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予備軍含めて2000万人の国民病!糖尿病の発症・悪化原因と認知症も招く怖い合併症を解説

糖尿病・腎臓内科

東京慈恵会医科大学客員教授 横田 邦信

糖尿病は自覚症状に乏しい疾患であり進行して発症する怖い合併症に要注意

[よこた・くにのぶ]——1951年、東京都生まれ。1978年、東京慈恵会医科大学卒業後、国立東京第二病院(現・独立法人国立病院機構東京医療センター)にて研修。1984年、東京慈恵会医科大学大学院修了、医学博士。富士市立中央病院内科医長、横須賀北部共済病院内科部長、東京慈恵会医科大学教授などを経て、2017年より現職。日本糖尿病学会糖尿病専門医・功労学術評議員、日本医師会認定産業医、日本生活習慣病予防協会理事。2007年、厚生労働大臣表彰。著書に『糖尿病に勝つ!「マグネシウム食」革命』(主婦の友社)などがある。

厚生労働省の発表によると、糖尿病の患者数は1000万人と推計され、1997年以降も増加傾向にあります。糖尿病の一歩手前である糖尿病予備軍も1000万人いると推計されています。合計すると日本人の5人に1人が糖尿病といえるのです。

糖尿病かどうかを調べる指標には、空腹時血糖値とヘモグロビンA1cの大きく二つがあります。日本糖尿病学会が定めた基準によると、空腹時血糖値が126㍉㌘以上の場合は糖尿病の可能性があります。もう一つの指標であるヘモグロビンA1cは、過去1~2ヵ月間の血糖値の平均を示す数値で、6.5以上になると糖尿病の可能性があります。

糖尿病は、膵臓(すいぞう)から分泌(ぶんぴつ)されるインスリンというホルモンの分泌量が低下したり(インスリン分泌障害)、インスリンの分泌量は十分でもインスリンの効きが悪くなったり(インスリン抵抗性)して、慢性的に高血糖の状態になる生活習慣病です。

インスリンは、血液中のブドウ糖を全身の細胞や筋肉、肝臓に取り込むための橋渡し役を担っています。糖尿病になると、体はブドウ糖を取り込みにくくなり、生命活動にも支障が出てしまうのです。

血糖値を上げるホルモンはいくつもありますが、血糖値を下げるホルモンはインスリンだけです。しかも、日本人は欧米人と比べてインスリンの分泌能力が少ないことも分かっています。

糖尿病の自覚症状として、口渇(こうかつ)(のどの渇き)、多飲(よく水を飲む)、多尿(よくトイレに行く)などが挙げられます。ところが、糖尿病は自覚症状が乏しいまま進行していくことも多く、診断された時はすでにインスリンの働きが大きく低下していたり、合併症が進行したりする場合も珍しくありません。

自覚症状が現れにくい糖尿病は危機意識が高まりにくく、必要に迫られないせいか、診断されても治療に前向きに取り組まない人が少なくありません。高血糖の状態を放置していると糖尿病が悪化して、合併症を引き起こしてしまいます。糖尿病の恐ろしさは、この合併症にあるのです。

糖尿病の合併症は、血管の病気です。インスリンが正常に働かなくなって細胞に取り込まれなくなったブドウ糖は、細い血管(毛細血管)を障害するとともに動脈硬化(血管の老化)を進行させてしまいます。ひいては、体のさまざまな臓器や組織に障害が生じる糖尿病合併症が起こってしまうのです。

糖尿病の合併症は、大きく二つに分けられます。毛細血管に障害が起こって生じる「細小血管症」と、太い血管に障害が起こって生じる「大血管症」です。糖尿病になると、早期から毛細血管の機能が障害されます。細小血管症の中でも、「糖尿病性神経障害」「糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)」「糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)」を糖尿病の三大合併症と呼びます。

