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「好き」を軸に発達障害の子どもを支援! 隠れている才能と魅力を伸ばしたい

患者さんインタビュー

株式会社WOODY代表取締役社長 中里 祐次さん

長男の極端な集中力に驚きましたが自分とそっくりだったんです

[なかざと・ゆうじ]——2007年、早稲田大学卒業後、株式会社サイバーエージェント入社。 子会社の株式会社サイバー・バズ、株式会社プーペガールなどを経て、2013年に株式会社WOODYを設立。発達障害や不登校の子どもの可能性を伸ばすBranchを運営。ビジョンは『「好き」で自信を創り、「好き」で社会とつながる』。

僕の長男はASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如(けつじょ)・多動症)をあわせ持っています。診断されたのは小学一年生の時でしたが、もっと小さい頃から両方の特性を持っていたんだと思います。

長男は、僕が前職のサイバーエージェントに入社した後にすぐ生まれました。当時は忙しさにかまけて子育てを妻に任せきりだったので、ほとんどかまうことができませんでした。二人目の子どもが生まれた頃でしょうか、妻から「この子は落ち着きがなくて、すぐに目の前から消えて迷子になってしまう」という悩みを聞かされました。実際にどれだけ落ち着きがないのか、じっくり長男と話してみると、意外にも、電車の名前を片っ端から記憶していたり、大人向けのアニメにはまっていたりしていたことが分かりました。

長男のちょっと変わった性格、言い替えると「極端な集中力」は、自分も昔からあったことを思い出しました。中学の頃から本と漫画に熱中し、本は年間200冊以上、漫画は1000冊以上も読む生活。東京都立青山(あおやま)高校在学中は月8万円ほどのアルバイト代の半分を古本と漫画の購入につぎ込みました。早稲田(わせだ)大学第二文学部(現・文化構想学部)に進学してからは、世界の民話全集や民俗学、宗教学関連の本に没頭していたんです。

僕自身、学生時代は本に熱中していたので、長男がASDやADHDと診断されても「へえ、そうなんだ」としか思いませんでした。むしろ、生まれた頃から顔は僕にそっくりだと感じていましたし、性格も「ちょっと変わっているな」くらいに思っていただけで、まさかそれが〝障害〟だなんて思いませんでした。

長男は相手の気持ちをくみ取ることが得意ではありませんが、一方で異様に高い言語能力を駆使してとうとうと正論を述べ、友だちを言い負かしてしまうこともあります。短時間で処理能力が試されるテストは苦手ですが、レゴブロックなど自分の興味のある分野には、並外れた集中力で彼独自の感性を発揮していることも感じられました。

長男が6歳の時、東京大学の文化祭で「レゴ部」を訪ねると、長男の様子が明らかに変わったんです。目をキラキラと輝かせながら、東大生に向かって親もタジタジになるほどの積極さで質問をしていました。

この時の長男の姿は、親の僕から見ても生き生きと輝いて見えました。本人も「ほんとうに楽しかった」といっていました。この出来事をきっかけに「これからはこの子の好きなことを伸ばしてあげよう」と思ったんです。

長男がレゴ部で自分らしく輝いたように、同じような子どもたちを支援する道はないだろうか? 切実に考えはじめた僕は、まずは発達障害のお子さんを育てている100人近くの親御さんに聞き取り調査を行いました。その結果、多くの親御さんは、わが子が社会に溶け込めること、つまり対人関係をうまく築いて育つことを願っていました。一方で、子どもの好きなことを伸ばすために、どのような環境を作ればいいのか分からないという意見もありました。

この経験を踏まえて、「『好き』で自信を創り、『好き』で社会とつながる」というビジョンを掲げた株式会社WOODY(ウッディ)を2013年11月に設立し、Branch(ブランチ)というサービスの提供を始めました。提供している主なサービスは三つで、好きを通して交流するコミュニティの運営、「好きなことを伸ばす」ことに特化したメンターによる訪問・ビデオチャットサービス、好きなことにとことんこだわれるフリースクールの運営です。いずれも「好き」がキーワードです。

Branchを立ち上げてから今日に至るまで、サービスを利用していただく際には、保護者の方と必ず事前に面談しています。面談とサービス提供を重ねる中で、発達障害・不登校の子どもたちとご家族の「課題」「困りごと」は、大きく三つに集約されることが分かってきました。

一つ目は、社会とのつながりが薄くなってしまい、子ども自身の自己肯定感が低くなっていることです。そのような子どもたちは、毎日「死にたい」といっていたり、自傷行為をしていたりします。

二つ目は、子どもの好きなことを伸ばしていきたいが、独特な感性や衝動性が強いために受け入れてくれる場所がないことです。例えば、折り紙以外にはまったく興味を持たなかったり、人が話しているのを落ち着いて聞いていられなかったりする子どもたちの居場所を見つけることは容易ではありません。

三つ目は、個性としての凸凹(でこぼこ)が極端すぎて、保護者でも理解が難しくなることです。子どもたちの興味が毎日のようにコロコロと変わったり、関心の対象が個性的すぎて、ついていけなかったりする現実です。

