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姿勢と血行を良くして腰部脊柱管狭窄症の症状も改善する[太田式呼吸&筋力強化整復(座位編)]

整形外科

太田接骨院院長 太田 慶造

コロナ禍で座る時間が増えると腰の負担増と筋力低下で腰痛・脊柱管狭窄症が悪化

[おおた・けいぞう]——1956年、京都府生まれ。明治東洋医学院専門学校を卒業後、1977年に柔道整復師の資格を取得。ほかの接骨院や救急病院などでの勤務を経て、1982年に太田接骨院を開院。地域の総合病院と連携しながら患者さんの施術にあたる一方で、江戸時代に刊行された『正骨範』や『整骨新書』をはじめ、整骨・接骨の実技に関する膨大な史料をひもときながら伝統医療の研究に取り組んでいる。太田式熨法研究会代表を兼務。

加齢など、さまざまな原因で骨や軟骨、椎間板(ついかんばん)(じん)(たい)が変形すると、背骨の腰の部分にあたる腰椎部(ようついぶ)(せき)(ちゅう)(かん)が狭くなります。すると、脊柱管の内部にある神経や血管が圧迫されて血流も悪化し、神経に浮腫(ふしゅ)(水ぶくれ)や炎症が起こって足の痛みやしびれなどが現れるようになります。こうして起こるのが、腰部脊(ようぶせき)(ちゅう)(かん)(きょう)(さく)(しょう)(以下、脊柱管狭窄症と略す)です。

高齢化に伴って、足腰に痛みやしびれを引き起こす脊柱管狭窄症が急増しています。脊柱管狭窄症は、ひざ関節・股関節(こかんせつ)などの変形性関節症や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)と並んで、ロコモティブシンドローム(以下、ロコモと略す)を招く三大要因の一つです。ロコモは、骨や関節、筋肉といった運動器の障害によって要支援・要介護になるリスクの高い状態のことです。ロコモを放置していると、健康寿命を縮めてしまう危険性が高まります。

足の痛みやしびれが慢性化している患者さんは、坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)を起こしていることが少なくありません。その原因の多くが脊柱管狭窄症です。坐骨神経は、人間の体の中で最も太く長い(まっ)(しょう)神経です。腰からお(しり)、太ももの後ろを通って足先まで伸び、腰椎の下の部分から出ている複数の神経とつながっています。腰椎の部分の脊柱管が狭くなって複数の神経のどれか一本でも圧迫されれば、坐骨神経痛が起こるのです。

脊柱管狭窄症の中で最も特徴的な症状は「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という歩行障害です。間欠性跛行は、しばらく歩くと腰から足にかけて痛みやしびれが起こったり、ふくらはぎに張りが生じたりして歩きづらくなり、前かがみになったり腰かけたりして少し休むと回復して再び歩けるようになる症状です。

脊柱管狭窄症がひどくなると、続けて歩くことができる距離が徐々に短くなります。ほんの数10㍍歩いただけで痛みやしびれが悪化し、一度座って休まないと再び歩けないという状態になる患者さんも少なくありません。

高齢化で急増している脊柱管狭窄症の東洋医学的な原因は「気・血・水」の滞りにあり

最近、緩やかな減少が続いていた新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が増加傾向に一転し、「第7波」における大規模な感染拡大を危険視する声が上がっています。長引く新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)で外出の機会が少なくなり、家で座って過ごす時間が増えたという方も多いことでしょう。

座っていると立っている時よりもらくに感じられるかもしれませんが、上半身の重みや動きが腰の負担になってしまいます。長時間の座りっぱなしの作業は、腰痛の原因となるのです。

オーストラリアの研究機関が行った世界20ヵ国を対象とした調査によると、日本人は平日の座位時間が世界最長の1日7時間に及ぶことが判明しました。コロナ()で在宅ワークを行っていた人は、そうでない人に比べて業務時間の座位時間が1日平均で1時間以上も長く、体を動かす時間も30分ほど短くなっているともいわれています。

コロナ禍での運動不足による筋力・体力の低下は、ご高齢の方の間では心身ともにかなり深刻な問題に発展する危険を含んでいます。脊柱管狭窄症をはじめ、すでに腰やひざ関節の痛みや障害をお持ちの方も、筋力低下による症状の悪化がないか、また何よりも行動を起こす気力自体が損なわれていないかなど、生活の変容が気がかりになることが増えてきています。

脊柱管狭窄症の原因は、西洋医学的には脊柱管の変性ですが、東洋医学的には「()(けつ)(すい)」の流れの滞りに求めます。「気」は体を流れるエネルギー、「血」は気を運ぶ血液、「水」は水分代謝や免疫に関する体液を指すと考えます。この三つの要素が体をうまく巡回するように、漢方や(しん)(きゅう)の治療が施されることになります。

呼吸法で体を健常に保つには、まず「気」の基本的な考え方を大まかに知っていただくことが重要です。「気」は、東洋医学の根幹をなす考え方の一つです。日常生活の会話の中でも、「天気・元気・病気・運気・気分・気持ち・活気・気合い・気力・強気・弱気・気心・気迫」など、「気」を用いずに会話することすら困難なくらい「気」は身近に存在して活用されています。

