プレゼント

人生楽しまなきゃ損——それがいちばんの健康法だよ

私の元気の秘訣

俳優 小沢 仁志さん

〝Vシネマの帝王〟〝顔面凶器〟の異名でおなじみの強面(こわもて)俳優・小沢仁志さん。現在もその迫力と活力は衰えるところを知らず、みずから製作の総指揮を執った主演映画『BAD CITY』が公開間近に迫っています。還暦を迎えた今でもダイナミックなアクションシーンを演じる小沢さんに、元気の秘訣(ひけつ)をお聞きしました。

打撲や骨折は当たり前。ドンパチやってきたがあっという間だったよ

[おざわ・ひとし]—— 1962年6月19日生まれ、東京都出身。1984年、ドラマ『スクール☆ウォーズ』(TBS系列)で本格的に俳優デビュー。以後、映画『SCORE』『太陽が弾ける日』など、多くの映画やドラマで強面の個性を発揮。スタントマンをほとんど使わない実力派アクション俳優としても知られている。〝Vシネマの帝王″〝顔面凶器″などの異名を持ち、数々の悪役を好演。OZAWA名義で監督や企画、脚本を手がけるほか、近年では活動の場をバラエティ、YouTubeなどにも広げ、さらなる活躍が注目されている。

俺も昨年で還暦を迎えたけど、まさかこの年齢までこうして元気に生きていられるとは思わなかったよね。ご想像のとおり、若い頃からいろいろむちゃをやってきた身だから。

なにしろ、今でも朝まで飲み明かすことはざらだし、仕事も相変わらずドンパチしてばかりで打撲(だぼく)や骨折は当たり前。だから昔は、「やれてもせいぜい50歳くらいまでかな」なんて思ってたもの。その意味では、なってしまえば還暦なんてあっという間だし、意外とやれるものだなと我ながら感心しちゃうよね。

まもなく公開される『BAD CITY』は、タイミング的に「還暦記念」と銘打たれてはいるけど、60歳になったこと自体に特別な意味は感じないんだ。どちらかというとこの作品は、60歳の俺がどこまでやれるのかというチャレンジで、いわば役者魂の集大成みたいなもの。実際、脚本もコーディネートもすべて俺がやっていて、いつも以上に力がこもってる。

この作品はかなり前から計画していたもので、全体像のイメージをなんとなく固めながら、園村健介(そのむらけんすけ)監督のスケジュールが空くのを待っていたんだけど、新型コロナウイルス感染症がまん延して、むしろ予定が早まったんだ。監督いわく、予定していた別の作品がコロナの影響で延期になって、「時間が空いたからすぐに撮りましょう」と。それで大急ぎで脚本を仕上げて、態勢を整えたんだよね。

結果的に還暦のタイミングと重なったのはプロモーション的にはよかったかもしれないけど、なにしろ急に動き出したもんだから、立ち上がりはスタッフも十分にそろっていなくてほんとうに大変だった。特に苦労したのは旅行代理店とのやり取りで、いつ誰が福岡入りするか、撮影スケジュールを見ながら、キャストの宿や飛行機をすべて俺が手配したんだよ。

人によっては喫煙の部屋じゃないとダメだし、「飛行機は苦手だから新幹線がいい」といわれてチケットを取り直したこともあった。とにかく人手不足で、次から次に湧いてくる細かい雑用を、ぜんぶ俺がこなさなきゃいけない状況だったんだ。「還暦記念」とあわせて「製作総指揮」とうたっているのは、こういう意味も少し込めているんだよね。

でも苦労のかいあって、撮影中から十分な手応えを感じてた。なにしろ奇跡のような豪華メンバーが集まってくれたし、現場でも全員の思いが共鳴していて、「これは絶対にいい作品になるぞ」と撮り終える前から確信していたよ。

俺は(しん)宿(じゅ)区のど真ん中、(ひゃく)(にん)(ちょう)の生まれなんだけど、幼少期のことはあまり覚えていないんだ。インターネットには、「小学生の頃からパンチパーマを当てていた」なんて書いてあるらしいけど、あれはウソ。それなりにやんちゃではあったけど、決して不良少年ではなかったし、中学生時代は野球と空手に打ち込んでいたからね。特に野球では、アニメ『(さむらい)ジャイアンツ』の〝分身魔(ぶんしんま)(きゅう)〟を本気で投げられるようになりたいと、毎日必死に握力を鍛えていたよ。

