調管理に注意しましょう。不整脈の頻度が運動後に減った場合は問題ありませんが、増えてしまうようなら控えましょう。

心臓リハビリの運動療法では、最初に運動負荷試験を行い、患者さんの体力や心臓の状態に応じた運動が指導されます。指導される運動は、大きく分けて有酸素運動と筋力トレーニング(以下、筋トレと略す)の二つです。心臓リハビリは専門家の指導のもとに行うだけでなく、医師や専門家と相談したうえで、患者さん自身が前向きに取り組むことが大切です。

患者さん自身で行う心臓リハビリの運動療法としては、ウォーキングがおすすめです。あごを引いて背すじを伸ばし、きれいな姿勢で歩きましょう。ひじを曲げて前後にしっかりと振り、全身の筋肉を意識して歩くとより効果的です。

ウォーキングの速さは、歩きながら軽く汗ばみ、息切れせずに会話が可能な「ニコニコ歩き」ができる程度が最適です。最初は10分前後から歩きはじめ、徐々に時間を延ばしていきましょう。目標は1日30~60分のウォーキングを週に3~5回行うことです。

筋トレは、まずは軽めに行いましょう。イラストで紹介しているように、もも上げや爪先(つまさき)立ち、足上げなどが最適です。下半身の筋肉が強化され、血液を送るポンプ作用の向上に役立ちます。筋トレを行っているときは息を止めず、自然な呼吸で行いましょう。無理はせずに、安静時の1分間の脈拍数に20~30を加えた脈拍数の程度で抑えるようにしてください。

以上の運動療法を取り組む前には、専門医や心臓リハビリ指導士、専門の理学療法士と相談して、どの程度の負荷なら問題ないかを必ず確認するようにしましょう。