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高齢者にとって、時に生命の危険にも及ぶ誤嚥性肺炎。介護老人保健施設で施設長を務めた医師が、誤嚥性肺炎の真実を提言します

気になる病気の新見解を医師が提言!

医師・医学博士 宮原 忠夫

[みやはら・ただお]——長野県生まれ。京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院老年科、国立療養所南京都病院(当時)、奈良社会保険病院(当時)勤務、京都南病院グループ・介護老人保健施設ぬくもりの里施設長を務める。

医師である私は、昨年まで介護老人保健施設(介護を受けながら適切なリハビリテーションによって在宅復帰を目指す施設)で施設長を務めていました。入所者の健康管理をするうえで欠かせないのが「えんせいはいえん」の予防です。

えん」とは、食べ物を口から食道に押し込む動作を意味します。「誤嚥」とは、食べ物が食道ではなく気道(気管)に入り込むことです。

多くの場合、誤嚥は食事の際に起こる誤った嚥下の意味で使われています。それゆえに、誤嚥性肺炎は、食事の際の誤嚥によって肺の中に細菌やウイルスが入り込むことで起こる肺炎と思われがちです。

しかしながら、誤嚥性肺炎の実態は異なります。誤嚥が多いのは食事の時間ではありません。「睡眠時間」こそ、高齢者が誤嚥を起こしやすい危険な時間なのです。

私たちの体は、食事の際に誤嚥を起こした場合、むせたりセキ込んだりすることで、誤って気道に入った物を外に排出しようとします。食事中の誤嚥で肺炎が起こることは少なく、むしろ注意すべきなのは、窒息やそれに伴う窒息死です。

一方、夜間の睡眠中に起こる誤嚥は、食べ物を嚥下する際に起こる誤嚥とは異なります。口・鼻・のど(いんとう)のぶんぴつ物やちょりゅう物、えき、胃食道逆流によってのど(咽頭)まで逆流した胃液や胃の内容物を、呼吸とともに気道内に「吸い込む」ことで起こります。高齢者における誤嚥性肺炎は、食事中ではなく、夜間睡眠中の吸い込みによって起こるのがほとんどです。

高齢者が夜間睡眠中に「吸い込み誤嚥」を生じやすい原因として、以下の点が挙げられます。

高齢者は口を開けて寝ることが多い(口呼吸)

睡眠中でも毎時6~18㍉㍑の唾液が産生され、無意識のうちに嚥下されているが、夜間は30分以上も無嚥下の時間があるため、唾液や貯留物が口やのど(咽頭)にたまりやすい

高齢者には胃食道逆流が高率で見られる

夜間睡眠中は嚥下反射やセキ反射の機能が低下する。また、高齢者は脳機能の衰えや睡眠薬・鎮静薬・向精神薬などの服用によって嚥下反射とセキ反射の機能がより低下しやすい

以上の背景から、高齢者は夜間睡眠中に「吸い込み誤嚥」を起こしやすいといえるのです。

誤嚥性肺炎の実態を正しく理解していただくため、入所者やそのご家族には以下のように伝えていました。

食事中の誤嚥(食事性誤嚥)は「押し込み誤嚥」である

睡眠中の誤嚥(睡眠時誤嚥)は「吸い込み誤嚥」である

このように、誤嚥の起こり方には2種類あります。食事中の押し込み誤嚥は窒息(死)を、睡眠中の吸い込み誤嚥は肺炎を起こす原因になります。

肺炎の原因になる夜間睡眠時の「吸い込み誤嚥」を防ぐために、以下の2点を推奨しています。

①就寝前に適切なケアで口腔こうくう・咽頭を清潔に保つ

②夜間睡眠中の胃食道逆流と、のどに唾液や貯留物(胃食道逆流物や食べ物のざんなど)がたまることを防ぐために、ベッドの頭側を上げて眠る(角度の目安は10~30度)

夜間睡眠中の「吸い込み誤嚥」を防ぐにはベッドの頭側を10〜30度の目安で上げて就寝するといい

私が施設長を務めていた施設では、2019年から入所者の方に対し、睡眠時にベッドの頭側を上げることをすすめています。睡眠時にベッドの頭側を上げて寝てもらった2019~2023年の肺炎による入院者数を、実施していない2015~2018年と比較したところ、半減していることが分かりました。この結果から、ベッドの頭側を上げて寝ることは、睡眠時の誤嚥(吸い込み誤嚥)と肺炎(吸い込み肺炎)を防ぐ一定の効果を発揮するといえます。