365調査隊
整体院や整骨院、クリニックで時々見かける筋膜リリース。肩こりや腰痛の原因は、筋膜の癒着による血流の悪化といわれて妙に納得感もある……。そんな筋膜リリースについて、調査隊が真相に迫ります。
現状では医学的根拠が乏しい筋膜リリース
街中で時折見かける「筋膜リリース」の広告。慢性的な肩こりや腰痛に悩まされがちなシニア層には、気になっている人も多いのではないでしょうか。
筋膜とは、筋肉を包み込んでいるたんぱく質の線維のこと。そのねじれや癒着を整えて伸縮性を回復させることで、体の不調を治すというのが筋膜リリースのロジックです。しかし、実際にどれほどの効果が見込めるのでしょうか? 整形外科医の歌島大輔先生に聞いてみました。
「個人的には、筋膜リリースのほんとうの有効性についてはいささか懐疑的です。というのも、少なくとも現状においては医学的根拠に乏しいといわざるをえないからです。筋膜リリースに積極的な専門家の方々は、筋膜を含む広範囲の組織を含めた『ファシア(全身の臓器を覆う線維性の網目状組織)』という言葉を使うことが多いですが、ファシアのゆがみを改善することで痛みなどの症状を解消できるという実証的な根拠は見つかっていないことが、2018年に発表された論文で示されてもいるんです」
そもそも〝リリース(剥がす)〟するという治療以前に、ファシアの癒着が組織内で起こっているのかどうか、そしてそれが痛みの原因なのかどうかを示すエビデンスすら不足しているのが現状と歌島先生は語ります。
「私たち整形外科医は、筋膜はもちろん、それ以外の結合組織が癒着している事実を実際に確認する機会が多々あります。もし、それがわずかな癒着であれば、専門家による手技や運動療法によって改善する可能性はあるかもしれません。しかし、これまでの経験上、そのわずかな癒着が肩こりや腰痛の原因になっているとは、とても思えないのが正直な実感です」
これは体内の組織を見る機会の多い、整形外科医ならではの知見といえます。ただし、歌島先生は、筋膜リリースについて「懐疑的」ではあっても決して「否定的」ではないとのこと。
「明確な科学的根拠に乏しいことから、整形外科医としてはあくまで現段階においては、積極的に活用すべき理論や治療法ではない、ということです。一方で、現在も学術的なエビデンスを蓄積しようと奮闘されている方がおおぜいいらっしゃることも理解しています。今後の研究で、理論が修正されていくこともあるでしょう。私としては、引き続きそうした研究に注視して、医学的根拠に基づいた治療や情報発信に努めていきたいと考えています」
筋膜リリースにマッサージとしての心地よさや効果を感じている人も多いはず。今後の研究の成果に期待しましょう。