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3割がかかる新国民病「亜鉛欠乏症」とは?

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会理事 小林 平大央

スーパーミネラル「亜鉛」が原因不明の不定愁訴、食欲不振、味覚障害、褥瘡、皮膚病などを治癒・改善

小林平大央
[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催。一般社団法人日本先進医療臨床研究会理事(臨床研究事業)、一般社団法人不老細胞サイエンス協会理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

今、高齢者を中心に日本国民の3割もの人が亜鉛不足のためにさまざまな症状で悩んでいるといわれています。最も多いのは、原因も治療法も不明の不定愁訴(ふていしゅうそ)です。さらに、食欲不振や味覚障害、かゆみを伴う皮膚疾患、褥瘡(じょくそう)舌痛症(ぜつつうしょう)なども、その大部分は亜鉛欠乏症と思われます。

これらの症状は亜鉛を補充することで大多数が治癒(ちゆ)・改善できることを『現代日本の国民病 亜鉛欠乏症』を著した倉澤隆平(くらさわりゅうへい)医師が発見しました。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、亜鉛欠乏症の症状は、皮膚炎や味覚障害、慢性下痢(まんせいげり)、免疫機能障害、成長遅延、性腺発育障害(せいせんはついくしょうがい)などと記載されています。

実際、これまで単なる老化現象で治療法がないと思われていた加齢性疾患の多くが、実は亜鉛欠乏症であることが治癒例から判明してきたのです。特に褥瘡に関しては、患者本人がつらいだけではなく、看護や介護をする側にも多大な労力がかかる病態で、亜鉛の補充療法で予防できたり、治癒・改善できたりするとなれば大きな恩恵となります。

ところが、亜鉛欠乏症のことは、患者はもちろん、医師も看護師も介護をするスタッフも知らない場合が多いのです。こうした病気や病状が亜鉛の補充療法で治ると思っている医師はほとんどいないため、勉強熱心な看護師や介護士が担当医に亜鉛補充療法の必要性を訴えても拒否されるケースもあるのです。

どうしてこういう不幸なことが起こるかというと、飽食の日本で亜鉛などという主要なミネラルが不足するはずがないという誤解が蔓延(まんえん)しているためです。特に亜鉛が多く含まれる食材は、魚介類、海藻類、肉類、穀類、豆類などで、魚介類や海藻を多く食べる日本人は亜鉛が不足することがほとんどないと考えられてきました。ところが、多くの患者を診察してきた倉澤医師によれば、現実には国民の3割が亜鉛欠乏症と推定されるというのです。また、東北大学の調査で、65~95歳の健康な高齢者の3分の1は味覚障害だったと報告されています。さらに、東北大学の新入生を調べたところ、4人に1人が味覚障害で、本人はそのことに気づいていなかったというデータもあります。

味覚障害は知らず知らずのうちに進行することが多いため、気になったら耳鼻咽喉(じびいんこう)科を受診すべきです。味覚障害の治療の基本は、もちろん不足している亜鉛を多く摂取することです。

ちなみに、味覚障害になる原因として、食品添加物が多く含まれる飲食物を常食・常飲していることが挙げられます。食品添加物にはフィチン酸が多量に入っていることが多く、亜鉛の吸収阻害を起こして亜鉛欠乏症になり、味覚障害に陥りやすいのです。高齢者では、抗生物質や多種類の薬を同時に飲んでいる「多剤服用」のケースでも、吸収阻害による亜鉛欠乏症を生じやすいことが分かっています。

ただ、普通に生活していてはなかなか味覚障害にも亜鉛欠乏症にも気づけません。できれば、定期的に血清亜鉛の検査を受けるようにしましょう。

血清亜鉛の数値は病態診断の指標とはなりませんが、自分自身の亜鉛保持量の目安になります。目安として、血清亜鉛値が60㍃㌘/㌥㍑未満は亜鉛欠乏症の疑いが強く、80㍃㌘/㌥㍑未満は潜在的に亜鉛欠乏症が疑われる状態です。

過去のデータで、血清亜鉛値は健常者の95%が65~110㍃㌘/㌥㍑の範囲に収まりますが、この範囲外でも健康な人はいますし、この範囲内でも亜鉛欠乏症の人もいます。重要なのは、健常な状態での自分の血清亜鉛値を知っておくことです。自身の平常値から大きく下がった場合、その値が健常者の数値の範囲内でも亜鉛欠乏症の場合がありますし、逆に範囲外でも健常な場合もあります。重要なのは自身の体調変化なのです。

こうした検査などで、もし通常よりも低い血清亜鉛値が出た場合や原因不明の不調がある場合は、まず亜鉛摂取の補充療法を始めることをおすすめします。その際、特に高齢者では亜鉛が欠乏している場合が多いため、食事摂取基準で定められた通常の推奨量よりも多量の亜鉛を摂取することで亜鉛欠乏症を予防・改善することが重要です。

『現代日本の国民病 亜鉛欠乏症』倉澤隆平著(三恵社)

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、1日の推奨量は18~74歳の男性で11㍉㌘、18歳以上の女性で8㍉㌘(妊婦は+2㍉㌘、授乳婦は+4㍉㌘)です。また、耐容上限量は18~29歳の男性で40㍉㌘、30~64歳の男性で45㍉㌘、18~74歳の女性で35㍉㌘です。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に比べて推奨量は若干増えていますが、薬理効果を期待するにはこの量では足りません。1日30㍉㌘程度の耐容上限量に近い量が望ましいといわれています。実際、倉澤医師は高齢の患者に1日30㍉㌘を超える量の亜鉛を処方して治療効果を上げています。

ところで、なぜ亜鉛を多量に摂取することで、これほど多くの病気や病態が改善されるのでしょうか。その理由は亜鉛が体内で働く多くの酵素の(かなめ)になっているためです。

体内には5000を超える酵素があるといわれていますが、亜鉛が関係している亜鉛酵素は300以上もあります。代表的な亜鉛酵素は「ALP(アルカリフォスファターゼ)」で、リン酸エステルを元のリン酸とアルコールに分解し、骨や歯を強くするハイドロキシアパタイトの原料となるリン酸を供給しています。また、アルコールをさらに分解するアルコール分解酵素も亜鉛酵素の一つです。

ALPは、活性型ビタミンB6を分解して脳血管関門を通過する物質を生成することで、脳内の神経伝達に重要な働きをしています。そのため、亜鉛が不足すると、脳内の神経伝達が阻害されて大変なことになってしまいます。

成長に不可欠な細胞分裂に関わる「DNAポリメラーゼ」や「RNAポリメラーゼ」という酵素も亜鉛酵素です。亜鉛不足で成長不全や小人症が発症するのはそのためです。また、限界まで細胞分裂した「老化細胞」が増えることで発症する老化現象が多量の亜鉛の摂取で改善するのも同様です。

亜鉛は免疫力にも大きく関わっています。亜鉛の投与で小児肺炎の死亡率が低下したことや、高齢者の呼吸器感染の予防や重症化防止に対して有効であることが世界各地の調査・研究によって証明されているのです。