帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
ドライマウスとは、さまざまな原因によって唾液の分泌量が減少し、口の中が乾く状態になることです。唾液は主に、サラサラとした唾液が分泌される「耳下腺」、ネバネバした唾液が分泌される「舌下腺」、サラサラとネバネバの混合唾液が分泌される「顎下腺」の三大唾液腺から分泌されます。成人の場合、1日に約1.5㍑の唾液が分泌され、内訳は顎下腺(70%)、耳下腺(20%)、舌下腺(10%)といわれています。
唾液の主成分は、水とムチン(粘性の液体)です。唾液腺の役割として、洗浄作用や潤滑作用、抗菌作用、口の中を中性に保つ緩衝作用などが挙げられます。口内の唾液分泌量が50%程度まで低下すると、ドライマウスと呼ばれる口の中の乾きを自覚するようになります。
ドライマウスの判定方法には、安静時唾液と刺激唾液で判定する二通りの方法があります。安静時唾液は、リラックスした状態を15分間保った後、口の中にたまった唾液を容器に移して計測する判定法です。健常人では1.5㍉㍑以上が正常とされています。 刺激唾液にはガムテストとサクソンテストがあります。ガムテストは10分間ガムを噛んだ後、分泌された唾液を容器に移して測定します。健常人では、10㍉㍑(10cc)以上が正常と判定されます。もう一つのサクソンテストは、一定のリズムで2分間噛んだガーゼに染み込んだ唾液の重さを計測します。健常人の場合、2㌘以上を正常と判定します。これらの数値を下回るとドライマウスが疑われます。安静時唾液は、刺激唾液に比べるとかなり少量で判定します。
次に、ドライマウスの自覚症状を見てみましょう。
● 口の中が乾く
● 口の中がねばつく
● 口の中がねばつく
● 水をよく飲む
● 舌が痛い
● 口臭が気になる
● 寝ていると口がカラカラに乾く
● 入れ歯が合わなくなる
● 入れ歯で口の中が傷つきやすくなる
● 虫歯や歯周病になりやすくなり、症状が増悪する
ドライマウスは、50歳以上から徐々に増えてくる症状です。原因が口の中だけでなく、全身的な内科疾患に起因するケースも多いことから、適切な診断が必要となります。
ドライマウスが起こる原因を挙げてみましょう。
①薬剤の副作用
②糖尿病や腎臓疾患
③膠原病(シェーグレン症候群)
④放射線治療後の副作用
⑤中枢および末梢神経障害
⑥精神的ストレス
⑦筋力の低下
⑧口呼吸
⑨加齢
以上の原因が考えられたら、専門医の診察を受けるようにしてください。
ドライマウスのセルフケアとして、自分でできる唾液腺マッサージをご紹介します。加齢などで唾液の分泌が悪くなった際に、マッサージによって唾液の分泌を促します。
● 耳下腺の刺激
4本の指(人さし指から小指)をほおに当て、上の奥歯の辺りを後ろから前に向かって計10回押します。滑らかに、ソフトに押すようにしてください。
● 顎下腺の刺激
親指をあごの骨の内側にあて、耳の下からあごの下までゆっくりと5ヵ所ほどを目安に順番に計5回押します。
● 舌下線の刺激
両手の親指をそろえて、あごの真下から手を突き上げるようにゆっくりと計10回押します。
ドライマウスは、ツボ刺激によっても改善が期待できます。唾液腺マッサージとあわせて実践できる、「翳風」と「頬車」という二つのツボをご紹介しましょう。
「翳風」のツボは、両手の親指で内側に向かって5秒ほど押し上げてください。「頬車」のツボは、人さし指と中指でツボ部分を垂直に、ゆっくりと5秒ほど押し上げます。「翳風」「頬車」ともに3~5回繰り返し、押す力は指の爪の色が白くなる程度が目安です。
● 由来
【翳風】古代中国において「翳」は羽毛の扇子のこと。人間の耳の形に似ています。「風」は、声や音の意味と、耳鳴りを治すツボであることから「翳風」と名づけられました
【頬車】「頬」は顔の両側のこと。「車」は古い東洋医学の言葉で、下あごの関節を示す「牙車」を指します。下あごを開閉させる蝶番の中にこのツボがあることから名づけられました
● 効能
【翳風】ドライマウス、頭痛、肩こり、歯痛、耳鳴り、中耳炎、顔面神経マヒなど
【頬車】ドライマウス、頭痛、肩こり、耳下腺炎、顎関節症、下歯痛、三叉神経痛、顔面神経マヒなど