プレゼント

排尿障害には減塩が有効と調査で判明

泌尿器科

長崎大学病院泌尿器科・腎移植外科病院講師 松尾 朋博

夜間頻尿と食塩の摂取量には密接な関係があり減塩の実践で排尿障害が改善

[まつお・ともひろ]——医学博士。2001年、山形大学医学部卒業。2011年、長崎大学大学院修了。佐世保共済病院、聖フランシスコ病院、長崎県上五島病院、長崎大学病院泌尿器科・腎移植外科助教を経て、2019年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定医、日本排尿機能学会専門医。

夜間頻尿に悩んでいる方の中で、1日の食塩摂取量を把握している方はどのくらいいるでしょうか。日本高血圧学会が推奨する食塩摂取量は1日6㌘未満です。夜間頻尿と食塩摂取量には密接な関係があり、減塩を実践することで夜間頻尿をはじめとする排尿障害が改善することが分かっています。

夜間頻尿を改善するためには、まずその原因を知ることが大切です。夜間頻尿の主な原因は次の三つといわれています。

①多尿・夜間多尿
多尿は、1日の尿量が著しく増えた状態のことです。膀胱(ぼうこう)や尿道に問題がなくても、糖尿病などの内分泌疾患(ないぶんぴつしっかん)や水分の過剰摂取が多尿の原因になります。多尿になると、1回の排尿量が正常(200~300㍉㍑程度)であるにもかかわらず、1日に何回もトイレに行くようになります。

夜間多尿は、夜間のみ尿量が多くなって夜中に何度もトイレに行く状態のことです。一つの目安として、65歳以上の方で24時間の尿量に対する夜間尿量の割合が33%を超える場合は、夜間多尿と考えられます。夜間多尿の原因として、夕方以降の水分の過剰摂取や薬剤(利尿薬)による尿量の増加、ホルモンバランスの乱れ、糖尿病、高血圧が挙げられます。

②膀胱容量の減少
過活動膀胱や前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)が起こると、刺激に対して膀胱が過敏に収縮するため、少量の尿しか膀胱にためられなくなります。過活動膀胱は、膀胱が過敏になって、尿が十分にたまっていなくても、本人の意思とは関係なく膀胱が収縮する状態のことです。その結果、尿意切迫感(突然現れる強い尿意)や頻尿が起こりやすくなります。

前立腺肥大症は、男性特有の臓器である前立腺が徐々に大きくなり、尿道を圧迫して尿が出にくくなる病気です。前立腺肥大が進行すると残尿を押し出そうとして膀胱の壁が厚くなり、「肉柱形成」と呼ばれる凸凹(でこぼこ)ができます。その結果、膀胱の弾力性が失われ、ますます排尿する力が低下。さらに、残尿が多くなるため繰り返し排尿する必要に迫られます。

また、大きくなった前立腺が膀胱内に出っ張ることで膀胱を直接刺激したり、尿をためるスペースが減ったりするため、過活動膀胱の症状が出てトイレの回数が増える人もいます。

③睡眠障害
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりして体が低酸素の状態になる病気です。人間には自律神経が備わっており、心と体の状態を活発にする交感神経と、心と体を休ませる副交感神経がうまくバランスを取り合いながら働いています。本来であれば、睡眠中は副交感神経が優位になって血圧が下がります。しかし、SASの場合は睡眠中に何度も呼吸が止まってしまうため、そのたびに交感神経が優位になって呼吸を再開させる必要があり、夜間でも高血圧の状態が続いてしまうのです。

SASの場合は、夜中でも血圧を上げる作用のあるホルモン「カテコラミン」が分泌され、膀胱を刺激します。すると、膀胱の容量が低下したり、脊髄(せきずい)の排尿反射が働いたりして夜間頻尿を引き起こすのです。

前述のとおり、夜間頻尿などの排尿障害との関連性が指摘されているのが、食塩の過剰摂取です。食塩の過剰摂取は、高血圧を招くほか、水分の過剰摂取やカテコラミンの過剰分泌につながることが分かっています。

そこで、私たちの研究グループは、低食塩摂取群(364人。1日の推定食塩量は7.3㌘)と高食塩摂取群(364人。1日の推定食塩量は11.4㌘)に分けて排尿回数と排尿量を比較する試験を行いました。その結果、高食塩摂取群に比べて低食塩摂取群は、夜間の排尿量が約200㍉㍑少なく、夜間の排尿回数も約1回少ないことが分かりました。

過活動膀胱の患者が減塩を実践したら頻尿や尿意切迫感のスコアが有意に改善

減塩によって昼間・夜間の排尿回数が改善している

また、別の試験で夜間頻尿が1回以上あり、食塩を過剰に摂取していた方を対象に減塩治療を行いました。その結果、水分の摂取量が1日当たり約300㍉㍑減り、昼間・夜中の排尿回数がどちらも約1回ずつ少なくなったのです。

減塩によって過活動膀胱のスコアがすべて改善している

減塩によって高血圧が改善し、膀胱を刺激するカテコラミンの分泌量が減少したり、自律神経のバランスが整ったり、飲水量が減ったりしたことで排尿障害が軽快したと考えられます。 さらに、私たちの研究グループは、食塩を過剰に摂取している過活動膀胱の患者さんを対象に減塩治療を3ヵ月間行いました。その結果、「昼間頻尿」「夜間頻尿」「尿意切迫感」「切迫性尿失禁」のスコアが有意に改善したのです。

夜間頻尿は加齢とともに起こりやすい症状のために年のせいと放置されてしまいがちですが、食塩の過剰摂取で起こっている場合が少なくありません。食塩の過剰摂取は、夜間頻尿をはじめ、高血圧や動脈硬化(血管の老化)などの生活習慣病を招き、放置したままでいると慢性腎臓(まんせいじんぞう)(びょう)にまで悪化してしまうおそれがあります。日頃の食事から減塩に取り組むとともに、主治医に相談して適切な減塩指導を受けることをおすすめします。