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透析患者は新型コロナウイルス感染症が重症化しやすい

糖尿病・腎臓内科

日本透析医学会理事長 中元 秀友

透析患者さんは栄養不足や造血力の低下に伴う酸素不足で免疫力が低下しやすい

[なかもと・ひでとも]——1983年、慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。日本鋼管病院、国家公務員共済会福生病院、足利赤十字病院勤務を経て、1995年より埼玉医科大学腎臓病センター講師。同大学腎臓内科学講座講師、助教授などを経て、2007年より総合診療内科教授、運営責任者。2014年より腎臓教授(兼担)・同大学病院副院長。日本透析医学会理事長・評議員、日本腎臓学会評議員、日本腹膜透析医学会理事・評議員。

(とう)(せき)患者さんは、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいといわれています。私が理事長を務める日本透析医学会の2020年8月27日現在の調査では、日本全体で健康な人が新型コロナウイルスに感染した場合の死亡率が1.9%であるのに対し、透析患者さんの死亡率は12.6%と極めて高い確率で、健康な人の6.6倍という状況です。透析患者さんの死亡率の高さは国内に限った傾向ではないため、感染後に重症化しやすいことは間違いないようです。

透析患者さんが感染後に重症化しやすい理由として、免疫力の低下が考えられます。透析患者さんの免疫力が下がってしまう原因には、加齢をはじめ、(まん)(せい)(じん)(ぞう)(びょう)の原因の4割を占める糖尿病も挙げられます。

腎機能の低下によって体内にたまる尿(にょう)(どく)()も、細菌やウイルスに対する免疫力を下げてしまう原因です。体の老廃物である尿毒素は、腎臓が血液をろ過することで体外に(はい)(せつ)されます。腎機能が低下すると、本来排泄されるべき尿毒素が体内に蓄積されてしまいます。そのため、腎機能が低下した末期腎不全の患者さんは、腎臓に代わって尿毒素をろ過・排泄する透析治療が必要となるのです。

人工透析の技術は著しく進歩していますが、限界があることも事実です。腎不全では体にたまった尿毒素の影響により、細胞が担っている機能が低下してしまいます。免疫細胞も例外ではありません。

慢性腎臓病の合併症である貧血も、免疫細胞の機能を低下させる原因の1つです。腎臓はエリスロポエチンというホルモンを(ぶん)(ぴつ)しています。エリスロポエチンは〝造血ホルモン〟とも呼ばれ、体のすみずみに酸素を送る赤血球を作る働きがあります。

腎機能の低下によるエリスロポエチン不足から赤血球の数が少なくなると、腎性貧血と呼ばれる貧血が起こりやすくなります。免疫細胞が活動するうえで欠かせない酸素が不足するため、免疫力の低下を引き起こしてしまうのです。

透析患者さんにとって、栄養不足も免疫力に大きな悪影響を及ぼします。慢性腎臓病の患者さんは、透析治療を導入する前から厳格な食事制限が必要です。特に、リンとカリウム制限が必要な透析患者さんは、たんぱく質と緑黄色野菜の摂取量が減ってしまいます。すると、アミノ酸や各種ビタミンといった免疫機能の維持に必要な栄養素まで制限してしまうことになるのです。

免疫力が低下している透析患者さんは、新型コロナウイルス感染症に対して最大限の注意を払う必要があります。三密(密閉・密集・密接)の空間には特に注意し、感染のおそれがある場所や機会を避けるようにしましょう。

すでに実践されている手洗いとうがいは徹底してください。日本は欧米諸国に比べて、新型コロナウイルスの感染者数と重症者数が少ない傾向にあります。日本政府や医療機関の取り組みが適切だったことや、老若男女すべての世代に十分な警戒があったことなどが理由として考えられていますが、私は日本人の衛生意識が高く、手洗いやうがいに積極的に取り組む人が多かったことも一因と考えています。

新型コロナウイルスは、セキやくしゃみをする際に感染リスクが高まることが知られています。ウイルスは、口などの(ねん)(まく)に触れることで感染します。口からの感染を防ぐために有効なのがマスクです。マスクを着けることで口からの感染を防ぐだけでなく、感染者によるウイルスの拡散も防げます。目の粘膜からの感染を防ぐために、ゴーグルやフェイスシールドを利用してもよいでしょう。

一般的に、ウイルスはプラスチックや金属上で2~3日は生存するといわれています。透析患者さんは、玄関の扉やドアノブなど、ウイルスが付着していそうなところをアルコールなどでこまめに消毒する習慣をつけましょう。

人混みを気にするあまり、外出の頻度が減って運動不足になることは避けたいものです。気軽にできるウォーキングは、周囲の人と2㍍程度離れて行うと、感染リスクが下がります。自宅の中で毎日できるラジオ体操もおすすめです。

透析患者さんの間で新型コロナウイルス感染に対する予防意識が高まることは大切ですが、絶対に感染を防ぐ方法はありません。感染した人が近くに出ても、落ち着いて対応すること。感染した人もかかりたくて感染したわけではありません。決して攻撃的な行動は取らないでください。

透析患者さんは新型コロナウイルスのみならず、ほかの感染症にも注意が必要です。発熱やセキなど、体調の異変を覚えたら、すぐに医療機関に電話で相談しましょう。透析患者さんは感染症を過剰に恐れず、冷静に向き合うことが大切です。