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腎臓は生命維持の要“血管の番人”だった!

糖尿病・腎臓内科

福岡腎臓内科クリニック副院長 谷口 正智

腎臓では尿の元が1日約180㍑も作られるが99%は再吸収され血液に戻る

[たにぐち・まさとも]——1996年、九州大学医学部卒業。同大学第2内科腎臓研究室、同大学大学院医学研究院病態機能内科学助教、米国テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンター内科学助教、福岡腎臓内科クリニック透析室室長を経て、現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本腎臓学会専門医、日本透析学会評議員・専門医・指導医。

(じん)(ぞう)〟というと、皆さんは何をする臓器だと思いますか。おそらく多くの方々が「おしっこを作る臓器」と答えるのではないでしょうか。確かに血液をろ過して血液中の老廃物を尿として排出する腎臓の働きは重要です。しかしいま、腎臓は〝血液の番人〟として人体という生命ネットワークの司令塔の役割を果たす、中心的な臓器として注目を浴びつつあるのです。

腎臓は腰より上の背中側に位置しており、背骨を挟んで左右に1つずつある、ソラマメのような形をした臓器です。大きさは縦10~12㌢、横5~6㌢、重さは120~150㌘程度。右側の腎臓は上に肝臓があるため、左側の腎臓に比べて少し低い位置にあります。

腎臓には、大動脈と大静脈から直接分岐した腎動脈(尿の原料となる血液が入る動脈)と腎静脈(腎臓でろ過されなかった血液が戻る静脈)が「(じん)(もん)」というくぼみから入り込んでいます。腎動脈と腎静脈は分岐して(きゅう)(じょう)(どう)(みゃく)(きゅう)(じょう)(じょう)(みゃく)になり、さらに無数の毛細血管となって腎臓全体に分布しています。

腎動脈は腎臓の中で細かく枝分かれし、「ネフロン」という尿を作る器官に行きつきます。ネフロンは、毛細血管が毛玉のように丸まった()(きゅう)(たい)と、糸球体を包み込んでいる風船のようなボーマン(のう)、ボーマン嚢から伸びる尿細管から成り立っています。1つの腎臓は、約100万個のネフロンと、ネフロンを支える血管や(かん)(しつ)などで構成されています。

腎臓に流れる血液は糸球体に入り、血圧によって血液中の水分がこし出されます。こうしてこし出された水分は「原尿」と呼ばれるものです。原尿は1日に約150~180㍑にも及びます。しかし、尿細管で血液からさらに老廃物が捨てられ、原尿のおよそ99%が再吸収されて血液に戻ります。最終的に体に不要な老廃物が1日に2㍑ほどの尿となって腎臓の中の「(じん)()」という空間に一時的に蓄えられ、「尿管」という管を通って(ぼう)(こう)に流れ込みます。

尿を作る以外にも腎臓には電解質の調節、造血の促進、ビタミンDの活性化など働きが多数

腎臓の主な働きは、血液をろ過して尿を作り、老廃物を排出することです。しかし、尿は老廃物を排出するだけでなく、水分やナトリウム、カリウム、カルシウムなどの成分(電解質)を調節する役割も果たしています。この働きのおかげで、私たちは体内の環境を一定のバランスに保つことができるのです。

また、腎臓はさまざまな「コミュニケーション物質(ホルモンや情報伝達物質など)」を作って血圧を調整したり、(こつ)(ずい)での造血を促進する「エリスロポエチン(以下、エポと略す)」というホルモンを(ぶん)(ぴつ)したりすることに加え、ビタミンDを活性化して腸管からカルシウムの吸収を促進し、骨を丈夫に維持する働きもあります。

そのほかにも、生命活動の源である酵素反応が円滑に進むように血液を弱アルカリ性(㏗約7.4)に保ったり、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分解したりなど、腎臓は非常に働き者の臓器なのです。

実に多様な役割を担っている腎臓ですが、その働きは一見するとバラバラのように思われます。しかし、腎臓が〝血液の番人〟として人体という生命ネットワークの司令塔の役割を果たすと考えると、腎臓が担うさまざまな働きにみごとに統一感が生まれるのです。

腎臓が生命ネットワークの司令塔としてほかの臓器と連携していることが明らかになったのは、「ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド。別名・心臓ホルモン)」の発見がきっかけでした。ANPは心臓から分泌されるコミュニケーション物質です。

心臓から分泌されたANPは血流に乗って腎臓までたどりつき、腎臓に尿の量を増やすように働きかけます。体の中を巡る血液の量には変動があるため、血液の量が多すぎるとポンプの役割を果たす心臓に過剰な負荷がかかってしまいます。

そこで、心臓は全身の血液の量を減らそうとANPというコミュニケーション物質を分泌して腎臓に知らせ、体内の水分を尿として排出してもらうのです。

また、心臓から出たANPは血管の細胞でも受け取られており、血管を広げる働き((まっ)(しょう)血管拡張作用)があることが明らかになっています。末梢血管拡張作用は血圧を下げるように働くため、心臓を助ける働きを持っています。心臓と腎臓、血管の細胞が生命ネットワークとして連携することで、体を正常な状態に保っているのです。

一方、骨髄での造血を促進するコミュニケーション物質であるエポは、体が酸欠状態になると血液中の酸素が減ったことを感知した腎臓から大量に分泌されます。腎臓から分泌されたエポは、血流に乗って骨にたどりつきます。骨の中心部分にある「骨髄」というスポンジ状の組織には造血幹細胞が存在し、エポを受け取った骨髄は赤血球を増産しはじめるのです。

酸素を運ぶ役割を果たす赤血球が増えると、全身に効率よく酸素を運ぶことができるようになります。すると、体内のすみずみにまでたくさんの酸素を行き渡らせ、酸欠状態を改善することができます。このように、腎臓は骨髄と連携しながら、体内の酸素不足を監視する重要な役割も果たしているのです。

腎臓から分泌されるもう1つのコミュニケーション物質であるレニンは、血圧を調整する役割を果たしています。なんらかの原因で腎臓への血流量が低下すると、腎臓からレニンが分泌されます。レニンは「レニン・アンジオテンシン系」というしくみによって全身の血管を収縮させて血圧を上げ、血流の流れを速くすることで腎臓に多くの血液を流し込みます。

腎臓は血液中の成分を一定に保つ人体という生命ネットワークの〝血液の番人〟といえる

心臓から大動脈には1分間に約5㍑の血液が送り出されます。体重の200分の1以下の重さしかないにもかかわらず、腎臓には1分間に約1㍑(約5分の1)もの大量の血液が流入しています。腎臓は血液量の最も多い臓器の1つなのです。その理由は、腎臓が全身の臓器で作られた老廃物を尿に捨て、血液中の成分を一定に保つ働きをしているためと考えられます。

血液中には、ナトリウムやカリウム、カルシウム、リン、マグネシウムなど、さまざまな成分が含まれています。腎臓は血液中に含まれる成分を基準値内に収めて調節する仕事を一手に担っています。さまざまな臓器や器官と連携しながら赤血球の増産や血圧の管理、さらには血液中の成分の調節まで行っている腎臓は、人体という緻密な生命ネットワークの 〝血液の番人〟とも呼ぶべき存在なのです。