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心筋梗塞には運動療法が有効で有酸素運動と筋トレで死亡率が下がり健康寿命も延長

循環器科

湘南藤沢徳洲会病院リハビリテーション室主任、理学療法士 小林 直樹

心臓リハビリの継続は死亡率・再発率の低下や再入院の減少に有効で健康寿命の延長も可能

米国ミネソタ州で行われた研究結果。心筋梗塞の患者さんを運動療法の有無別に分けて経過を観察。その結果、運動療法を行わなかったグループの生存率は低値を示し、運動療法を行ったグループは健常者と同程度を維持していた

私は、心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリと略す)指導士として、数多くの患者さんの心臓リハビリに携わってきました。かつては狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)といった虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)などの心臓病は患者さんの心臓にかかる負担を減らすために運動を避け、安静が第一とされてきました。ところが、近年の研究によって運動が心臓の機能維持に役立つだけでなく、予後を良好にして生存率を上昇させることが報告されるようになっています。

米国ミネソタ州で行われた、運動療法の有効性が確認された研究をご紹介しましょう。心筋梗塞を発症した患者さんを、運動療法に参加するグループと参加しないグループに分け、経過を観察しました。その結果、運動療法に参加しなかったグループは明らかに生存率が低値となった一方、運動療法に参加したグループは心筋梗塞を発症していない健常者と生存率が同じだったのです。

心臓リハビリは運動が重要な要素であるものの、食事や服薬管理といった日常生活への指導も含まれています。心臓リハビリを継続することで、死亡率・再発率の低下や再入院の減少、健康寿命の延長が見込めます。

通常、心臓リハビリは手術の直後(急性期)から始まります。服薬や食事の指導を守りながら運動療法に取り組むことで、再発のリスクを大きく軽減させることが期待できるのです。ところが、退院後(回復期)や退院後からしばらくたった後(維持期)になると、運動療法の実践から遠ざかってしまう患者さんが少なくありません。

運動療法がなぜ心臓病に有効なのかをご説明しましょう。運動療法を継続すると筋肉の機能が改善し、活動時などにおける心臓への負担軽減につながり、ひいては心機能の維持に役立つのです。また、運動によって血管機能や動脈硬化の要因の改善が図れ、心筋梗塞などの発症予防につながります。

心臓リハビリの運動療法では、最初に運動負荷試験を行い、患者さんの体力や心臓の状態に応じた運動が指導されます。心臓リハビリは専門家の指導のもとに行うだけでなく、医師や医療従事者と相談したうえで、患者さん自身が前向きに取り組むことが大切です。

有酸素運動と筋トレは軽い負荷も大切で効果的で準備運動とクールダウンも不可欠

[こばやし・なおき]——1979年、山梨県生まれ。2003年、北里大学医療衛生学部卒業後、茅ヶ崎徳洲会総合病院(現・湘南藤沢徳洲会病院)に入職して現職。2020年、北里大学大学院医療系研究科修士課程修了。医科学修士。循環認定理学療法士、心臓リハビリテーション指導士。日本循環器理学療法学会、日本心臓リハビリテーション学会に所属。

心臓リハビリの運動療法としては有酸素運動と筋力トレーニング(以下、筋トレと略す)が挙げられますが、心臓リハビリはいずれのメニューにもまんべんなく取り組むことで有効性の向上につながります。有酸素運動は、心肺機能の維持・増強が期待できるだけでなく、虚血性心疾患の原因となる高血圧症や糖尿病などの生活習慣病の改善にも効果的なため、強く推奨されます。筋肉の強化には有酸素運動よりも筋トレが有効なので、有酸素運動だけで終わることなく筋トレにもしっかり取り組みましょう。

有酸素運動はウォーキングをおすすめします。まずは庭や近所を5分ほど歩くことから始めましょう。筋トレも最初は軽めに行い、ページ下のイラストで紹介しているように、スクワットや爪先(つまさき)立ちから始めるといいでしょう。下半身の筋肉が強化され、血液を送るポンプ作用の向上にも役立ちます。

運動療法を行っている時は息を止めず、自然な呼吸で行うようにしましょう。継続するためにも無理は禁物ですが、運動の効果を期待するには負荷も必要です。最初はらくにできる内容で構いませんが、慣れてきて症状がない状態で運動ができるようになってきたら、少し負荷を強めましょう。途切れず会話ができ、軽く息が弾む程度の強さを維持するようにしてください。

有酸素運動は15~30分程度を1週間に3~4日、毎日取り組めるようになることを目標にして、可能な範囲で取り組むようにしてください。筋トレは一種目10回程度を〝らくだけどややきつい〟と感じられる程度から初め、週に2日から3日を目安に取り組んで、少しずつ回数を増やしていきましょう。

有酸素運動と筋トレをする際に気をつけたいのが、急な動きです。運動を急に始めたり、運動後に急に体を止めたりすることは心臓に大きな負担をかけるので控えましょう。運動療法が効果的とはいえ、実際に血液を末端に届けるほど心臓が動けるようになるまでには時間がかかります。そのため、運動に必要な血液量と心臓から送り出される血液量に差が生じたり、心臓をつかさどる交感神経の不具合を引き起こしたりするだけではなく、不整脈や心臓マヒなどを引き起こす可能性すらあるのです。私たち理学療法士は、運動の最中はもちろん、運動前後にも心臓に問題が生じないか注意を払っています。

ウォーキングをする前後には準備運動をし、のんびりと歩く時間を作るようにしましょう。5~10分ほど歩いた後に息が軽く弾む程度の強度のウォーキングを行い、その後に5~10分ほどのんびり歩いたり、ストレッチ体操をしたりしてから立ち止まるようにしてください。ページ下のイラストでストレッチを紹介しているので参考にしてください。

近年、狭心症や心筋梗塞はCOPD(シーオーピーディー)慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん))と合併する可能性があることが知られるようになりました。1100人を対象とした調査では、虚血性心疾患でCOPDを合併している患者さんの割合は21.3%に及ぶことが分かっています。

虚血性心疾患はもちろん、COPDも運動療法が有効です。私の場合、虚血性心疾患とCOPDを合併した患者さんが運動療法を含めた治療を続けたことで状態が改善した例を確認したことがあります。

とはいえ、患者さんによって適切な運動療法は異なります。主治医や担当の理学療法士と自分に合った運動を相談したうえで取り組むようにしましょう。心臓病の患者さんに運動療法が有効であることは学術的にも認められていますが、実践にあたって無理は厳禁です。運動療法に取り組んで体調不良を起こした場合は、すぐに中止して専門医の診察を受けてください。