東京・代官山にある教室のブランチルームに飾ってある子どもたちの作品

Branchではこうした課題を解決するために、「子どもたちが好きなことを好きなだけできる場所」を設けています。そこには、子どもたちと一対一で向き合える、その道のスペシャリストといえる「メンター」と呼ばれるスタッフがいます。サービスを利用していただいた後には、子どもたちの特性や好きなことに対するコメントをメンターが独自の視点で記す「好きなこと発見シート」というレポートをお渡しします。

「好き」というキーワードは、子どもたちだけが楽しむものではありません。親御さんや保護者の方も、子どもたちと一緒に楽しんだり理解したりすることを推奨しています。子どもたちにとっていちばんうれしいのは、身近なご家族が自分の好きなことを理解してくれることです。例えば、お子さんが大好きなアニメを親御さんがまったく知らない場合と、出てくるキャラクターの名前を少しでも知っている場合とでは、お子さんが感じる親近感は大きく異なってきます。

また、「わが子の好きなことや特性、魅力を見つけられない」と悩んでいる保護者の方からのご相談はとても多いんです。でも、子どもたちにはそれぞれ好きなことや特性がありますから、どうか安心してください。見つけ方はいくつかありますが、一つご紹介しましょう。

その方法は、「勉強以外の好きなことや得意なことを認めてあげること」です。お子さんがゲームや昆虫、鉄道の知識、レゴブロックを使った創作など、学校教育とはまったく関係のない分野が得意という場合、保護者がそれを見逃しているケースがよくあります。テストの点数や学校の成績には関係なくても、お子さんが熱中できる分野があるのなら、それこそがお子さんの特性だと認めてあげましょう。

いったん認めてあげると、子どもの自尊心が高まってきて、少しずつ変化が起こりはじめます。例えば、これまで挑戦しなかったことに挑戦するようになったり、感情が落ち着いて穏やかになったりする子どもを多く見てきました。

小さい頃の経験は、将来どのように生きてくるか誰にも分かりません。自分自身を振り返ると、学生時代にプログラミングを勉強していたら役立ったとは思いますが、漫画やアニメに熱中した経験が今のビジネスに生かされています。

「飛び抜けた好き」を極める環境を保護者が整えてあげましょう

学校の成績やテストの点数は確かに大事ですが、お子さんが熱中する分野を認め、自信をつけさせることが重要です。お子さんの自己肯定感が高まると、好きな分野をより探究しようと、積極的になります。その結果、お子さんの得意分野がさらに伸びて、ますます自信がつくという好循環が生まれるのです。

お子さんの好きなことを見つけたら、親御さんたちもその世界観に入り込んでみてください。こんな例があります。ブランチルームに来て熱心にレゴブロックで遊んでいる子どもがいました。話しかけてもあまり反応がなかったので、声かけを控えて観察していると、黄色いレゴブロックを多く使っていることに気づきました。そこで黄色いレゴブロックを集めて、その子どものそばに置くと、どんどん使ってくれたのです。この黄色いレゴブロックをきっかけにして、徐々にコミュニケーションが取れるようになりました。

「小さい頃の経験は、将来どのように生きてくるか誰にも分かりません」

この時に僕が心がけたのは、無理して子どもに声がけをしなかったことです。また、子どもがレゴブロックに集中しているのであればともにその世界観に入り込み、子どもがより集中できるように行動で助けてあげました。子どもから〝心地良い人〟と認識してもらうことで、コミュニケーションが円滑に進みやすくなります。ぜひ、子どもがより集中できる状態をサポートしてみてください。

発達障害のお子さんを持つ親御さんや保護者と話していると、発達障害に関する情報収集の格差があると感じています。インターネットや自治体の担当部署である程度の情報は入手できるものの、限界があるのも事実です。そこで、調べ方の一つの工夫として「地域名+親の会+発達障害」というキーワードで検索してみてください。この方法で調べると、特定地域で発達障害の子どもを持つ保護者とのつながりを持つことができます。

地域における親の会のいいところは、保護者としての先輩たちから話を聞けることです。小学校低学年のお子さんを持つ保護者は、高学年になった時の悩みを想定できますし、自治体の対応を事前に知ることもできます。さらに、周囲には相談しにくい不安や悩みを打ち明けることもできます。発達障害の子どもを持つという同じ環境にいるからこそ、互いに分かり合え、助け合うこともできるんです。

地域にある親の会以外にも発達障害の子どもを持つ保護者と情報交換をしたい場合は、「Branchオンラインコミュニティ」がおすすめです。Branchオンラインコミュニティは、Discord(ディスコード)ZOOM(ズーム)というツールを利用して、どこでもつながれる安心・安全なサービスです。コロナ()で直接会うことを控えている保護者どうしでも、安心して情報交換ができます。

発達障害の子どもが持つ「好きなことに対する集中力」は、かけがえのない特性であり能力です。これからの時代は、何が正解で何が不正解か分かりません。そのような時代だからこそ「飛び抜けた好き」を持つ人間が世の中から認められるかもしれません。お子さんの自信は、好きなことから生まれます。親御さんのほうから、お子さんの好奇心を満たす環境を作っていただきたいと思います。

発達障害や不登校のお子さんの好きなことを見つけ、好きなことができる環境創りをするサービス。保護者コミュニティもあり、情報交換や質問・相談もできます。