ハピコワクリニック五反田院長 岸本 久美子
高温多湿の夏はカビが増殖しやすく吸入によって呼吸器に影響を及ぼしやすい

私は東京都品川区にあるハピコワクリニック五反田という医療機関の院長を務めています。呼吸器内科とアレルギー内科の専門医として大学病院で診療経験を重ねた後、子どもから大人まで一貫した治療を行うために2018年にクリニックを開業しました。今回の記事では、本番を迎えた夏に気をつけたいぜんそくと、特に高齢者にとっては適切な対処を怠ると重篤化することもある肺炎について解説したいと思います。
気管支ぜんそくとは、呼吸時に空気の通り道となる気道が狭くなり、発作によって息苦しさを感じる疾患です。気管支ぜんそくの患者さんの気道は炎症が起こり、敏感になっています。さまざまな刺激を受けると「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった喘鳴が聞こえるようになり、一段と呼吸機能が低下します。また、喘鳴は聞こえないものの、頻繁にセキが起こる「咳ぜんそく」も、気管支ぜんそくとともにぜんそくに分類されます。気管支ぜんそくは、ダニやほこりといった特定のアレルゲンに反応する「アトピー型ぜんそく」と、風邪などのウイルス感染症や気温・湿度の急激な変化、大気汚染、煙、ストレスなどが原因で起こる「非アトピー型ぜんそく」に分類されます。
この時期にぜんそくが起こりやすくなる原因は「カビ」です。梅雨が明けても日本の夏は高温多湿が顕著なため、室内環境によっては衣類や寝具などに湿気がこもることがあります。そのほか、梅雨の時期に掃除をしなかったエアコンの中でカビが増殖したり、ほこりがたまったりしている心配もあります。それらが部屋に放出されることで、気道が刺激されやすくなることも考えられます。
ぜんそくの治療を受けずに発作を繰り返していると、気道壁が厚くなり、弾力性も失われてきます。一度失われた気道壁の弾力性は戻ることはありません。呼吸機能の低下を防ぐためにも、ぜんそくは早期発見・早期治療がとても重要です。
気管支ぜんそくに続いて、肺炎の解説に移りましょう。中高年にとって肺炎は寒い冬に起こりやすいと思われがちですが、夏の時期も注意が必要です。毎日のようにエアコンの冷房を使うこの時期は、体を冷やしすぎて風邪をこじらせることがあるからです。
風邪は医学的には感冒と呼び、ウイルスなどの感染によって発症します。免疫が正しく機能すればウイルスを撃退できますが、免疫が低下しているとウイルスが増殖して風邪の悪化を招きます。「たかが風邪」と思っていても、高齢者がこじらせると肺炎を起こして入院することも少なくありません。
ひと口に肺炎といっても、①病原体の種類、②感染した場所、③感染した組織という3つの条件によって細かく分類することができます。それぞれを解説しましょう。
【分類①:病原体の種類】
●細菌性肺炎
肺炎球菌・インフルエンザ桿菌・黄色ブドウ球菌などによって引き起こされる細菌性肺炎の特徴は、発熱、呼吸困難、胸痛、黄色や緑色のタン、湿ったセキなどが挙げられます。高齢者は肺炎球菌の感染が多く、小児はインフルエンザ桿菌の感染が多いです。ちなみに、インフルエンザ桿菌は、冬に流行するインフルエンザウイルスとは別です。また、嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)も、口腔内常在菌や嫌気性菌によって起こる肺炎です。
●ウイルス性肺炎
インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、水痘ウイルスといったウイルスによって引き起こされるウイルス性肺炎の特徴は、発熱、セキ、筋肉痛、頭痛、倦怠感などで、重症化した場合は呼吸困難も心配されます。また、成人の風邪を引き起こすウイルスの1つにライノウイルスがあります。適切な治療を行えば鼻風邪程度ですみますが、免疫が低下した高齢者や病気療養中などの方は注意が必要です。
●非定型肺炎
レジオネラ、マイコプラズマ、クラミジアなど、細菌やウイルスとは異なる微生物によって引き起こされる肺炎です。長く続く乾いたセキが特徴で、症状が比較的軽度ですむことが多いものの、まれに脳症など重篤な症状を招くこともあります。
【分類②:感染した場所】
一般的な肺炎は日常生活の中で病原体に感染して発症する傾向にありますが(市中肺炎)、高齢者の場合は入院時の院内感染によって発症することがあります(院内感染)。院内感染は抗菌薬に耐性がある細菌によって発症することが多く、重症化しやすいとされています。
【分類③:感染した組織】
感染した組織によって、以下の2つに分けられます。
●肺胞性肺炎
肺胞は気管支から枝分かれした先端にある器官で、ガス交換と呼ばれる酸素と二酸化炭素の交換が行われています。この肺胞に炎症が起こるのが肺胞性肺炎です。高熱や黄色・緑色のタンが特徴です。
●間質性肺炎
肺胞の外側にある肺胞壁を間質と呼びます。間質性肺炎は、肺の間質部が炎症を起こすことで発症します。特徴的な症状はタンを伴わない乾いたセキです。間質の炎症が進むと肺胞壁が厚くなり、肺全体が硬くなる線維化という状態になります。線維化して柔軟性を失った肺は、呼吸機能が徐々に低下していきます。間質性肺炎は感染症や薬の副作用によって発症することもあり、急性増悪と呼ばれる急激な悪化が見られることがあるため注意が必要です。
肺炎は、中高年にとって重篤な状態を招くおそれもある病気の1つです。65歳以上の方は、肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されています。梅雨の時期はぜんそくの原因にもなるカビなどが原因で起こる「過敏性肺炎」にも注意したいものです。
日常的にできる肺炎の対策は、手洗い・うがいの励行や原因物質を取り込まないためのマスク着用、室内の換気や適切な室温の設定などです。免疫を低下させないために適切な食事や睡眠、運動習慣なども心がけて、少しでも呼吸器の異変を感じたら専門医の診察を受けましょう。
岸本久美子先生のYouTubeチャンネル



