横浜総合病院創傷ケアセンター長/心臓血管外科部長 東田 隆治
血流障害から足腰に痛み・しびれが起こる閉塞性動脈硬化症は糖尿病を合併しやすい
歩行時に下肢に痛みやしびれが生じ、休むと治る間欠性跛行は、神経に原因がある「神経性跛行」と、血管に原因がある「血管性跛行」の2種類に分けられます。血管性跛行の原因として、動脈硬化(血管の老化)が進行して起こる閉塞性動脈硬化症が挙げられます。
閉塞性動脈硬化症は、血管が狭窄したり閉塞したりして血流が悪化し、細胞や組織に酸素や栄養が届きにくくなる症状です。患者数は全国で約40万人と推定され、症状が出ていない潜在的な患者数を含めると、約80万人にも達するといわれています。
閉塞性動脈硬化症が起こりやすい部位は「下肢」です。下肢の動脈は長く、心臓から最も遠い位置にあるために発症しやすいと考えられます。
閉塞性動脈硬化症は「フォンテイン分類」と呼ばれる分類法があり、重症度によって4段階に分けられています。Ⅰ度の段階では、足の冷えとしびれが特徴です。Ⅱ度になると、間欠性跛行が症状として現れます。
Ⅲ度まで進行すると、安静にしていても足の血流が不足し、痛みが起こるようになります(安静時疼痛)。さらにⅣ度まで進行してしまうと、足に壊疽や潰瘍が発生するようになります。
壊疽とは、血流が悪化して酸素や栄養が届かなくなったり、細菌に感染したりすることで細胞が壊死した結果、組織が腐敗した状態をいいます。潰瘍とは、粘膜や皮膚の表面の傷が再生せず、深くえぐれた状態のことです。
閉塞性動脈硬化症の治療は、Ⅰ度やⅡ度の初期段階で対応できるかどうかが重要です。初期段階であれば、禁煙などの生活習慣の改善や運動療法・薬物療法を併用することで治療が十分に可能です。ところが、閉塞性動脈硬化症に糖尿病が合併すると、治療が困難になります。
閉塞性動脈硬化症と動脈硬化を引き起こす最大の要因といわれる糖尿病は、互いに合併しやすいことで知られています。糖尿病の患者さんは、健康な人に比べて4倍近くも閉塞性動脈硬化症になりやすいことが分かっているのです。私が勤務する横浜総合病院内にある創傷ケアセンターで治療を受けた閉塞性動脈硬化症の患者さんを14年にわたって調べたところ、受診した416人のうち281人(7割)が糖尿病を合併していました。
脚切断の可能性がある閉塞性動脈硬化症は心血管疾患を併発しがんより死亡率が高い
間欠性跛行は閉塞性動脈硬化症の初期に最も多く見られる症状の一つですが、症状が出ない無症候性閉塞性動脈硬化症の患者さんのほうが多いといわれています。原因は、糖尿病の合併症である神経障害にあります。神経障害が起こると、感覚がマヒしてしびれや痛みを感じにくくなり、間欠性跛行などの症状に気づかないことがあるのです。無症候性閉塞性動脈硬化症は、症状のある患者さんの3倍にも上るといわれています。
無性動脈硬化症の場合、病気が発見された時にはかなり進行した状態だったということが少なくありません。足のしびれや痛みといった症状がなくても、糖尿病と診断された人は定期的に循環器科や血管外科などを受診し、下肢の動脈硬化が進んでいるかどうかを確認するようにしてください。
Ⅲ度以降に起こる安静時疼痛と壊疽、潰瘍を合わせて「重症虚血肢」といいます。重症虚血肢の症状が現れるようになると、足の血流はほとんどが途絶えているため、手術が必要になります。バイパス手術や血管内手術(カテーテル手術)が難しければ、脚の切断手術が避けられない場合もあります。
閉塞性動脈硬化症で最も恐れられるのは、重症虚血肢が原因の脚の切断です。閉塞性動脈硬化症は、悪化すると治療の選択肢がどんどん減り、最終的に脚の切断を避けられなくなってしまいます。創傷ケアセンターでは、主に閉塞性動脈硬化症による難治性の傷や壊疽などの治療を行っています。ほかの病院で脚の切断を告知された患者さんのうち、67.3%もの人が私たちの治療で切断を回避しています。
Ⅲ度以降の患者さんが脚の切断を回避するには、壊疽につながるケガの予防が不可欠です。足に腫れ・赤み・水ぶくれ・傷がないかを観察する習慣をつけましょう。
閉塞性動脈硬化症でさらに注意してほしいのが、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管障害です。閉塞性動脈硬化症の患者さんは、下肢だけではなく、全身で動脈硬化が進んでいます。
日本を含む世界の44ヵ国、6万8000人を対象にした調査では、閉塞性動脈硬化症の患者さんの約54%が虚血性心疾患、約24%が脳血管障害を併発していることが判明しました。閉塞性動脈硬化症の患者さんの多くは、発症して5年以内に30%近くが血管に関わる病気で亡くなっていることが分かっています。これは5年以内に脚を切断する確率よりも高く、大腸がんの死亡率を超える数字なのです。