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過活動膀胱と前立腺肥大症は動脈硬化で悪化

泌尿器科

福井大学医学部泌尿器科学講座教授 横山 修

過活動膀胱と前立腺肥大症は高血糖・高血圧の2大原因によって悪化

[よこやま・おさむ]——1956年、長野県生まれ。1982年、金沢大学医学部卒業。1988年、同大学大学院医学研究科修了後、金沢大学医学部講師、米国ピッツバーグ大学薬理学教室客員助教授などを経て、2002年、福井医科大学医学部泌尿器科学教授。2003年より、大学統合に伴い現職。日本排尿機能学会、国際禁制学会、米国泌尿器科学会などに所属。2002年、日本泌尿器科学会・学会賞受賞。

膀胱(ぼうこう)にためられる尿の容量は、一般的に300~500㍉㍑で、200㍉㍑を超えると尿意をもよおしやすくなります。個人差はありますが、1日の排尿量は平均1200㍉㍑前後。1回の排尿量が200㍉㍑とすると、6回排尿すれば1日の平均尿量を超えることになります。したがって、「朝起きてから就寝するまでの排尿回数が8回以上の場合」が頻尿と定義されています。

ただし、これは絶対的な基準ではありません。頻尿を判断するうえで重要なのは、患者さんの生活の質に悪影響を及ぼすかどうかです。日中に何度トイレに駆け込もうと、患者さんが苦痛に感じていなければ無理に治療をする必要はありません。

男性の頻尿を引き起こす主な疾患として、膀胱に異常が起こって尿をためられなくなる「過活動膀胱」と、前立腺(ぜんりつせん)が肥大して尿道を圧迫する「前立腺肥大症」が挙げられます。まずは、過活動膀胱について解説しましょう。

過活動膀胱は急に起こる我慢できないような強い尿意(尿意切迫感)を主症状とする疾患で、蓄尿をコントロールできない状態です。膀胱が硬くなって広がらなくなったり、神経が過敏になったりすることで起こります。

過活動膀胱が起こる原因の1つとして、動脈硬化(血管の老化)があります。動脈硬化が起こって血流に障害が起こると、膀胱に十分な血液が届かなくなって組織が硬くなります。本来なら風船のように膨らんで尿を蓄えることができる膀胱ですが、硬くなると蓄えられる尿が少なくなってすぐに尿意を感じるようになってしまうのです。

血流障害が起こると、膀胱の粘膜(ねんまく)にも異常が生じます。さまざまな神経伝達物質が粘膜で生成され、膀胱の知覚神経が過敏に反応するようになります。つまり、膀胱にたまっている尿量が通常では反応しないほどの少量でも、尿意を感じてしまうのです。

問題なのは、加齢以外で動脈硬化を進行させる糖尿病や高血圧症、脂質異常症に代表される生活習慣病です。特に糖尿病と高血圧症には注意が必要で、それぞれが前立腺肥大症の原因になることが分かっています。

前立腺は、男性の膀胱の下にあるクリの実ほどの大きさの器官で、中を尿道が通っています。前立腺の機能については解明されていない点も多いものの、精液を構成する成分を分泌(ぶんぴつ)することが主な働きと考えられています。前立腺が肥大すると中を通る尿道が圧迫されるため、尿が出にくくなります。その結果、1回の排尿量が減って残尿が増え、トイレに行く頻度が増えてしまうのです。

前立腺肥大症になると、膀胱は収縮してなんとか尿を排泄(はいせつ)しようとします。この状態は膀胱に強い圧力がかかり、慢性化すると、膀胱が膨らまなくなるだけでなく、排尿を促すために神経が過敏になって頻尿を起こすようになるのです。

前立腺肥大症は加齢だけでなく、遺伝や肥満、糖尿病、高血圧症、男性ホルモンの分泌量の減少などが加わることで発症すると考えられています。特に、前立腺に対する糖尿病と高血圧症の悪影響は甚大です。初期の糖尿病では、過剰な糖を代謝するために体内でさまざまな物質が生成されています。その1つが、肝臓で生成されるインスリン様成長因子です。糖の代謝には有用なインスリン様成長因子ですが、前立腺の肥大にも関与しているといわれています。

