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変形性股関節症は左右の脚長差が顕著でひざ関節症を合併

整形外科

久我山整形外科ペインクリニック院長 佐々木 政幸

変形性股関節症では脚のつけ根だけでなく腰・ひざにも違和感や痛みが出ることがある

[ささき・まさゆき]——1995年、昭和大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部整形外科学教室に入局。済生会宇都宮病院、国立療養所村山病院(現・国立病院機構村山医療センター)、東京都保健医療公社大久保病院などでの勤務を経て、2010年より現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医・脊椎脊髄病医・スポーツ医・運動器リハビリテーション医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医。NPO法人『腰痛・膝痛チーム医療研究所』副理事長。

腰・ひざなどの違和感や痛みに悩んでいませんか。違和感や痛みが起こる部分が特定できず、整形外科で検査を受けても腰・ひざなどに異常が見られない場合、変形性股関節(へんけいせいこかんせつ)(しょう)の疑いがあります。変形性股関節症は、股関節の関節軟骨がすり減ることによって起こる運動器の疾患です。患者数は120万~510万人に上り、女性が男性の8倍も多いといわれています。

一般的に、変形性股関節症の患者さんの約40~50%が変形性ひざ関節症を合併しているといわれています。変形性股関節症が原因で起こる変形性ひざ関節症は「CoxitisKnee(コックサイティスニー)」と呼ばれています。変形性ひざ関節症は、ひざの関節軟骨がすり減ることで関節が変形して炎症や痛みを引き起こす運動器の疾患です。

ひざ関節は、太ももの大腿骨(だいたいこつ)とすねの脛骨(けいこつ)、ひざの「お皿」と呼ばれる膝蓋骨(しつがいこつ)で構成されています。脛骨のすぐ外側には「腓骨(ひこつ)」と呼ばれる細い骨があり、靭帯(じんたい)によって大腿骨や脛骨と結ばれています。

ひざの関節軟骨は、大腿骨と脛骨の先端部分の表面や、膝蓋骨の裏側の表面を覆って保護しています。また、大腿骨と脛骨の隙間(すきま)には、内側と外側に一つずつ「半月板(はんげつばん)」と呼ばれる三日月形の板状の軟骨があります。弾力性に富んだ関節軟骨や半月板は、ひざに加わる衝撃を吸収して分散したり、関節の動きを滑らかにしたりする働きがあります。

ひざ関節は「関節包(かんせつほう)」という袋に包まれ、関節包の内側には「滑膜(かつまく)」という組織があります。滑膜を構成する滑膜細胞は、関節液の分泌(ぶんぴつ)と吸収を行っています。関節液には、関節の動きをスムーズにする(じゅん)滑油(かつゆ)としての役割や、血管が通っていない関節軟骨に水分や酸素、栄養を運ぶ役割もあります。

関節軟骨には神経は通っていませんが、周辺の骨や関節包、滑膜などの組織には神経があります。関節軟骨がすり減って変形性ひざ関節症になると、大腿骨と脛骨の隙間が狭まって関節包や滑膜が変形したり、「(こつ)(きょく)」と呼ばれる骨の突起が形成されたり、関節軟骨のかけらができたりします。それらの刺激によって滑膜に炎症が生じると、ひざに痛みが起こるのです。

さらに、滑膜に炎症が起こると、「炎症性サイトカイン」という物質が産生されます。炎症性サイトカインは炎症反応を促進する働きがあり、炎症が悪化することで痛みを増悪(ぞうあく)させてしまいます。

関節軟骨がすり減ると衝撃を吸収する働きも低下し、骨に衝撃が加わることも痛みの原因の一つです。特に、関節軟骨の下で土台の働きをしている硬い骨(軟骨下骨)が露出するようになると、骨どうしがぶつかり合って強い痛みが生じるようになります。

変形性股関節症によるひざ関節症は脚長差と股関節の可動域の低下で起こる拘縮が原因

変形性股関節症によって変形性ひざ関節症が起こる理由は、大きく分けて二つあります。一つは(きゃく)(ちょう)()です。

変形性股関節症になると、脚長差が生じやすくなります。日本人の場合は、乳幼児期に股関節が外れた状態になる発育性股関節脱(はついくせいこかんせつだっ)(きゅう)や、股関節が不完全な形態になる寛骨(かんこつ)(きゅう)形成不全(けいせいふぜん)など、股関節の形態異常やなんらかの病気で変形性股関節症を発症していることがほとんどです。

寛骨臼形成不全の場合、亜脱臼が起こりやすくなります。股関節は骨盤の左右にあり、「寛骨臼」というおわん状の骨盤の骨に太ももの先端である大腿骨頭(だいたいこっとう)がはまり込む構造になっています。寛骨臼形成不全の場合は寛骨臼のかぶりが浅いため、大腿骨頭が外側上方に外れてしまう亜脱臼になりやすいのです。亜脱臼が起こると、脚長差が生じやすくなります。

股関節疾患が原因で悪いほうの脚が短くなって脚長差が生じると、歩きにくくなるために骨盤を傾けたり、状態が良好なほうの脚(非罹患(ひりかん)側)で無理をしたりして脚長差を代償しようとします。すると、非罹患側の脚のひざに負荷がかかるようになり、変形性ひざ関節症を引き起こしてしまうのです。

変形性股関節症によってひざに痛みが起こるもう一つの原因は、股関節の可動域(動かすことができる範囲)の低下です。変形性股関節症が進行すると股関節が伸ばしにくくなる(くっ)(きょく)(こう)(しゅく)や、開きにくくなる内転拘(ないてんこう)(しゅく)が起こりやすくなります。

股関節が屈曲・内転拘縮を起こると内股ぎみになり、変形性股関節症の罹患側のひざが外反(X脚)、非罹患側のひざが内反(O脚)になります。まるで風にあおられたような見た目から「WindsweptDeformity(ウインドスウェプトデフオミティ)(風にあおられた変形)」と呼ばれています。

X脚やO脚は、変形性ひざ関節症の原因として知られています。ひざ関節は、荷重を全面に受け止めます。しかし、X脚はひざの外側に、O脚はひざの内側に荷重が偏るため、荷重が集中するほうの関節軟骨がすり減りやすくなるのです。

変形性股関節症や変形性ひざ関節症が悪化すると関節軟骨がすり減って痛みを伴うため、外出することがおっくうになることが少なくありません。その結果、筋力が低下して関節にかかる負荷が増大し、症状がさらに進行してしまうおそれがあります。変形性股関節症や変形性ひざ関節症の悪化予防のためには、関節軟骨の再生に有効と考えられている「ジグリング(足ゆすり運動)」や、筋力を維持するために(つえ)を使った歩行がおすすめです。