初めに「気」は、宇宙も含めた万物を構成する基本物質であるとされています。人の体も自然界の一部として存在し、自然界の変化とともに同じ法則で動いていると考えられています。そして、「気」は感じることができても見ることはできず、不変のものではなく絶えず変化するものとします。「気」は「先天の気」と「後天の気」の二つに大別されます。

「先天の気」は、両親から授かった生まれ持った「気」です。生まれた時に最も多く、その量と質には個人差があります。加齢や病気、生活の乱れ、過度の肉体的・精神的ストレスなどで「先天の気」は減少してしまいます。

「後天の気」は、呼吸によって肺に吸収される「天の気」(空気・清気)と飲食によって摂取される「地の気」からなり、減少する「気」を補って成長と活力を与えます。呼吸法においては後天の気の「天の気」を意識しますが、鼻から吸い込まれた「気(空気)」が肺に入って血液によって全身に運ばれ、古くなった(役目を終えた)気は逆の経路をたどって天に返すと考えます。そして、心身は大気と一体となり、肌でも大気を通じて宇宙の気を感じ取って吸収できるイメージを持ちます。

深い呼吸・ソフトな運動で脊柱管狭窄症の症状を改善する[太田式呼吸&筋力強化整復(座位編)」

今回は、長時間イスに座ることの多い方におすすめな、深くゆったりとした呼吸とともに行う[太田(おお た)式呼吸&筋力強化整復(座位編)]をご紹介します。[太田式呼吸&筋力強化整復(座位編)]に取り組むことで、心肺機能や筋力の強化に加え、呼吸に伴って動く内臓の働きも整える効果が期待できます。また、姿勢と血行が良くなるため、脊柱管狭窄症の改善にも有効です。

運動では、無理に筋肉を引き伸ばさず、個々の骨格の可動域を超えない範囲で継続的に行うことが重要なポイントになります。次に[太田式呼吸&筋力強化整復(座位編)]を行ううえでの基本となる心得・所作をご紹介しましょう。

①イスに座る深さ
両足の足底全体をしっかりと床に着け、足首の関節とひざ関節・股関節(こかんせつ)が約90度になるように腰かけます。

②骨盤のゆがみの調整
骨盤の左右の坐骨(座面に触れる出っ張った骨)に均等に体重をかけて背すじを伸ばします。体の力を抜いても姿勢が崩れないような骨格のバランスを心がけます。

③「平素の呼吸
「平素の呼吸」とは、覚醒(かくせい)時に無意識に行っている胸式呼吸で、鼻呼吸を原則とします。[太田式呼吸&筋力強化整復(座位編)]は「平素の呼吸」で行います。

一般的によくいわれる胸式呼吸と腹式呼吸の特徴は、座位において行うとよく分かると思います。胸式呼吸の場合は、息を大きく胸に吸い込むことで自然と(きょう)(かく)が持ち上がり、姿勢が良くなります。一方、腹式呼吸の場合は、息を大きくおなかに吸い込むことでやや鎖骨が下がり、胸郭も下がりぎみになります。私の経験上、立位や座位の運動は胸式呼吸、寝た姿勢(仰臥位(ふくがい))の運動は腹式呼吸で行うと自然で効果的な動きになることが多いと考えています。

[太田式呼吸&筋力強化整復(座位編)]の途中で運動と呼吸のタイミングが合わなくなっても、苦しくないゆっくりとした呼吸とゆっくりとした動作が行えれば問題ありません。慣れてくれば自分の呼吸と運動の調和が取れるようになります。もしも、運動中に呼吸が苦しくなった時には、休憩や平素の呼吸を挟みながら過呼吸にならないように行ってください。

それぞれの[太田式呼吸&筋力強化整復(座位編)]の目安は、1回につき3セット、1日3回です。朝・昼・晩などに分けて行うといいでしょう。吐く時間を吸う時間の2倍以上かけるのがポイントです。地味そうですが、しっかり行えば、それなりにハードな運動です。

脊柱管狭窄症による足腰の痛み・しびれを改善する手段として、呼吸法による体幹の筋力強化はたいへん有効かつ安全な方法です。呼吸に使われる筋肉は主に横隔膜(おうかくまく)肋間筋(ろっかんきん)肋骨(ろっこつ)の間の筋肉)ですが、運動量に応じて多くの体幹の筋肉が呼吸を補助しています。

普段、当たり前のように行っている呼吸も、考えてみれば「空気・大気」というエネルギーの出し入れであり、汚染された「気」よりも清らかな「気」のエネルギーを取り入れたいはずです。少しでも窓を開けて大気の新たな気を取り入れ、体内で役目を終えた古い気を大気に返して気の循環を感じながら行えば、さらに新鮮な感覚が得られるでしょう。都心を離れた自然の中では、大きな深呼吸を行って思わず「うまいッ」という定番のセリフが飛び出します。それこそが「清気」が五体に運ばれた瞬間なのです。