高血圧症も前立腺肥大症の原因になります。高血圧症になると血管が収縮し、部位によっては血液が足りない虚血状態になります。虚血状態を解消するために、血管を増やす働きのある血管内皮(ないひ)細胞増殖因子が生み出されますが、このたんぱく質が前立腺を肥大させるといわれています。糖尿病と高血圧症は、前立腺肥大症を引き起こす〝2大悪〟といえます。さらに、糖尿病と高血圧症は、それぞれが頻尿を引き起こす危険因子でもあるのです。

慢性腎臓病のむくみも夜間頻尿の原因の1つで水分の過剰摂取やCOPD・がんにも要注意

糖尿病になると血液中の糖が増えて濃度が高まるため、血液を薄めようとして全身の細胞から血管内に水分が移動します。その結果、血液の量が増え、尿の量も増えてしまうのです。また、糖尿病が進行すると排尿をコントロールする末梢(まっしょう)神経に障害が起こるため、排尿筋の活動が低下して頻尿になることもあります。

高血圧症になると、心臓に大きな負担がかかります。体は心臓の負担を減らそうとして利尿ホルモンを作って血液中の水分量を減らそうとするため、結果的に頻尿になってしまうのです。

さらに、糖尿病や高血圧症が進行することで起こる慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)の患者さんには、頻尿が多いと考えられています。慢性腎臓病の患者さんの多くはむくみに悩まされています。むくみがある慢性腎臓病の患者さんが就寝時に横になると、下半身にたまっていた水分が上半身に移動します。急に増えた水分を排泄するために、夜間に尿意を感じてしまうのです。

かつてテレビ番組などのメディアが発信していた健康情報の中に、「水をたくさん飲むと血液がサラサラになる」「脳梗塞(のうこうそく)を予防できる」というものがありました。現在、水を多く飲むことによる循環器疾患の予防効果は、医学的に否定されています。ところが、循環器疾患の予防のために水分を過剰にとり、頻尿になってしまう患者さんが後を絶ちません。水分不足は私たちの体に健康被害をもたらしますが、とりすぎもよくありません。頻尿が気になる人は1日の飲水量を体重の2~2.5%を目安に減らしてみましょう。

頻尿の原因は、糖尿病や高血圧症だけではありません。慢性腎臓病、COPD(肺気腫(はいきしゅ)・慢性気管支炎)、心不全、膀胱がんなどの疾患が原因となって起こることもあります。頻尿を「年齢のせい」と決めつけず、早めにかかりつけの病院や泌尿器(ひにょうき)科を受診するようにしましょう。

良質な睡眠に必要なメラトニンは膀胱を広げる働きがあると世界で初めて発見

頻尿で病院を受診する患者さんのほとんどは、夜間頻尿を苦痛に感じています。専門的にいうと、ひと晩に1回でもトイレに立てば夜間頻尿と診断されますが、実際に治療の対象となるのは夜中に2回以上起きて翌日の生活の質が著しく低下している患者さんです。

夜間頻尿が起こる要因の1つに、加齢によって起こる循環器機能の低下が挙げられます。人間は加齢に伴って、心臓などの血液を全身に届ける循環器の機能が衰えていきます。下半身の筋力も落ちるため、血液を運ぶ筋肉のポンプ作用が働きづらくなり、体内の水分が下半身にたまってしまいます。そのような状態で就寝すると、下半身にたまった水分の排泄(はいせつ)が促されるため、夜間の尿量が増えてしまうのです。

さらに、加齢によって抗利尿ホルモンが減少することも、夜間頻尿の原因になります。睡眠時には脳の下垂体から分泌(ぶんぴつ)される抗利尿ホルモンが腎臓(じんぞう)に作用し、夜間に作る尿の量を少なくしています。ところが、抗利尿ホルモンは加齢によって減少するため、夜間に作られる尿の量が増えてしまうのです。

睡眠が阻害されて慢性的な睡眠不足を引き起こす夜間頻尿ですが、多くの人が「トイレに行きたくなるから目が覚める」と考えています。もちろん、膀胱(ぼうこう)に尿がたまること自体も深い睡眠の妨げになりますが、眠りが浅いために尿意を感じやすくなっていることも少なくないのです。