三大合併症の中で、比較的初期に起こるのが、神経障害です。早い人は糖尿病の発症から、数年ほどで現れます。神経障害が起こる原因として、高血糖によって神経細胞にソルビトールという物質が大量に蓄積され、神経が傷つけられることが挙げられます。さらに、末梢(まつしょう)の神経周囲の毛細血管が傷つくことも原因の一つと考えられています。

神経障害の主な症状には、足の指先や足裏のしびれ、湿った靴下を履いているような違和感などのほか、足が冷えたり、逆に熱くなったりすることもあります。足に神経障害の症状が出る場合、片方だけというのはまれで、一般的には両足に出ます。

神経障害の症状として、坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)が起こることもあります。症状が進むと、神経がまったく機能しなくなり、くぎを踏んでも分からないほど感覚がマヒしてしまいます。

糖尿病によって障害を受ける主な神経は次の三つです。

運動神経

筋肉を動かす際に必要な神経です。糖尿病によって機能が低下すると、目の筋肉や体幹・四肢のマヒ、さらには筋肉の萎縮(いしゅく)が起こることもあります。

自律神経

循環器、消化器、呼吸器などの活動を調整するために、24時間働きつづけている神経です。生命活動を維持する自律神経が糖尿病によって傷つけられると、起立性低血圧(立ちくらみ)や便秘、下痢(げり)、排尿障害、勃起(ぼっき)障害などが起こります。さらに、食物が長く胃に残るなどの問題が生じるほか、血糖値がより不安定になります。

感覚神経

知覚神経ともいい、五感(視覚・聴覚・嗅覚(きゅうかく)・味覚・触覚)の感覚情報を脳に伝達する神経です。感覚神経に障害が起こると、痛みや熱さに対する感覚が鈍くなります。進行するとケガをしても痛みを感じなくなり、気がつかなくなって放置しがちになるのです。さらに、血流も悪くなっているため、細胞の回復能力が衰えて傷が治りにくくなります。糖尿病の患者さんの場合、足先の傷口が悪化して壊疽(えそ)に至ることが少なくありません。

壊疽とは、血流の悪化で酸素や栄養が行き渡らなくなったり、細菌に感染したりして細胞が壊死(えし)を起こした結果、組織が腐敗した状態をいいます。足の広い範囲で壊疽が起こると、最悪の場合、足を切断しなければならなくなります。

神経障害に加えて、糖尿病によって起こりやすいのが目の病気です。三大合併症の一つである糖尿病網膜症は、目の網膜にある毛細血管が傷ついて起こる眼科疾患です。

高血糖によって網膜の毛細血管が狭くなったり、詰まったりすると、目に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなります。目に栄養や酸素を届けるために「新生血管」と呼ばれる血管が急造されますが、新生血管はもろくて切れやすく、すぐに出血してしまうのです。

新生血管から漏れた血液や血の(かたまり)が網膜や硝子体(しゅうしたい)黄斑部(おうはんぶ)に広がると視細胞が壊死し、視力低下を招いて、最悪の場合は失明に至ります。

神経障害、網膜症に続く、三つ目の合併症が糖尿病性腎症です。腎臓は毛細血管の塊ともいえる臓器で、糖尿病の合併症が起こりやすいことで知られています。高血糖の影響で腎臓の毛細血管が障害を受けると、血液を十分にろ過できなくなります。糖尿病性腎症が進行すると、人工透析(じんこうとうせき)が必要になるのです。人工透析を受ける患者さんの約四割は糖尿病が原因です。

糖尿病が進むと、三大合併症のみならず、感染症も起こしやすくなります。私たち人間は、細菌などの外敵から体を守るために、免疫という機能を備えています。その主役が、血液成分の一つである白血球です。糖尿病の患者さんは白血球の働きが低下することが分かっています。つまり、高血糖の状態が続くと免疫力が低下し、感染症のリスクが高まってしまうのです。

