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夏は排尿障害が深刻!エアコンの効きすぎによる発汗不足と冷えで夜間頻尿が悪化

泌尿器科

都田泌尿器科医院院長 都田 慶一

30年以上にわたる研究の結果、夜間頻尿は浅い睡眠と見せかけの夜間多尿が関与

[みやこだ・けいいち]——1976年、京都府立医科大学卒業。同大学助手、博愛茨木病院医長、愛生会山科病院部長を経て、1992年7月より現職。日本泌尿器科学会、日本排尿機能学会、日本臨床泌尿器科医会に所属。元泌尿器科認定医。30年以上にわたって排尿障害の患者さんと向き合った集大成の書籍『夜間頻尿の正体―医師が教える「老化対策」』(幻冬舎)が好評発売中。

夜間頻尿の原因は「多尿・夜間多尿」「膀胱ぼうこう容量の減少」「睡眠障害」と日本泌尿器ひにょうき科学会では定められています。どれも間違ってはいないのですが、私は独自に30年以上にわたって夜間頻尿を研究した結果、根本的な原因は「浅い睡眠」と「見せかけの夜間多尿」の2つが大きく関与していると考えています。

浅い睡眠

睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という2種類から成り立っています。レム睡眠は、体の筋肉が完全に休んでいるのに対して、脳は覚醒に近く夢を見ている状態です。夢を見ていても筋肉の力が抜けているので、夢のとおりに行動することはありません。ノンレム睡眠は、主に脳が休んでいて、浅い状態からぐっすり熟睡している状態まで、眠りの深さによってN1、N2、N3の3段階に分類されます。深いノンレム睡眠が特に重要で、グッスリ眠れると発汗などの熱放散が起こります。その結果、体内の水分が減ることで尿が濃縮され、尿量は少なくなるのです。

若い人や健康な人では、2種類の睡眠が90~110分くらいの周期で出現します。1回目の周期で目が覚めてしまうと夜間頻尿が2回以上になる場合が少なくありません。深い睡眠がとれると2回目の周期まで目が覚めないため、夜間頻尿が1回以内に収まる傾向にあります。

加齢に伴って深いノンレム睡眠が短くなり、浅い睡眠であるレム睡眠が長くなります。浅い眠りの状態では尿意を感じて起きてしまったり、暑さや冷えの刺激で反射的に目を覚ましてしまったりするなど、眠っている時に目が覚めてしまう中途覚醒ちゅうとかくせいが起こりやすくなります。特に高齢になるほど尿意を感じやすくなり、尿意切迫感にょういせっぱくかんが起こります。そのため、夜間頻尿の回数を減らすには、浅い眠りを克服して深い眠りにつくことが重要です。

浅い眠りにはさまざまな要因がありますが、その中でも特に大きな影響を与えているのが「深部体温」です。

深部体温に伴って、睡眠は変化します。脳や臓器など、体の奥深くの体温である深部体温が下がる時に眠りが訪れます。深部体温は、手足などの皮膚の表面から熱が放散されることで低下します。深部体温が下がる時、血液が移動することで相対的に皮膚や手足の皮膚温度が上がります。手足の皮膚温度の上昇が速いほど、寝つきがいいことが知られています。

高齢になると筋肉量や活動量が減ったり、体温調節機能が低下したりして、生活リズムが乱れている場合が少なくありません。そのため、日中に深部体温を上げることができず、深いノンレム睡眠に必要な深部体温の変化が起こりにくくなっています。その結果、浅い睡眠になってしまい、夜間頻尿で何度も目を覚ましてしまうのです。

夏の場合は、エアコンの効いた部屋に長くいると体が冷えてしまい、深部体温が上がりにくくなります。さらに、発汗不足に陥ってしまい、体内の水分量が多くなって夜間頻尿の原因にもなるのです。

一方で、暑すぎて深部体温の熱放散ができずに中途覚醒が増えやすくなった結果、夜間頻尿が悪化している場合もあります。寝室が冷えすぎても暑すぎても体温調節に失敗しやすいため、夏場は夜間頻尿が増えてしまうのです。特に昼間に熱せられた家屋は夜になっても熱がこもっているため、温度調節が難しく注意が必要です。

見せかけの夜間多尿

多尿とは、一日の尿量が著しく増えた状態をいいます。膀胱や尿道に問題がなくても、糖尿病などの内分泌疾患ないぶんぴつしっかんや水分の多量摂取、薬剤(利尿剤)による尿量の増加が多尿の原因となります。夜間多尿は、夜間のみ尿量が多くなって夜間に何度もトイレに起きる状態をいいます。

私が夜間多尿の患者さんをる際には、午後の行動に注目して代謝が上がっている生活なのかを注意深く聞き取りします。代謝の低下によって冷えて皮膚温度が下がった状態になると、体内の熱を外に逃がさないように血液が内臓にたまります。その結果、腎臓じんぞうにも血液が多く流れるようになるため、抗利尿ホルモン(バゾプレシン)の分泌が抑えられて多尿になると考えられます。

夜間多尿の原因は、抗利尿ホルモンの分泌が根本的に不足して起こる場合が多いといわれています。しかし、私の診察経験では抗利尿ホルモンが原因で起こる夜間多尿は極めて少ないというデータが取れています。そのため、多くの夜間多尿は「見せかけ」であり、抗利尿ホルモン剤を服用しても改善は望めません。私の外来患者さんの多くは、代謝を上げることで夜間多尿が解消しています。

夜間頻尿の原因である浅い睡眠と見せかけの夜間多尿を解決する方法は、深い睡眠であるノンレム睡眠の時間を増やすことです。ノンレム睡眠を増やすためには、夕方から睡眠前までに深部体温を高く維持する必要があります。その方法としておすすめなのが「運動」と「入浴」です。

運動は朝ではなく、夕方に行うことで深部体温が高まった状態を維持して夜を過ごせます。その結果、就寝時に深部体温の変化を作り出すことができ、ノンレム睡眠の時間を増やせるようになります。汗ばむ程度の有酸素運動を15~30分ほど行うことをおすすめします。汗ばむことが代謝上昇の目安になります。

入浴も運動と同様に、深部体温を上げるために役立ちます。40~41℃のお風呂ふろに10分間つかり、就寝の90分前に出ると深部体温の変化が最大化してノンレム睡眠の時間を増やすことができます。さらに、入浴にはリラックス効果があり、寝つきをよくするといわれています。入浴のしかたによっては1日の締めくくりに最適の行為といえるでしょう。

実際に私の患者さんの多くは、運動や入浴などを励行れいこうしているため、80歳を過ぎても夜間頻尿の回数が0~1回で治まっています。夜間頻尿の大半は、生活習慣を変えることで改善できると確信しています。ただし、睡眠前に冷えてしまうと努力は水の泡になってしまうと心得てください。ぜひ、深部体温の上昇や体温調節(熱放散と発汗)を意識した運動や入浴を試してみてください。

季節によって就寝までの時間の調整が必要。夏場は長くして、冬場は短くするといい

都田慶一先生が診療をされている都田泌尿器科医院の連絡先は、
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