365調査隊
歯磨きをしていたら急に起こる〝オエッ"という吐き気。子どもの頃は起こっていなかったのに、今では毎回起こっているような気がする……。そんな歯磨き時の吐き気に関するウソ・ホントについて、調査隊が真相に迫ります。
歯磨き時の吐き気は正常な口腔機能の一つ
特にお酒を飲みすぎてしまった日の翌朝など、歯を磨いている時に〝オエッ〟と吐き気をもよおすことはないでしょうか。あの、なんともいえない不快感からすると、内臓のどこかに異常があるのではないかと不安になってしまいますが……。
「いえいえ、これは嘔吐反射という正常な口腔機能の一つであって、決して病気ではありませんので安心してください」
そう語るのは、田中歯科クリニック院長の田中俊樹先生です。病気ではないならひと安心ですが、子どもの頃には起こらなかったことを思えば、これは老化現象なのでしょうか?
「年齢とともにえずき(吐き気)の回数が増えたのであれば、まず考えられるのは自律神経の機能低下です。一概にはいえませんが、加齢によって体全体の機能が低下するために起こる現象の一つということですね」
田中先生によれば、自律神経とは、私たちの体の恒常性(バランス)を保つために働いている神経の総称で、いわば生体の管理システムをつかさどるもの。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、両者が交互に入れ替わりながら人体の生理的なバランスは保たれているわけです。
「具体的には、口腔機能をはじめ、呼吸や血圧、胃腸の消化機能、排泄機能など、多くの機能に自律神経は関わっていますが、その機能が年齢とともに低下するのは残念ながら避けられないことです」
つまり、口腔機能が低下した状態で歯ブラシや歯磨き粉の刺激を受けることが、嘔吐反射を誘発する一因になっているのだそう。ということは、老化を食い止めることができない以上、歯磨きの際の不快な〝オエッ〟とは、このまま共存していかなければならないのでしょうか。
「せめて老化を遅らせるためにできるのは、食べ物をよく噛み、しっかりと飲み込むことです。厚生労働省は、65歳以上で約10%、85歳以上に至っては25%もの人が『よく噛めていない』とのデータを報告していますから、これは軽視できません。口腔内の老化を防ぐためには、『噛む』という基本的な機能が正常に働けるようにすることが重要なんです」
ただし、こうした嘔吐反射は、気管に異物が入らないようにする大切な機能でもあります。
「嘔吐反射の機能が正常に働かないと、誤嚥性肺炎を引き起こす原因にもなります。最近ではこうした機能を維持するために舌磨きが有効といわれています。ですので、医師としてはむしろ、口の奥まで歯ブラシを入れて、えずきながら磨くことをおすすめしたいくらいです」