痛みの悪化を防ぐには自転車こぎが有効で20分で鎮痛物質が脳内から分泌される
腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)は、安静にしているときには症状が出ないことも多く、「どうも長く歩けない」「たまに足がしびれる」という訴えから発症に気づくことが少なくありません。
しかし、背骨の中を通る神経が圧迫を受けた状態が長く続くと、神経が疲弊し、重症化するおそれがあります。肛門や性器周辺に灼熱感を覚えたり、尿が出にくくなったりした場合は、脊柱管狭窄症が進行していると考えられ、早急に治療が必要になります。
多くの患者さんは、神経ブロック注射(麻酔で神経をマヒさせて感じさせなくする治療法)による治療や手術をさけたいと望んでいるでしょう。脊柱管狭窄症は重症化する前であれば、自力で症状を改善することが期待できます。痛みやしびれを感じはじめた人は、日ごろから簡単なセルフケアに取り組みましょう。
今回は、私が多くの患者さんにすすめ、成果を上げている方法をご紹介します。
続けて長く歩けない「間欠性跛行」や、お尻から足にかけてしびれや痛みが出る「坐骨神経痛」が現れたら、脊柱管に通る神経が弱っているサインです。できるだけ神経を解放する時間を作り、回復をめざしましょう。
痛みやしびれの症状が出たときに、必ず行ってほしいのが、イスに両足のふくらはぎをのせる「足上げ休憩」です。
神経の圧迫を取るのが目的なので、長く多く実践してもかまいません。あおむけになってイスに両足をのせることで、腰部の脊柱管が少し広がり、神経の圧迫が緩みます。神経の血流が促進して酸素の循環もよくなり、痛みの改善が期待できます。
なるべく高いまくらを使用すると、より前かがみになるので、狭窄した部分が広がりやすくなって効果がさらに高まります。また、足首をときどき動かすことで、足のむくみを解消する効果も得られます。
次に、脊柱管狭窄症の症状を和らげる簡単な運動をご紹介しましょう。
足のしびれや痛み、間欠性跛行が出ているときは、なかなか運動する気になれないかもしれません。しかし、症状の緩和や悪化防止にぜひ行ってほしいのが「自転車こぎ」です。
自転車をこぐときは、自然と体が前かがみの姿勢になります。前かがみの姿勢で足を動かすと、腰の神経への圧迫を減らした状態で、有酸素運動を行うことができるのです。
少し汗ばむくらいの有酸素運動を20分以上継続すると、内因性オピオイドや内因性カンナビノイドと呼ばれる鎮痛物質が脳内からほどよく分泌されることがわかっています。この点からも、自転車こぎは脊柱管狭窄症の痛みを軽減する方法として非常に有効なのです。
患者さんの多くは足腰に不安を抱えていて、自転車で外を走るのは不安に思うでしょう。おすすめなのは、スポーツジムなどにあるエルゴメーター(自転車型の運動機器)です。専用の運動器具なので、転倒の心配もなく安心です。
「足上げ休憩」と「自転車こぎ」で、痛みやしびれが改善してきたら、インナーマッスル(深層筋)を鍛えながら、背骨の並び(姿勢)を正すことも大切です。前かがみの姿勢ばかり取っているとネコ背になり、腰痛が悪化するおそれがあります。
痛みやしびれの改善後、深層筋を鍛えることで姿勢がきれいに整い腰への負担も軽減する
正常な背骨は、首(頸椎)から腰(腰椎)まで、緩やかなS字カーブを描いています。この形をキープできていれば、腰への負担は最小限になります。
ところが、ネコ背や前かがみの姿勢が続くと、背中の筋肉が必要以上に緊張して収縮。腰への負担が大きくなり、S字カーブがくずれてしまうのです。
背骨の美しいS字カーブを作るには、骨盤がほんの少しだけ前傾した状態が理想です。私は、この姿勢を「美ポジ」(ビューティフル・ポジションの略)と名づけました。
美ポジを保つために大切なのは、背中を支えて体幹を構成する腹横筋や多裂筋といったインナーマッスルです。これらの筋肉を日常的に刺激して強化することで、脊柱管狭窄症の予防・改善に役立ちます。
今回は、「ながらプランク体操」をご紹介しましょう。
ながらプランク体操は、イスに両ひじをのせた姿勢を取る筋力トレーニングです。背骨を安定させる筋肉を効率的に鍛えることができます。
安定したイスに両ひじをのせ、体がまっすぐに近い状態になるまで背すじを伸ばします。このとき、息を止めないようにして体幹が刺激されていることを感じましょう。1日3分が目安で、多少きついと感じるまで行うと高い効果が得られます。
ご紹介した姿勢や運動を毎日実践し、脊柱管狭窄症による痛みやしびれの改善に役立ててください。