睡眠にはレム睡眠(体を休めるための浅い眠り)とノンレム睡眠(脳を休めるための深い眠り)の二種類があり、ひと晩の中でバランスよく繰り返されています。さらに、ノンレム睡眠は睡眠の深さによって、浅いノンレム睡眠と深いノンレム睡眠(徐波(じょは)睡眠)に分けられます。浅いノンレム睡眠のときは、尿意を感じやすくなるといわれています。さらに、高齢者は深いノンレム睡眠が減少する傾向にあるため、若い人よりも睡眠中に尿意を感じやすい状態になっているのです。

加齢による睡眠の質の低下には、メラトニンというホルモンがカギとなっています。脳の松果体(しょうかたい)という部分から分泌されるメラトニンは、良質な睡眠のために必要不可欠なホルモンとして知られています。

メラトニンは日中、強い光を浴びると分泌量が減少し、夜になると徐々に増えていきます。メラトニンが増えると、血圧・心拍数、体温などが低下します。すると、体は休息の準備が整って眠気が起こるのです。

ところが、加齢に伴ってメラトニンの分泌量が減少すると、昼間に眠くなるだけでなく、深いノンレム睡眠の時間も短くなります。浅い睡眠が増えることで睡眠中も脳が覚醒(かくせい)し、尿意を感じやすくなってしまうのです。

さらに、私たちの研究グループは、メラトニンに膀胱を大きくする働きがあることを世界で初めて発見しました。メラトニンが脳のGABA(神経伝達物質の1つ)に作用して膀胱を膨らませ、尿意を抑制することを明らかにしたのです。現在ではさらに研究が進み、夜間はメラトニンが腎臓に働きかけて尿の量を減らしていることも明らかになりつつあります。

夜間頻尿の改善には生活習慣の見直しが不可欠で日光浴や夕方の運動がおすすめ

夜間頻尿を改善するには、頻尿を引き起こす原因を取り除くだけではなく、メラトニンを増やして睡眠の質を高めるなど、生活を見直すだけでも改善が見られることが少なくありません。具体的な方法をいくつかご紹介しましょう。

日中は日光を浴びて睡眠時は寝室を暗くする
高齢者の中には、1日中、家の中で過ごす人が多くいらっしゃいます。メラトニンの量は光の強度に左右されるため、薄暗い部屋にいると十分にメラトニンが抑制されず、体は休息に入ろうとして眠くなってしまいます。日中にたくさん休んでしまうと、夜の睡眠の質は低下します。また、睡眠の直前まで明るい空間にいると、入眠に必要なメラトニンも抑制されてしまいます。睡眠時の部屋は、できるだけ暗くするといいでしょう。

長時間の睡眠を控える
多くの人は低下した睡眠の質を補うために睡眠時間を長く確保しようと考えがちですが、これは間違った方法です。睡眠障害は、睡眠の質の低下が主な原因です。睡眠時間が長ければ長いほど日中の活動量が減り、翌日の睡眠の質は低下します。睡眠時間を延ばすことが、睡眠の質の低下を招く悪循環になっているのです。

中高年の理想的な睡眠時間は七時間程度といわれています。長時間の睡眠をとっている人は、時間を短くするだけで、睡眠の質の改善とともに頻尿の改善も期待できるでしょう。

夕方に運動をする
前述のとおり、下半身にたまった水分が夜間頻尿を引き起こすこともあります。ということは、下半身にたまった水分を就寝前に尿として排泄してしまえば、夜間の尿量は減少します。下半身にたまった水分を上半身に送るには、下肢(かし)の運動がおすすめです。夕方にウォーキングやスクワットを20分程度行うことで、夜間頻尿が改善する人は少なくありません。運動を継続して下肢に筋肉がつくと、ポンプ機能が強化されるのでより頻尿の改善を実感しやすくなるでしょう。頻尿の原因でもある糖尿病や高血圧症の悪化も防げるので、強くおすすめします。

尿意を少し我慢する
尿意を感じたときはすぐに尿を出したくなるものですが、ちょっと我慢してみましょう。排尿を我慢することによって縮んでいた膀胱が再び膨らみ、尿をためる量を増やすことができるのです。1日1回、1秒ずつ延ばすだけでもいいので、尿意を我慢する習慣をつけてみてください。