高校に進んでからも、最初は本気でプロ野球選手になりたいと思っていたけど、つまらないもめごとで先輩を殴っちまって、部活を辞めさせられたんだ。

そこで次に何をやろうかと考えたところ、アクション映画が好きだったから、千葉真一(ちばしんいち)さんのJAC(ジヤツク)(現・ジャパンアクションエンタープライズ)に入れてもらおうと訪ねて行った。ところが、当時はまだ少年の部がなかったので、「高校を卒業したらおいで」とけんもほろろに追い返されちまったんだ。これにカチンと来て、「いつか見返してやる!」と意気込んだのが、真剣に俳優を目指そうと思った最初のきっかけだったような気がするな。

「意外とやれるものだなと我ながら感心しちゃうよね」

そんなある日、学校をサボって新宿で映画を見ていたら、トイレでたまたま出会った人に、「君、がたいがよくていいね」と声をかけられて、その人が関わっている舞台に出ることになった。演目はつかこうへいさんの『熱海(あたみ)殺人事件』で、名もなき劇団の小さな舞台だったけど、今思い返してもよく見知らぬ高校生をいきなり舞台に上げたもんだと驚くよ。これが人前に出た初めての経験で、すごく楽しかったのを覚えてる。

意外に思われるかもしれないけど、俺は高校時代に初めて映画『チャップリン』を見て以来、ずっとチャップリンに憧れているんだ。彼の作品や文献はすべてチェックしているほどで、心のどこかでずっと特別な思いがある。

以前、故・(おお)(ばやし)宣彦(のぶひこ)監督に「チャップリンが好きなんです」といったら、「正解だよ」といわれたことがある。というのも、「アクションの中には喜怒哀楽(きどあいらく)のすべてが詰まっていて、ただ飛んだり跳ねたりしているようではダメなんだ」と監督は教えてくれた。

例えば、拳銃の引き金を引くシーン一つだって、相手に対して恨みや怒りの感情を持っているのか、それともただ雇われて生活のために引き金を引くのかで、演技はまったく変わるからね。この時の大林監督の言葉はその後、20歳でドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系列)に出させてもらってから今日に至るまで、俺のキャリアにすごく大きな影響を与えていると思う。

健康管理も体作りも動機は不純なほうが長続きするもんだよ

よく、「体作りが大変ですよね」といわれるけど、自分としては特にがんばっているつもりはないんだよね。俺にとってジムに行って鍛えることは、朝起きて歯を磨くのと同じくらい当たり前の習慣だからさ。たとえ朝まで飲んだくれた日でも、起きたらまずジムへ行って酒を抜く。そういう生活がずっと身に染みついているからね。

誤解しないでほしいのは、ジムで体を鍛えるのは決して役者をやっていくためではないってこと。俺が体を鍛えているのは、若いお姉ちゃんと海へ遊びに行った時に、〝パトロンのおじさん〟だなんて思われないためだからね。だって、それはそうでしょう? 高い所から飛び降りたり、車に跳ねられたりするシーンで演技するためにせっせとジム通いするなんて、そんなのばかばかしくて続けられないよ。

何事も「動機は不純なほうがいい」というのが俺の持論。勉強でもスポーツでも、少しでもいい成績を上げたい、なんてぼんやりした目標でがんばれる人はいいけど、俺みたいなやつはモテたい一心でやったほうが絶対に長続きするんだ。それが結果として体作りにつながって、こうして60歳になっても派手なアクションをやっていられるんだから、いいこと尽くめだよ。

