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医療の形を変える目標を実現するために活動を続けます

患者さんインタビュー
患医ねっと代表 鈴木 信行さん

再発した精巣がん治療の副作用で食欲がわかなくなり体重が10㌔も減りました

[すずき・のぶゆき]

1969年、神奈川県生まれ。2011年、患医ねっとを立ち上げ、患者の視点から日本の医療環境をよりよくするための活動を開始。2015年12月からペイシェントサロン協会会長を兼務。精巣腫瘍患者友の会副代表、北里大学非常勤講師、上智大学非常勤講師、日本二分脊椎症協会元会長、NPO法人患者スピーカーバンク前理事長。

私は、二分脊椎症(生まれつき背骨がしっかりと成長せずに起こる神経系の病気)という障害を持って生まれました。背骨内を通る中枢神経が正常に働かないため、排尿や排便、さらには下半身の感覚がありません。筋肉や骨のバランスが悪いので走れず、歩くにも杖を使います。国から身体障害者2級と認定を受けています。

ただ、生まれたときから障害を持っていたので、私にとっていまの体はあたりまえなのです。もちろん、他人と比較すれば運動能力などで差は感じます。しかし、それを特別と思ったことはなく、悲観することもありませんでした。

それどころか、目立ちたがり屋で人の上に立ちたい性格のため、小さいころから自分の意見や考えをはっきりと主張してきました。学校生活はいずれも通常クラスで、大学にも問題なく通っていました。

大学3年生のとき、定期検診を受けながら医師と会話する中で「左右の精巣の大きさが変わってきたんですよ」といったら、すぐに検査することになりました。精密検査を受けると、精巣腫瘍と診断されました。正しくは「がん」だったわけですが、当時私は20歳だったので、医師や親が気を遣ってがんという言葉は告げなかったようです。私は治る病気といわれていたので、特に落ち込むこともなく入院し、治療を3ヵ月間受けて退院しました。

ところが、社会人1年めに定期検診を受けると精巣がんが再発していることがわかり、さらにみぞおち付近のリンパ節に転移していたんです。会社に休暇をもらってすぐに入院し、9ヵ月間の治療を受けました。

精巣がんは5年生存率が9割以上と高いため、適切な治療を行えば治ることはわかっていましたが、当時の抗がん剤治療の副作用がひどく、いまとは違い血を吐く思いでした。特に吐きけが強烈で、ふだんは気にならないような医療従事者の体臭や同室の患者の食事のにおいに過敏に反応し、そのたびに吐きけが起こりました。副作用のせいで食欲がわかず、体重は10㌔も落ちてしまったんです。

「5年生存率の治らない1割に入るのでは……」と悲観的に考えるようになっていました。抗がん剤治療後に受けた外科手術で生じたマヒ性腸閉塞(イレウス。開腹手術などで腸管がマヒして腸の動きがなくなる状態)の影響で、治療のスケジュールが遅れたときは「この間にもがんは大きくなってしまう」と不安になり、毎晩のように病院のまくらを涙でぬらしました。

一方、回診に来る医師や看護師の前では「体調は大丈夫」と、虚勢を張る自分がいました。落ち込んでいる姿を他人に見られたくないという性格的な面もありますが、患者が抱える悩みや不安を医師や看護師に気軽に話せる環境が当時は整っていなかったことも大きいと思います。

患者と医療従事者が交流できる機会や場所を作ることが私の楽しみだと気づきました

末期の甲状腺がん治療で入院していたときの鈴木さん

つらかった抗がん剤治療を乗り越えたおかげで、精巣がんと転移がんは消失しました。私は患者として医療現場の問題点を痛感し、患者と医療従事者がしっかりとコミュニケーションを取れる環境やしくみ作りが必要だと強く思い、行動に移すようになっていきました。

その1つが「精巣腫瘍患者友の会『J-TAG』」です。自分と同じ病気を持った人たちと意見や情報を交換することで、少しでも気持ちがらくになれるようにという思いから設立に協力しました。患者会に医師を呼んで、患者側と医療従事者側の意見や気持ちを伝え合って、医療現場でのコミュニケーションを促すイベントも企画しました。