免疫力が低下すると、病気になりやすいだけではなく、外科手術も難しくなります。血糖コントロールができていない糖尿病の患者さんは、手術を受ける際に感染症を防ぐためにしっかりと血糖管理をする必要があります。また、患者さんの状態によっては、手術自体を受けられない場合も少なくありません。

最近では、糖尿病と認知症の関係にも注目が集まっています。認知症には複数の原因がありますが、脳内に蓄積されるアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質も原因の一つとして知られています。認知症の中でも、アルツハイマー型認知症は、アミロイドβの蓄積で脳に障害が起こって発症すると考えられています。アミロイドβの分解に必要なものこそ、インスリンの分解に必要なインスリン分解酵素なのです。

インスリン抵抗性が増大した状態になると、インスリンが大量に分泌され、同時にインスリン分解酵素も大量に消費されます。すると、脳内のアミロイドβの分解に割かれるインスリン分解酵素が減り、アミロイドβの蓄積が進んでしまうのです。また、糖尿病では、血液中から脳内へのインスリンの移行が低下して神経保護作用が減弱するため、認知機能低下の一因になると考えられています。

糖尿病や糖尿病予備軍と診断された人は、進行を防ぐために病院での治療だけではなく、食事療法や運動療法に前向きに取り組む必要があります。さらに、私が推奨しているのが、マグネシウムの積極的な摂取です。

マグネシウムは、人間の健康に欠かせない必須・主要ミネラルの一つです。体内にある600種類以上の酵素の働きに関わり、全身のさまざまな活動に必要不可欠です。

マグネシウム不足も糖尿病の原因の一つで1日の摂取量を増やすとリスク減少と実証

必要不可欠なミネラルにもかかわらず、現在、日本人の多くはマグネシウムの摂取量が不足していることが分かっています。厚生労働省が2020年に定めた「日本人の食事摂取基準」によると、マグネシウムの1日の推奨量は50~64歳の男性で370㍉㌘、女性で290㍉㌘とされています。ところが、2019年に厚生労働省が実施した「国民健康・栄養調査」の結果では、日本人の平均マグネシウム摂取量は60~69歳の男性で286㍉㌘、成人女性で269㍉㌘と明らかに不足していたのです。

近年の研究で、マグネシウムの摂取不足も、糖尿病が増加している原因の一つであることが明らかになりつつあります。私たちの研究グループは、マグネシウムを多く含む大麦や雑穀などの穀物の摂取量が激減した時期と、糖尿病が激増した時期が重なっていることに着目しました。また、複数の疫学(えきがく)調査の結果、マグネシウムの摂取量が多いと糖尿病の発症リスクが減ることが明らかになったのです。米国の研究では、1日のマグネシウム摂取量が100㍉㌘増加するごとに、糖尿病の発症リスクが14%減少することも判明しました。

なぜマグネシウムの摂取不足が糖尿病の発症につながるのかについては、まだ完全には解明されていません。しかし、マグネシウムは、細胞膜上においてインスリンが結合するセンサー(リセプター)の働きや、その後の情報伝達、さらには取り込まれた糖の分解にまで関与することが判明しています。マグネシウムの摂取不足によって細胞内でこれらの働きが十分に行われなくなることが、インスリン抵抗性を引き起こすのではないかと考えられています。

インスリン抵抗性だけではなく、インスリンの分泌や、糖尿病と密接な関係のある全身の炎症を抑える働きにもマグネシウムが関与していることが判明しつつあります。マグネシウムの摂取は、糖尿病患者さんにとって必要不可欠といえるでしょう。

マグネシウムの摂取は、健康食品などを利用するのもおすすめですが、基本的には毎日の食事の際にとる食品を意識するだけで十分な量を摂取することができます。私がおすすめする食品を、上に一覧として掲載しました。「そばのひ孫と孫は優しい子かい? 納得!!」と標語を覚えましょう。糖質が比較的多い食材もありますが、血糖値の上がる速度の遅いものばかりなので、糖尿病患者さんにもおすすめです。ぜひ、毎日の食事に取り入れてみてください。