雨野 千晴
できないことが社会貢献!?ある町工場での成功例
周囲の人に自分と息子が発達障害であることを伝えると、相手から「エジソンやアインシュタインも発達障害だったんだよね」「なにか才能があるということだね!」といわれることがあります。当事者の方からは、「『発達障害のある人は天才』みたいに思われると迷惑!」という話を聞くこともあります。
私自身になにか特別秀でた才能があるかどうかと問われると、まったくの凡人です。文章を書くのは子どもの頃から好きで、今はこのように仕事の一つにはなっているものの、飛び抜けた文章力・表現力があるわけでもなく、なにか賞をとったこともありません。帯に短し襷に長し、というやつですね。一方で〝ポンコツ度合い〟には年々磨きがかかっています。この1ヵ月間で財布、通帳、スマートフォン、ストールをなくしました……。スマートフォンは見つかりましたが、ほかは今も見つかる気配すらありません。
私は自分と同じような〝うっかりさん〟ばかりがメンバーの「うっかり女子会」というオンラインコミュニティを主宰しています。フェイスブックの非公開グループ内で、お互いのうっかり案件を日々報告し合う会です。現在登録者は250人以上。どんな投稿があるかというと……。「今日もこんなに焦がしました」と、真っ黒になったパンやら魚やらの写真。「車のカギが見つからない!」という嘆き。「電車を乗り間違えて大遅刻!」という報告などなど。くすっと笑えるものから、大ピンチの案件まで、うっかり具合はさまざまです。
ほかではいえないようなことも、うっかり仲間の中では報告しやすいんですよね。実際にはすごくショックだったり悲しかったり焦ったりするようなことでも、投稿すると「私もそういうことあった!」「そのくらいの焦げ、削れば食べられる!」など、同じような経験談や、共感・励ましの声が寄せられます。それだけで、ちょっと元気が出たり、気持ちが落ち着いてきたりするから不思議です。同じポンコツ仲間だからこそできるアドバイスや工夫もコメントしてもらえたりします。
なにがいいたいかというと、他者から称賛されるような、人より秀でた才能がなくても、「できないこと」や「失敗」すら、誰かのためになることもある、ということなのです。
神奈川県小田原市にある川田製作所の川田俊介社長にお話を伺ったことがあります。経済産業省「平成29年度 新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出されている町工場で、30年以上前から障害者雇用を行っています。障害者雇用で働いているAさんは、入社当初、数を数えたり、数字を書いたりすることが難しく、製品を数える検品の場面でミスが重なっていました。
Aさんにとっても大きなストレスになっていたので、川田社長や現場のスタッフ、Aさんとみんなで考え、製品のカウントにカウンターを使うことにしたそうです。すると、Aさんの数え間違いがなくなっただけでなく、障害のない社員さんからも「そのカウンター、私も使いたい!」と声が上がり、今では社員全員がカウンターを活用しています。川田社長は「困難さを抱える人たちが職場にいてくれることは、むしろ会社によい影響を与えていることが多いんです」と話してくれました。
できることはもちろん、できないことさえも、生かし方ひとつで強みになる。あなたの「できない」が、ほかの人の力になるかもしれない。そんな視点を持ってみると、障害の有無にかかわらず、自分に才能があるかどうか、誰かと比べて悲しくなったり、焦ったりする必要はないのかもしれないですね。 そうはいっても財布をなくすのは焦りますけどね! ちなみに、うっかり女子会の仲間のアドバイスを元に、財布は今後、派手な色合いの財布専用ポシェットに入れて持ち歩くことにしました。さて、この工夫は効果を発揮するのか!? またご報告したいと思います。