もともと会員であった「日本二分脊椎症協会」での活動も積極的に行い、一時期は会長を務めたこともあります。二分脊椎症は先天性の病気なので、患者の親に話す機会が多く、私のありのままの姿を見てもらうことで「心配しなくても大丈夫です。私は成人して社会人としてきちんと働くことができます」というメッセージを伝えています。 私は、さまざまな人々との新たな出会いをくり返すことが心底楽しいと感じ、気軽に交流できる場をもっと作りたいと思ったのです。その中で、高齢者に画一的な介護サービスではなく、心から行きたくなるような「場」を提供したいと考えて誕生したのが「みのりCafe」です。

みのりCafeは、高齢者はもちろん、私の知り合いの患者や医療従事者が多く集まる場所になりました。患者と医療従事者の関係性を良好にするイベントや勉強会を開催しています。だんだんと勉強会の規模が大きくなり、組織にしようということでできたのが、現在代表を務めている「患医ねっと」です。

しだいに患者の声を知りたいと講演に呼ばれる機会も増えていきましたが、私の体は1つしかありません。そこで、私と同じように患者の立場から医療現場を改善する提案やスピーチができる人材を育成する「NPO法人患者スピーカーバンク」を設立しました。

私は「患者と医療従事者をつなぎ、よりよい医療現場を実現する」という理念を掲げ、活動を行っています。医療関連の大学や企業に出向き、私が経験してきたことを伝え、医療現場の改善をめざしているのです。近年、特に力を入れているのが、薬剤師と薬局の啓発活動や研修です。

薬剤師と聞くと、処方箋に従って、ただ機械的に薬を調合している人と思われる方もいるかもしれません。しかし実際は、薬剤師は薬や医療に関する豊富な知識を持った専門家なのです。薬剤師がもっと医療現場に参加するようになれば、日本の医療のしくみが変わると私は考えています。

私が望むこれからの医療のあり方は「かかりつけ薬剤師制度」を進化させたものです。かかりつけの薬剤師として地域住民の健康状態をふだんから把握し、病医院を受診する前に相談に乗ってあげられる存在になってほしいのです。市販薬で治る状態であれば薬局で問題は解決し、症状が重い場合は薬剤師が医療機関を紹介してくわしい状態を伝えればすみます。

このしくみの中で重要な役割を果たすのが、どこの薬局で作ってもらえる「おくすり手帳」です。多くの場合、おくすり手帳は十分に活用されているとはいえません。おくすり手帳の正しい活用方法は、自分の健康状態を書き込んだおくすり手帳をかかりつけ薬剤師に見せて、医療従事者としての総合的な視点からのアドバイスをもらうのです。

正しいおくすり手帳の活用とかかりつけ薬剤師が実現すれば、近年問題視されている多額の医療費や病院の待ち時間を削減することにもつながります。何より、患者と医療従事者の間で信頼関係が自然と築け、患者を応援する環境ができあがると私は考えています。

明確な目標を持つことをおくすり手帳に書くことで医師と意思疎通が図れます


鈴木さんが実際に書いているおくすり手帳のメモ。書き方は自分がわかればいいとのこと

現在、私は末期甲状腺がんを患っています。2年前に判明し、手術と放射線治療を受けました。がんは広く転移していて、体のどこかにいまも残っている状態です。でも、私は「医療現場を改善したい」という明確な目標があるので、前向きに生きることができています。

読者の方々の中には、私と同じようにがんの闘病中の方も少なくないと思います。そのような人に伝えたいのは、明確な目標を持つことの大切さです。

まず、自分がやりたいことを考えましょう。例えば、朝起きたら何をしたいのか、逆にやりたくないのか。胸に手を当てて心の声を聞き、そのとおりに実行してみてはいかがでしょうか。さらに、その考えをまわりの方方に話すと協力を得られることでしょう。

患者の中で、面と向かって医師に意見を伝えるのは難しいという方は少なくありません。そのような場合は、医師に伝えたいことや確認したいこと、気になることなどをおくすり手帳に事前に書いておくことで解決します。

「先生に寒いところに行ってはダメといわれたけど、私はどうしても朝釣りをしたい……」という気持ちも、メモであれば書けると思います。例えば、私は甲状腺がんの手術のときに声帯が傷つく可能性を極力減らしたかったので、「傷口は大きくなってもかまわないので、声帯を傷つけないでください」とおくすり手帳に書き、医師に見せました。その結果、希望どおりの手術を受けることができたのです。

死を恐れながら生きるのではなく、やりたいことを積極的に実行するようにしましょう。たとえ私のように末期がんを患っていたとしても、充実した楽しい毎日を過ごすことは十分に可能なことなのです。
 

この記事は「健康365」2018年8月号に掲載されています。