プレゼント

関節リウマチ患者の3割が間質性肺炎を併発!肺機能の低下や感染症にも要注意

呼吸器科

埼玉医科大学副学長/慶應義塾大学名誉教授 竹内 勤

関節リウマチは全身に炎症が起こる自己免疫疾患で呼吸器の機能にも影響

[たけうち・つとむ]——1980年、慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。1985年、米国ハーバード大学ダナ・ファーバー研究所留学。埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科教授、慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科教授、同大学病院病院長、埼玉医科大学特任教授・学長特別補佐を経て、2022年より現職。東京大学先端科学技術研究センターフェローを兼務。日本リウマチ学会指導医・専門医、日本感染症学会専門医・指導医、日本アレルギー学会認定医。『患者のための最新医学 改訂版リウマチ』(高橋書店)など著書・監修書多数。

中高年の方を中心に「関節リウマチ」という疾患をご存じの方は多いと思います。病名にあるように、関節リウマチは関節を中心に症状が現れる疾患ですが、呼吸器疾患の一つとされる「間質性肺炎(かんしつせいはいえん)」の発症や増悪(ぞうあく)の原因になるおそれもあります。そのため、関節リウマチと診断された患者さんは、自覚症状の有無にかかわらず、呼吸器に合併症がないかのチェックが推奨されます。関節リウマチに間質性肺炎を合併しているかどうかによって、医師が検討する治療法が異なるためです。

肺は「肺胞(はいほう)」という小さな袋状の組織が集まって構成されています。肺胞の周囲には網の目のように血管が巡り、呼吸によって空気中の酸素と血液中の二酸化炭素を交換するガス交換が行われています。

肺胞の周囲には弾力性のある肺胞壁があり、肺胞どうしの間には「間質」という組織が存在します。間質性肺炎は、間質がなんらかの原因によって炎症を起こし、硬くなっていく(線維化(せんいか))ことで進行します。その結果、肺胞壁にも炎症や損傷が起こり、肺胞の機能であるガス交換に支障をきたすようになります。このように、肺の間質に炎症が起こることで発症する呼吸器疾患を間質性肺炎と呼びます。

間質性肺炎の主な症状は、セキや息切れです。進行すると呼吸困難を招いて日常生活で酸素吸入が必要になるなど、生活の質が著しく低下してしまいます。難治性の疾患として知られる間質性肺炎の発症には複数の原因が考えられ、そのうちの一つが、私の専門である関節リウマチです。

関節リウマチは、自己免疫疾患の一つです。自己免疫疾患とは、外からの病原体や体内で生じる異物などから体を守っている免疫の機能に異常が生じ、逆に自分自身の体を攻撃して炎症や損傷を起こす疾患です。

関節リウマチの患者さんは、手の指をはじめとした関節に炎症が起こり、痛みやこわばりを自覚します。適切な治療を怠ると、しだいに関節の軟骨や骨が破壊され、進行すると関節の変形も現れるようになります。関節リウマチはその病名から関節に強い症状が出ると思われがちですが、炎症は全身で起こっています。

米国で行われた調査結果。1955年~1995年に関節リウマチと診断された582例のうち、間質性肺炎の併発が確認された46例を対象に調査。間質性肺炎を合併した関節リウマチ患者は、合併していない患者と比較すると生存率が低下していることが分かった

関節リウマチに間質性肺炎が併発しやすいのは、関節以外に炎症が起こる場所として、肺の間質組織があるからです。関節リウマチは、進行するほど全身の炎症が強い状態になるため、症状が進んだ患者さんは間質性肺炎を合併している可能性が高いと考えられます。

統計上では、関節リウマチと間質性肺炎の合併率は10~30%といわれていますが、進行した患者さんに限定すれば、合併率はさらに高くなると考えられます。実際に、臨床の現場でも、関節リウマチの状態が悪い患者さんほど間質性肺炎を合併していると感じます。

米国で行われた調査では、関節リウマチの患者さんは、間質性肺炎を合併すると生存率がより低下するというデータもあります(グラフ参照)。関節リウマチの治療を受けても体調が思わしくない方や呼吸器の症状がある方は、間質性肺炎の合併について主治医と相談するといいでしょう。

関節リウマチと間質性肺炎の患者は感染症に注意すべきで医師との関係も大切

関節リウマチと間質性肺炎は治療が難しい疾患であるだけでなく、さまざまな感染症によって悪化しやすくなります。感染症にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症だけでなく、一般的な風邪や歯周病、副鼻腔炎(ふくびくうえん)蓄膿(ちくのう)(しょう))なども含まれます。

感染症にかかった体は病原体を撃退するために免疫機能が活性化します。その結果、自分の体に対する攻撃も強くなり、関節リウマチが悪化しやすくなります。さらに、病原体によって肺に炎症が起こると、間質性肺炎の進行も心配されます。

関節リウマチの患者さんには、主に免疫の働きを抑える免疫抑制剤を使った治療が行われます。免疫抑制剤は適切に用いれば有効な治療薬ですが、外敵から体を守る防御機能は低下するため、感染症には注意が必要です。

また、関節リウマチの治療で用いられる一部の治療薬の副作用として間質性肺炎が引き起こされる可能性も指摘されています。そもそも、間質性肺炎は、風邪薬をはじめ、数多くの薬剤の副作用として起こりやすい疾患として知られています。

関節リウマチの治療は、関節という局所だけでなく、全身の状態を見ながら行う必要があります。関節リウマチの症状は患者さんごとに異なるため、同じ医師のもとでまったく別の治療法が選ばれることも少なくありません。長年にわたって臨床の現場に立ってきた私から見ても、関節リウマチと間質性肺炎を合併した患者さんの治療は、医師にとって綱渡りの状態が続く難しさがあると感じます。

関節リウマチの患者さんは、すべての治療方針を医師に任せず、一緒に治療に取り組む意識を持っていただきたいと思います。医師に対しては、「どのような症状がつらいのか」「治療を受けてから、どこがどのように改善したのか」など、現在の症状を正直かつ正確に伝える気持ちで診察に臨みましょう。

先に挙げたように、関節リウマチの患者さんにとって感染症対策は重要です。風邪を予防するための手洗いやうがいをはじめ、歯周病対策として行うていねいな歯磨きなどは、関節リウマチだけでなく、間質性肺炎の予防・進行抑制にも効果的です。喫煙は、関節リウマチ、間質性肺炎ともに厳禁です。

関節リウマチと間質性肺炎は、医師と二人三脚で治療に取り組むことで、治療効果が大きく変わります。症状の詳細を医師に伝えるとともに、生活習慣を見直しながら前向きに治療に取り組んでください。