しながわ内科・循環器クリニック院長 品川 弥人
血液を通して全身の細胞に酸素を供給するには心臓と肺の適切な連携が不可欠
私が院長を務めるしながわ内科・循環器クリニックは、東京都町田市にあります。循環器専門医として、私は来院される患者さんの循環器治療に携わりながら、地域のかかりつけ医として健康に関するあらゆる問題を解決できるように日々取り組んでいます。
心臓の機能が低下し、全身に十分な血液が送れなくなった状態を心不全と呼びます。心不全を引き起こす原因はいくつか挙げられますが、比較的患者数が多い心筋梗塞は、虚血性心疾患と呼ばれます。虚血性心疾患は心臓にある冠動脈という血管に異常が起こり、心臓の筋肉の一部に血液が届かなくなって発症します。
私たちは、全身の細胞に酸素を供給しなければ生きていくことができません。酸素の供給に重要な働きを担っているのが、肺と心臓です。全身に酸素を供給した静脈血(酸素の量が少なく、二酸化炭素の量が多い血液)は、心臓の右心房に入り、右心室を経由して肺に送り出されます。肺に送り込まれた静脈血の二酸化炭素は、呼吸で得られた酸素と交換されます(ガス交換)。動脈血(肺で酸素を供給された血液)は、心臓の左心房に流れ込み、左心室を経由して全身の細胞に酸素を届けるため送り出されます。心臓と肺のいずれかに異常が起こると血液の循環機能に支障が起こり、全身の不調につながるのです。
私のクリニックには、心疾患と称される心臓のさまざまな問題を抱える患者さんが数多く来院されます。心臓の病気を患った際の症状として、一般的には「胸の痛み」が知られていますが、「階段や坂道を上ると息が切れる」「長い距離を歩くのに息が続かない」といった息切れも心臓に異常がある人に多く見られます。先に挙げたように、心臓と肺は密接な関係にあるため、心疾患の患者さんを診察する際は、肺の状態も確認することが大切です。
肺疾患の中でも、生活の質を低下させて健康寿命を縮めるおそれがあるのが「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」です。COPDは、肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれる肺疾患で、喫煙などによって肺の細胞が長期間にわたって炎症を起こし、障害されることで起こります。炎症が肺に起こった場合を肺気腫、気管支の場合を慢性気管支炎と呼んで区別していましたが、2001年からCOPDと総称されるようになりました。
COPDは、慢性心不全の2~3割の人に合併するといわれています。これは、心臓と肺に密接な関係があることに加えて、互いの発症に関わる原因がとても近いのが理由です。
COPDと虚血性心疾患の原因に、加齢と喫煙という共通点があります。COPDの最大の原因は喫煙で、患者の9割以上は喫煙者とされています。
喫煙で有害物質を吸い込むことによって肺や気管支に炎症が起こり、最終的には気管支の先端にある「肺胞」が破壊されます。血液中に酸素を送り込む役割の肺胞が破壊されると、血液の中に酸素を取り込む効率が低下してしまいます。
喫煙は肺だけでなく、全身で炎症や酸化ストレスを引き起こします。全身の血管で炎症が起こって動脈硬化が引き起こされると、冠動脈の狭窄により虚血性心疾患を発症します。また、炎症や酸化ストレスは直接的な心筋障害や微小血管障害を通じて心不全の発症も増加させるのです。
運動していないのに日常生活で息苦しさを感じた場合は、心臓や肺の機能が低下しているおそれがあります。心疾患やCOPDを早期発見するためにも、すぐに医療機関を受診しましょう。