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腎機能を維持するには高血圧対策が不可欠で食塩過多な食生活の見直しが必須

糖尿病・腎臓内科

一般社団法人テレメディーズ代表理事、福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科博士研究員 谷田部 淳一

高血圧や慢性腎臓病の治療は「食塩の管理」が根幹で健康寿命の延伸には食生活が重要

[やたべ・じゅんいち]——1999年、福島県立医科大学医学部卒業後、星総合病院内科医員、福島県立医科大学附属病院第3内科診療医、米国バージニア大学研究員、高田厚生病院内科医長・栄養科科長、福島県立医科大学医学部薬理学講座助教、同大学腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科助教、東京女子医科大学医学部高血圧・内分泌内科学講座助教・講師などを歴任。2018年、一般社団法人テレメディーズを設立して代表理事に就任。2015年より福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科博士研究員を兼務。日本内科学会認定内科医、日本高血圧学会認定専門医・指導医・評議員、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医・評議員、日本腎臓学会評議員、日本薬理学会評議員。

高血圧や慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)(CKD)、人工透析(じんこうとうせき)の患者さんは、進行度や体調によって適切な薬が処方されますが、治療の根幹は食事療法、つまり日々の食生活です。食事療法の中でも、特に重要なのが「食塩の管理」といえます。

食塩の過剰摂取で心配なのが高血圧ですが、高血圧について理解を深めるためには、まず血圧とはなにかを知る必要があります。血圧は「血管壁に与える血液の圧力」のことで、心臓から拍出される血液量(心拍出量)と末梢(まっしょう)血管における血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)によって決まります。すなわち、血圧は「心拍出量×末梢血管抵抗」という数式で算出できます。

心拍出量には、食塩の過剰摂取や腎機能の低下が大きく関わっています。血液中に食塩の元になっているナトリウムが増えると、体液濃度を一定に保つ機能が働き、のどの渇きを覚えて水分をとるようになります。その結果、補給した水分の量だけ血液量である心拍出量が増加し、血圧が上昇するのです。腎機能に異常があると、水やナトリウムの排出が滞りやすくなり、血圧が高い状態が続いてしまいます。一方、末梢血管抵抗の増加には、動脈硬化によって血管内腔(ないくう)が狭くなることや血管の調節機能の低下が影響しています。

血圧には、収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)があります。心臓は収縮と拡張を繰り返してポンプのように動くことで、血液を全身に送り出しています。心臓が収縮した時の動脈内圧力が最高血圧です。短い時間で血液が送られるため、血管壁にかかる圧力が最も高くなります。血管の老化である動脈硬化が進行すると血管が硬くなって弾力性も失われ、最高血圧が高くなる傾向があります。

一方、収縮した心臓の中に血液が再び送り込まれ、心臓が拡張して元の大きさに戻る時の動脈内圧力が最低血圧です。大動脈にたまっている血液のみが血管に送り出されるため、血管壁にかかる圧力は最も低くなります。

成人の正常血圧は、最高血圧が120㍉未満かつ最低血圧が80㍉未満です。最高血圧が140㍉以上または最低血圧が90㍉以上を高血圧と定義しています。

現在、日本には約4300万人の高血圧患者さんがいると推定されていますが、そのうち血圧がきちんとコントロールされているのは約1200万人しかいないといわれています。残りの約3100万人のうち、約1400万人は自分が高血圧であることを知らず、約450万人は知っているものの減塩や服薬を行わず、約1250万人が減塩や服薬を行っていても目標値に達していない人たちです。

高血圧に対する生活習慣改善法の基本である減塩をしない人が多い理由は、自覚症状が乏しいからです。医療機関で高血圧と診断されても自覚症状がほとんどないため、減塩の必要性を感じにくいかもしれません。しかし、減塩をせずに放置したままでいると、血管の老化はじわじわと進み、やがて動脈硬化や心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳卒中、慢性腎臓病といった重篤(じゅうとく)な合併症を引き起こすおそれが高まります。

心筋梗塞や脳卒中、慢性腎臓病を発症してから後悔しても、もう取り返しがつきません。高血圧治療の基礎として大切な減塩を行う目的は、合併症を未然に防いで健康寿命を延ばすためです。老後の人生を謳歌(おうか)するためにも、高血圧の対策は欠かせないものといえるでしょう。

食塩を控える工夫としては、次の方法が挙げられます。

● カツオ節やコンブ、煮干しなどダシを効かせる
(めん)類のスープを飲み干さずに残す
● しょうゆはかけずにつけて使う
● 香辛料やハーブを活用する
● 加工食品を控える
● 汁物は具だくさんにする
● 漬物の代わりにピクルスにする
● 減塩調味料を使う

これらの減塩の工夫を実践すると、早ければ1週間ほどで味覚が薄味に慣れはじめます。その結果、日常的に食塩摂取量を減らすことが可能になり、持続的に1日6㌘未満を維持できるようになるでしょう。

また、減塩以外で高血圧を改善する方法として、カリウムをしっかりとることが挙げられます。野菜や果物、豆などに含まれるカリウムは尿へのナトリウムの排出量を増やすため、血圧の低下に役立つといわれています。

近年、ナトリウムとカリウムの摂取バランスを表す指標として、ナトリウム・カリウム比(ナトカリ比)が注目されています。ナトカリ比の数値が低いと、食塩摂取量が少なく、野菜や果物などに多く含まれているカリウムをたっぷりとっているといえます。一方、ナトカリ比の数値が高いと、食塩摂取量が多い、あるいはカリウムを多く含む野菜や果物の摂取量が不足していると考えられます。

ナトカリ比が低ければ低いほど、高血圧のリスクは低下すると考えられています。日本人を対象とした調査(NIPPON DATA2010)によると、日本人の平均ナトカリ比は3.77と分かっています。理想のナトカリ比は1.0のため、ナトリウムの摂取量を減らしてカリウムを積極的に多くとる必要があります。血圧が高くてナトカリ比が気になる人は、市販されているナトカリ計を活用したり、医療機関で測定したりすることをおすすめします。

健康診断で高血圧と診断された時は驚くかもしれませんが、減塩に取り組んで健康な体を取り戻すチャンスととらえることもできます。高血圧専門医として強く伝えたいのは、「減塩に取り組むことは本人だけにとどまらず、家族を病気から守ることにもつながる」ということです。自分が高血圧であることが分かったら、減塩の取り組みを身近な人と共有しましょう。動脈硬化を防ぎ、脳梗塞や心筋梗塞といった血管障害によって起こる病気を家族・地域ぐるみで起こりにくくできるのです。