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毎月17日は減塩の日!高血圧治療の権威が動脈硬化を防ぐ減塩のコツを伝授

糖尿病・腎臓内科

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座老年・総合内科学教授 楽木 宏実

高血圧は「生活環境病」で患者の努力以外に企業や地域が減塩に取り組むことが重要

[らくぎ・ひろみ]——1984年、大阪大学医学部卒業。桜橋渡辺病院循環器内科医員、米国ハーバード大学ブリガムアンドウィメンズ病院内科ならびに米国スタンフォード大学心臓血管内科に留学、大阪大学大学院医学系研究科加齢医学講師・助教授を経て、2007年に同老年・腎臓内科学教授。2015年の組織再編に伴い現職。日本高血圧学会(理事長)、日本老年医学会(前理事長)などに所属。

皆さんは、毎月17日が何の日かご存じでしょうか? それは「減塩の日」です。私が理事長を務める日本高血圧学会(JSH)では、減塩に関する啓発活動を全国展開することを目的にして、2017年から毎月17日を「減塩の日」と定めています。17日となった理由は、2008年から毎年5月17日が「高血圧の日」と定められているからです。

高血圧は生活習慣病の一つといわれていますが、日本高血圧学会では「生活環境病」としてとらえています。生活環境病は、個人の生活習慣だけではなく、生活環境によって起こる病気です。減塩のための個人の努力は重要です。しかし、食塩に対する嗜好(しこう)が強いにもかかわらず、食塩にあふれた現在の環境で減塩の努力をすることは決してたやすいことではありません。

例えば、バランスが取れた食事をとろうとしても、コンビニエンスストアやスーパーマーケットには加工食品があふれていて、外食産業でも塩分・カロリー過多に偏ったメニューが並べられれば、当たり前のように手が伸びてしまいます。知らず知らずのうちに塩分を取りすぎてしまう環境こそが高血圧の原因といえるのです。そのため、患者さんの努力だけではなく、企業や地域も共同で減塩に取り組むことが高血圧の発症リスクの減少につながります。

減塩の日では、子どものうちから減塩の大切さを伝える「塩育(えんいく)」や企業・地域に対して減塩の啓発を促す活動などをしています。その中で、企業に対して減塩の啓発を行い、患者さんを取り巻く環境を〝おいしく減塩できる環境〟に変える取り組みとして「減塩食品リスト」「減塩食品アワード」があります。それぞれの製品情報は、日本高血圧学会のホームページに掲載しています。

減塩の啓発活動に取り組む理由として、高血圧の予防が挙げられます。高血圧は、心血管病の原因といわれています。心血管病とは、主に動脈硬化(血管の老化)によって血管の内側が狭くなり、臓器への酸素を豊富に含んだ血液の供給が不足する疾患のことです。高血圧はいろいろな生活習慣のゆがみで起こりますが、最も重要な要因の一つに「食塩の過剰摂取」があります。

人類の先祖はミネラルを豊富に含んだ海から陸に上がり、体の機能を正常に動かすために重要な成分の一つである食塩(ナトリウム)が体外に失われないようにする必要がありました。しかし、文明の進化とともに食生活は激変し、石器時代では1日1~2㌘以下だった食塩摂取量は、現在では1日10㌘以上に増えてしまいました。食塩摂取量に伴って高血圧が増え、高血圧の合併症である脳卒中や心臓病、腎臓(じんぞう)(びょう)などの(じゅう)(とく)な疾患も増加しているのです。

食塩の過剰摂取は、高血圧を介さず、直接心血管病の原因になることもあるといわれています。そのため、減塩は、高血圧の患者さんだけではなく、健康な人たちにとっても大切なことなのです。

次に、日本高血圧学会でおすすめしている、減塩のコツを8つご紹介しましょう。

①新鮮な食材を用いる
②香辛料、香味野菜、果物の酸味を利用する
③低塩の調味料を使う
④具だくさんのみそ汁にする
⑤外食や加工食品を控える
⑥漬物を控える
⑦むやみに調味料を使わない
(めん)類の汁は残す

減塩のコツの⑤に挙げたように、多くの加工食品には結構な塩分が含まれています。そのため、外食や加工食品によって、知らず知らずのうちに多くの塩分を摂取してしまいがちです。塩分の過剰摂取を防ぐためには、メニューや商品の裏に書かれている栄養成分表示にある食塩相当量を確認するようにしましょう。

減塩で必要なことは、塩分量の「視覚化・数値化」です。自分のとっている現在の塩分量を把握することで、どのくらい量を減らせばいいのかという目標を設定することができます。簡易的な方法として製鉄記念八幡(せいてつきねんやはた)病院理事長・土橋卓也(つちはしたくや)医師が考案した塩分チェックシートで確認してみてください。点数が高い場合は、主治医や管理栄養士に相談して減塩に取り組むことをおすすめします。