帝京大学福岡医療技術学部医療技術学科教授 佐藤 典宏
1万3750人の慢性腎臓病患者を調査したら患者の20%ががんを発症

「eGFR値(推算糸球体ろ過量)が59以下の人は、お医者さんにご相談を」——このような呼びかけをするCMを見たことはありませんか? このキャッチフレーズは、日本腎臓病協会と製薬会社が慢性腎臓病(CKD)の早期発見を呼びかけるCMで使われていました。
慢性腎臓病は自覚症状が現れにくい疾患の1つです。そのため、「隠れ慢性腎臓病」と呼ばれる層に該当する人が少なくありません。その一方で、早期に治療を受ければ重症化を防げるのも慢性腎臓病の特徴です。
そして近年、慢性腎臓病に関してもう1つ見過ごせないリスクが明らかになってきました。それは「がん」との関係です。海外で行われた大規模研究によると、慢性腎臓病患者の5人に1人ががんを発症しているという驚くべきデータがあります。さらに、慢性腎臓病が進行して透析治療が必要になった患者は、がんのリスクが一段と高まることも分かっているのです。
慢性腎臓病とは、腎臓がなんらかの原因で障害を受け、血液をろ過する機能が低下したり、たんぱく尿が出たりする状態を指します。今や新たな国民病の1つともいわれ、症状が出にくいために気づかないまま進行している場合も少なくありません。
慢性腎臓病の重症度は、腎機能の指標であるeGFR値によって判断され、ステージG1からG5までの6段階に分類されます。eGFR値は腎臓がどれだけ老廃物を尿へ排出する能力を持っているかを示す数値で、数値が低いほど腎臓の働きが悪い状態です。一般的にeGFR値の正常値は60以上とされ、59以下になると腎機能の低下、すなわち慢性腎臓病が疑われます。近年では健康診断の項目にもeGFR値が採用されるようになりました。
腎臓の役割は、老廃物を体外に排出するだけではなく、血圧の調節、赤血球を作る働きの補助、ビタミンDの活性化など、全身の健康を支える多くの機能を担っています。そのため、腎機能が低下すると、他の臓器や器官の機能が低下し、さまざまな病気を発症しやすくなるのです。

出典:『Risk of malignancy in patients with chronic kidney disease.』 PLOS ONE. August 17,2022
腎機能の低下とともに発症リスクが上昇する疾患として注目されているのが、慢性腎臓病とがんの関連です。血液透析を受けている患者にがんが多いことは、以前からよく知られていました。この関連性について、海外の研究チームが大規模な調査を行っています。
2022年8月に、『PLOS ONE』という学術誌で報告された論文では、アメリカの大学病院でeGFR値が60未満と診断された1万3750人の慢性腎臓病患者を対象に、20年以上にわたり医療情報を追跡調査しました。その結果、観察期間中にがんを発症した患者は2758人、全体の20%に上りました。つまり、慢性腎臓病患者の5人に1人ががんを発症していたことになります。
がんの部位としては消化管がんが最も多く、次いで前立腺がん、尿路系のがん、肺がん、乳がんなどが目立ちました。また経過年数が長くなるほど、がんの発症率が上昇する傾向も確認されています。
慢性腎臓病のがん発症は生活習慣だけでなく遺伝的な要素も関連することが分かった
そのほかの研究として、2022年6月に学術誌『Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention』に報告された論文の内容も見逃せません。この研究では「メンデルのランダム化解析」というゲノム情報を用いる手法により、慢性腎臓病の指標であるeGFR値・アルブミン尿と、19種類のがんリスクとの関連を分析しました。
その結果、慢性腎臓病の患者は、腎がん、白血病、子宮頸がん、大腸がんのリスクが有意に高くなることが示されました。生活習慣などの後天的な要因だけでなく、遺伝的な観点からも慢性腎臓病とがんの関連が裏づけられたことになります。
慢性腎臓病が進行し、透析治療が必要になった場合、がんのリスクが一段と高くなることが公的データからも確認されています。日本透析医学会が毎年実施している全国調査「わが国の慢性透析療法の現況」によると、2024年の透析患者の死因は感染症、心不全に次いで悪性腫瘍(がん)が第3位で、全体の7.4%を占めています。
また、透析患者のがん全般の発がん率は通常の1.8倍に上るとされ、透析期間が長くなるほどリスクも高まる傾向があります。特に腎がんについては、腎癌研究会が1982年から2002年にかけて行った調査で、通常の15倍という高い発生率が報告されています。また、男女比は2.7対1と男性の方が多く発症します。はっきりとした理由は解明されていませんが、透析療法そのものが悪性腫瘍の発症や進行に関与している可能性も指摘されています。
複数の研究や公的統計が示すように、慢性腎臓病とがんには無視できない関連があり、透析治療が必要な段階まで進行すると、そのリスクはさらに高まります。腎機能の低下は、単に腎臓だけの問題にとどまらず、全身のがんリスクにも影響を及ぼす可能性があるのです。
健康診断でeGFR値が59以下だったり、あるいは過去に腎機能の低下を指摘されたことがあったりする場合は、腎臓の検査や治療の継続はもちろん、がん検診も積極的に検討していただきたいと思います。すでに透析治療を受けている方は、定期的ながん検診がより一層、重要になるでしょう。
早期発見・早期治療は、慢性腎臓病においてもがんにおいても、重症化を防ぐ最大のカギといえます。腎機能の数値の変化を軽視せず、定期的な検査を習慣にすることが、あなたの健やかな日々を守る第一歩になるでしょう。
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