サイリアック・ルーディング
ライフスタイルにも大きな影響を及ぼす「がん」について「早期発見だけでなくより効果的な治療法の開発も大切」と語る、サイアック・ルーディング氏による「健康365オンライン」への特別寄稿です。

Earli(アーリー)について
がんの早期発見と治療に取り組む企業で、プログラム可能な遺伝子構造を活用し、がん細胞に特定のタンパク質を発現させることで、診断用イメージングや免疫系を活性化させる治療につなげるという革新的なアプローチをとっています。これにより、がんそのものを“自らに対抗させる”ことが可能になります。新しい早期がん検出および治療プラットフォームとして、米国で臨床試験におけるフェーズ1と2の準備を進めています。
2024年には、全世界で約1,000万人が「がん」で命を落としたと推定されています。現在、日本や韓国の死因の第1位はがんです。また、アジア太平洋地域やその他の先進国において、がんは脳卒中や冠動脈疾患といった心血管疾患に次ぐ主要な死因の1つとなっています。
日本と韓国における「国家的ながん対策プラン」に共通しているのは、がんによる死亡率を下げるために最も効果的な方法とされる「早期発見と検診」を重視している点です。韓国政府は、1996年に国家がん対策計画を初めて発表し、2021年には第4段階に入りました。日本では1990年代後半にがん対策計画を導入し、ここ数十年で素晴らしい成果を上げています。日韓両国は早期がん発見の分野において世界をリードし、米国や英国をはじめとする多くの主要経済国を複数の指標で上回っています。これは、早期発見を支援する政府政策や技術に対し、数十年間にわたって投資を続けた結果といえます。
日本は、肺がんの早期発見で顕著な進歩を遂げており、39%の症例がステージ1で発見されています。これに対し、米国ではステージ1と2を合わせても23%に留まります。日本におけるこの成果は、アジア太平洋地域全体においてさらなる革新と協力を促すきっかけとなっています。また、韓国も急速に追い上げており、30%がステージ1で発見されています。その結果、日本と韓国は早期発見を国家的優先事項とした場合に可能となる成果を世界に示す灯台的存在となっています。
しかしその一方で、過去30年間で日本と韓国を早期がん発見の世界的リーダーにした技術やプログラムは限界を迎えつつあります。実際、一部のケースでは、がん発生率や死亡率が若い世代を中心に上昇しています。ここからさらにがんによる死亡率を低下させるためには、次のレベルでの早期がん発見とスピード治療の実施が必要になります。その目標を達成するためには、最新の生物工学の技術を活用してがんを迅速に見つけるだけでなく、「がん細胞を制御すること」を目的とした、新しい早期がんの検知と治療法へのアプローチが必要となるでしょう。
20世紀初頭では、化学療法、CTスキャン、手術といった一律的な検出および治療法が、がん制御の特徴でした。1990年代初頭以降になると、がん制御の第2世代が始まり、免疫腫瘍学やリキッドバイオプシーといった、精密がん検出と治療法が主役となりました。これらは、がんや体内の自然なシステムを利用して疾患のバイオマーカーを特定します。ただし、このバイオマーカーが存在しない場合も多いのが現実です。
そして今、私たちはがん制御の第3世代に突入しています。すなわち、がん生物学とバイオエンジニアリングの知識を組み合わせて、がん細胞が現れたらそれを自らが明らかに示し、最終的には死滅するようにコントロールすることによって特徴づけられます。
早期発見だけでは不十分
がんを早期に発見・診断できれば、変異が少なく体内で局所化しているため治療が容易になります。肺がんの例が顕著です。肺がんが最も早期の段階で治療されると、患者の61%が5年後も生存していますが、進行して他の部位に転移した場合、生存率はわずか7%に下落します。
そのため、早期発見を強化することは世界各国のがん対策プログラムの主要な目標となっています。早期のがん発見には、検診(可能性のある疾患の存在を検出することを目的としたもの)と、診断(発見された病変が悪性か良性かを明確に判断すること)の2つの主要な要素があります。効果的な治療には、明確な診断が必要です。