俺の場合、それは健康にも通じていると思う。筋トレをやっているおかげで基礎代謝が高いから、風邪でもコロナでもウイルス性の病気にかかることなんてまずない。

前にジムでウォーキングをした後、汗びっしょりで湯気を立てている状態で体温を測ってみたら、43℃もあってびっくりしたよ。そりゃたいがいのウイルスは撃退しちゃうよね。実際、ちょっと悪寒(おかん)がしたり、鼻水が出たりしたら、すぐにサウナにこもって汗を絞り出せば、たいていはけろっと治ってしまう。これも不純な動機のたまものだよね。

若い頃からさんざん不摂生をやってきたわけだから、とても皆さんに健康の秘訣を語れる立場ではないけど、それでも結果として基礎代謝が人より高く、二日酔い以外の病気らしい病気と無縁でやってこられたことはぜひ知ってほしいと思う。

今だって酒もタバコもばんばんやっているよ。周りの役者仲間で、年齢を重ねて「禁煙を始めたよ」とか「酒の量を減らしているんだ」なんていい出すやつに限って、大きな病気をしたりする。あれはたぶん、人生の楽しみを自分から奪ってしまっているからじゃないかな。

小沢さんの役者魂の集大成である映画『BAD CITY』

人生も健康もほんとうのゴールはもっと先にあると考えてほしいな

珍しくこうして健康雑誌で語らせてもらっているんで、あらためて自分のことを振り返ってみたけど、これまでほんとうにいろいろなことがあったよ。役作りの一環で、1ヵ月で35㌔増量したこともあったし、骨折した回数なんて数えられるだけでも50回近いからね。むちゃにむちゃを重ねてきた自覚はちゃんとある。

それでも、この年齢になってみてあらためて感じるのは、人生楽しまなきゃ損だということ。人間、それがいちばんの健康法といっても過言ではないよ。

日常生活や人生で直面することなんて、7:3で悪いことのほうが多いもの。少なくとも、俺はそう思ってる。だからこそ単純計算で、その7割を楽しむことができれば、ストレスフリーに生きられるはずなんだよ。人生が10割楽しいわけだから、これは強いよね。もちろん、逆境を楽しむのは簡単ではないかもしれないけど、こういうのは心の持ちようだからさ。

たいていの人は、年を取ると体のどこかが痛みだしたり、動かなくなったりすると、そこで「自分にはもう、そういうことはできないから」と勝手に限界を決めてしまいがちだと思う。確かに、できることがどんどん減って、衰える一方なのは当たり前かもしれない。でもそうではなく、ほんとうのゴールはもっと先にあると考えてみてほしいな。

「この年齢になってみてあらためて感じるのは、人生楽しまなきゃ損だということ」

軍隊の特殊部隊の訓練で、40㌔以上の重りを身につけて何十㌔も行軍させられた後に、「ほんとうのゴールはもう3㌔先でした」とやると、ほぼ全員心が折れて、そこで動けなくなってしまう、という話を聞いたことがある。これは肉体がいかに心につかさどられているかということの表れで、最初からもっと先にゴールがあると思っていれば、最後まで完走できるはずなんだ。

人生も健康も同じだと俺は思うね。自分で勝手に「もうできない」なんて、絶対に考えないほうがいい。

俺の仕事もそう。例えば、今回の『BAD CITY』を、普通の映画会社、普通のプロデューサーに預けたら、おそらく還暦の人間にこんなアクションはさせてくれないよ。最近はどこもコンプライアンスがうるさいから。

でも、実際に俺は動けることを知っているから、こうして自分でやっている。若い頃にプロデュースとか監督業にまで手を出しておいてよかったなと、今つくづく感じているよ。

もちろん、遠からず衰えを自覚する時は来ると思う。でも、動けるならたとえ70歳になってもアクションを続けていたいと、本気で思ってる。

それでもいよいよ動けなくなったら、今度は考古学者になってどこかの海賊が残した財宝を探したいと、これも本気で考えているんだ。その途中のどこかで野たれ死ぬのも俺らしくて本望だし、財宝を見つけて人生の最後をウハウハやるのもいい。それに何より、船の上では絶対にブロンドの美女をはべらせていたい。これは外せないね。

こういう不純な動機が尽きないから、やっぱり俺はまだまだ現役でがんばっていけるんじゃないかな。皆さんももっと煩悩(ぼんのう)を大切にして、人生を楽しんでよ。