おしゃれを楽しんで前向きになれることに気づきがん患者向けのおしゃれ動画を配信
乳がんを発症した私が感じているのは〝がんは日常を奪う〟 ということです。抗がん剤治療を経験された方であれば、思い当たるのが脱毛の悩みだと思います。髪やまゆ毛、まつ毛が抜けてしまうため、メイクアップができなくなります。脱毛は男性にとっても大きな悩みだと思いますが、女性のがん患者にとってはより深刻です。
私は、がん患者であってもおしゃれを楽しむことで日常を取り戻し、たとえ闘病中であっても気分が明るくなり、元気になれることに気づきました。自分と同じように、抗がん剤治療による脱毛に悩んでいるほかの患者さんが、メイクアップをきっかけに元気になるお手伝いができたらと思いました。
そこで、知り合いの美容師さんたちと協力して、インターネット動画サイトのYouTubeに、元気になるメイク&ヘアセットの方法を伝える「がんでもキレイに」という動画の配信を始めたのです。動画の配信をしたご縁から、私が所属する一般社団法人キャンサーペアレンツで、がん患者向けのメイクアップセミナーのお手伝いをさせていただいたこともあります。
私が最初に乳がんと診断されたのは、40歳になったばかりの2013年7月のことでした。がんは5㌢ほどの大きさで、わきの下のリンパ節に転移しており、ステージⅡと診断されました。
治療ではまず手術で乳がんを取り除き、続いて抗がん剤を投与することになりました。抗がん剤治療を受けると副作用で髪が抜けるとは聞いていましたが、実際に髪やまゆ毛、まつ毛がなくなった自分の姿を見るのは、思っていた以上につらいものでした。
私は、脱毛の悩みを解消するために、がん保険で医療用ウィッグ(かつら)を購入しました。13万円もしたのですが、医療用ウィッグは形が決まっていてかぶり心地もしっくりせず、おしゃれ感覚で身につけるというものではありませんでした。
無事に治療を終えてようやく日常を取り戻すことができたと思った2年半後の2016年2月に、乳がんが再発しました。再発した乳がんは周辺のリンパ節や背骨にまで転移しており、ステージⅣと診断されたのです。
2月にがんの再発を告げられ、放射線治療が始まりました。その後、5月から抗がん剤治療を開始し、6月半ばから再び脱毛が始まりました。自営業を営んでいる私にとって幸いだったのは、まわりのスタッフや仲間が仕事をつないでくれたことです。闘病中であっても、仕事をするためには人前に出なければならず、人前に出るためにウィッグやメイクアップをしなければならないと強く感じました。
1度めの乳がんで、がん保険を使ってしまったので、13万円という高価な医療用ウィッグはもう買えません。どうせならと思って購入したのが、1万円ちょっとのファッションウィッグでした。ヘアカラーも選べるし、素材もいろいろな種類があるため、ヘアスタイルもアレンジできる――ケガの功名とでもいえるかもしれません。このとき、「がん患者でもおしゃれができるんだ」と気づきました。
まゆの始点・終点を決めるなどの工夫でがん患者でも上手にメイクアップが可能
がん患者向けのメイクアップのポイントは、まゆ毛です。副作用でまゆ毛が抜けているため、描く基準が決めづらいのが難点です。そのため、まゆ毛の始点と終点を決めるなどのポイントを押さえる必要があります。こういったポイントや表情に合わせた描き方、ウィッグと合わせた色の選び方などに気をつければ、きっとうまくメイクアップができると思います。
今回「健康365」でご紹介した動画では、わかりやすくメイクアップのしかたを伝えています。誌面では、「メイクアップのやり方」のイラストを参考にメイクアップをしてみてください。