問題は、早期発見(早期スクリーニングプログラムや早期診断技術を通じて)しても、必ずしも早期かつ効果的な治療に結びつかないことです。特に、肺がんのような最も致命的ながんにおいてはそうです。

液体生検は、がんかどうかを教えてくれるかもしれませんが、結局のところ血液サンプルなので、場所の特定はできません。また、従来の画像診断技術は、病変がどこにあるかを教えてくれるかもしれませんが、悪性か良性かは教えてくれないことが多いです。そして、病変が小さいほど診断は難しくなります。
その結果、何百万もの不明確な所見が生じます。CTスキャンで検出された肺結節のほとんど(94%)は良性です。6%の悪性が最終的に患者を死に至らしめますが、現在利用可能な診断技術では良性と悪性の成長を区別することができないことが多くなります。効果的な治療には明確な診断が必要です。治療が施されなければ腫瘍は成長しつづけ、微小転移が始まる可能性もあります。微小転移したがん細胞は非常に小さく、現在の技術では画像でとらえることはできません。微小転移が起こってがんが再発すると、それはステージ4のがんを意味します。すなわち、5年後生存率は60%以上から8%に低下するのです。
問題はそれだけではありません。がんと最終的に診断された後、手術や放射線治療が使用されます。しかし、目に見えない残存がん細胞についてはどうでしょうか?これらを対処するための現代の精密治療は、その効果が大きく異なります。なぜなら、それらはがんの自然由来バイオマーカーに依存しているからです。例えば、小分子薬はがん細胞の外側のたんぱく質を標的とすることを目的としています。問題は、多くのがんがこれらのバイオマーカーを持っていないことです。持っている場合でも、患者間における自然変異やがんおよびバイオマーカー自体の変異によって、薬剤が効かないこともあるのです。
早期発見を超えて
早期発見が、スクリーニングや早期診断において価値がないということではありません。早期発見には価値があり、実際に多くの命が救われています。しかし、がん治療の新たな次元に到達するためには、さらなるステップを踏む必要があります。すなわち、がんの初期段階でのスピード診断とスピード治療の域に達することです。
何十年もの間、がんの診断と治療はがんのルールに従って行われてきました。つまり、私たちががんの自然由来バイオマーカーを探し、検出・診断・治療を行っていくというものです。腫瘍が画像診断装置で検出できるまで大きくなるか、腫瘍が液体生検で検出できるほど十分な遺伝物質を血流に放出するまで待ちます。技術が向上しても、がんの最新の変異を追いつづける方法は変わらず、終わりのない「いたちごっこ」といえます。そのような中、がんは常に一歩先を行き、遅れて技術がそれに追いつくという展開が続いています。
しかし、もし、がんを私たちのルールに従わせることができたらどうなるでしょうか?もし、がんに私たちが選んだバイオマーカーを、一貫して生成させることができたらどうでしょうか?もし、科学的努力を重ねて自然マーカーを見つけるのではなく、検出可能なバイオマーカーを生物工学的に設計することができたらどうでしょうか?
これは、がんの検知と治療における根本的に新しい工学主導のアプローチといえます。遺伝子構造を利用して、がん細胞に任意のバイオマーカーを生成させ、その結果、腫瘍がまだ小さな細胞の塊にすぎない段階で体内の正確な位置を明らかにします。そして同様のアプローチで、がん細胞に免疫系へのメッセンジャーを生成させ、最終的にはがんを攻撃し、死滅させます。これが完成すれば、がんに制御されるのではなく、がんを制御する一連のがん早期診断および治療プロセスとなるでしょう。
過去20年間、日本は韓国と並んで早期がん検出および治療におけるアジアのリーダーとしての地位を確立してきました。そして、次の世代においても同様の役割が求められています。新しい生物工学主導のがん検出のパラダイムに期待している日本と韓国は、すでに医療機関に導入し、今後5年間でこれらの新しいシステムを迅速に展開するための措置を講じています。
これまでの日本と韓国の先見的ながん制御イニシアチブの実績が今後も進めば、がんの早期発見と治療の未来は非常に明るいものになるでしょう。


