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尿酸値の上昇は腎機能低下の前ぶれ!痛風腎を防ぐ[尿酸抑制術]

糖尿病・腎臓内科

東京慈恵会医科大学総合診療内科客員教授 大野 岩男

尿酸値も慢性腎臓病と関係の深い検査値で高尿酸血症や痛風、痛風結節に要注意

[おおの・いわお]——1979年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学第二内科助手・講師、同大学腎臓・高血圧内科講師・准教授・教授、同大学総合診療内科教授を経て、2019年より現職。日本腎臓学会腎臓専門医・指導医・元理事、日本痛風・尿酸核酸学会元理事。

慢性腎臓(まんせいじんぞう)(びょう)(CKD)の状態を評価する検査項目として、血清クレアチニン値やたんぱく尿を気にしている患者さんは多いと思います。では、尿酸値も慢性腎臓病の発症・悪化に深く関係していることはご存じでしょうか。尿酸は「プリン体」と呼ばれる物質が体内で分解されてできる老廃物です。老廃物のため、尿酸は血液を通って腎臓でろ過され、尿として体外に排出されます。

体内の尿酸は常に一定量(約1200㍉㌘)に保たれており、「尿酸プール」と呼ばれます。尿酸は肝臓での生合成や食事からの摂取によって1日に約700㍉㌘が産生され、同量が尿中に排出されて尿酸プールは一定に保たれています。

しかし、なんらかの原因で体内の尿酸プールから尿酸があふれ出すと、尿酸値が高くなります。尿酸値が尿酸の溶解限界(尿酸が血液に溶ける限度量)である7.0㍉㌘を超えると「高尿酸血症」と診断されます。高尿酸血症は原因によって、大きく次の3つに分類されます。

尿酸排泄(はいせつ)低下型……尿酸排泄量が低下している状態
腎負荷型……腎臓に対する尿酸の負荷が増加して、血液中の尿酸値が上昇している状態
混合型……尿酸排泄低下型と腎負荷型の両方が混在している状態

高尿酸血症の状態が続くと、痛風関節炎や慢性腎臓病を招くおそれがあります。痛風関節炎の多くは急性発症であるために「痛風発作」と呼ばれ、足の親指のつけ根に多く起こります。痛風関節炎は、疼痛(とうつう)(しゅ)(ちょう)()れ上がること)、発赤(ほっせき)が強く出て歩行困難を伴いますが、7~14日間で軽快するのが特徴です。

痛風関節炎は次の発作までは無症状ですが、尿酸値を管理せずに放置すると発作が頻発して慢性関節炎に移行します。最終的には、尿酸塩結晶が患部に蓄積して「痛風結節」と呼ばれるコブ(肉芽(にくが))ができてしまいます。

痛風による腎障害は「痛風腎」と呼ばれ、痛風や高尿酸血症がコントロールされずに長期間持続することによって発症する腎障害です。高尿酸血症が長期間持続し、尿酸塩が腎臓の深部の髄質(ずいしつ)に結晶となって沈着するために生じます。また、痛風には数多くの生活習慣病(高血圧や高血糖、脂質異常症など)がしばしば複数合併します。これらの生活習慣病による腎臓の障害が痛風腎に加わってきます。痛風腎では、高血圧による腎障害などのような通常の慢性腎臓病で見られる、たんぱく尿や血尿、腎機能低下などの症状を示します。

痛風腎の主な原因は高尿酸血症であり、尿酸値を下げることが腎機能の悪化抑制につながります。そこで、今回は「尿酸抑制術」として次の4つをご紹介します。

①プリン体の多い食べ物をとる頻度を減らす
プリン体とは、体を動かしたり内臓を正常に機能させたりするためのエネルギー源となる物質です。プリン体は食品に含まれるだけでなく、私たちの体内の古くなった細胞を分解する際にも作られます。プリン体は肝臓で尿酸に変化し、尿として排出されます。

尿酸の元になるプリン体は、体内の細胞から作られる量(細胞由来)が約80%、食べ物からとる量(食品由来)が約20%といわれています。体内の細胞から作られるプリン体の量は管理できないため、食べ物によるプリン体の量を減らすことが尿酸値の低下につながります。

プリン体摂取量の目安は1日400㍉㌘です。プリン体はほとんどの食べ物に含まれており、まったくとらないようにするのは不可能といえます。そのため、左の表のプリン体の含有量が「極めて多い」「多い」に分類されている食べ物をとる頻度を減らすようにしましょう。

②尿酸生成抑制薬を服用する
高尿酸血症で痛風腎を患っている場合は、主治医から尿酸生成抑制薬である「アロプリノール」「フェブキソスタット」「トピロキソスタット」などが処方されます。腎機能の低下を防ぐために薬を服用し、3~6ヵ月かけてゆっくりと尿酸値を目標である6.0㍉㌘以下にコントロールすることが大切です。また、頻回の痛風発作を起こしていたり痛風結節があったりする患者さんの場合は、尿酸値を5.0㍉㌘以下にコントロールする必要があります。

アルカリ性の食品を積極的に食べることで尿酸が尿に溶けやすくなり痛風腎を予防

③1日2~2.5㍑の水分を補給する
尿の量が少ないと尿中の尿酸が飽和した状態になり、結晶化して痛風を招きやすくなります。そのため、約2㍑以上の尿量を確保できるように1日2~2.5㍑を目安に水分を補給するようにしましょう。ただし、この2~2.5㍑にはビールや日本酒などのアルコール飲料は含まれません。

また、ステージG4以下の慢性腎臓病や心不全の患者さんは、水のとりすぎによって病気が悪化する場合があります。自己判断することなく、主治医に飲水量を増やす必要があるかどうかを相談することをおすすめします。

④アルカリ性の食べ物を食べる
尿の㏗の基準値は5.0~7.5で、下回る場合を「酸性尿」、上回る場合を「アルカリ尿」といいます。高尿酸血症や痛風では尿が酸性に傾き、尿酸が尿中に溶けにくくなります。この状態が続くと、尿中で尿酸が結晶化してしまい、尿酸結石や痛風腎に結びつく可能性があります。

尿の㏗を目標である6.0~7.0にするには、アルカリ性の食べ物を積極的に食べる必要があります。アルカリ性の食材は、ナス・キャベツなどの野菜類やヒジキ・ワカメなどの海藻類です。痛風や腎機能の悪化を予防するためにも、1日1回はサラダを食べるようにしましょう。

慢性腎臓病の患者さんは、すでに苦労しながら食塩・たんぱく質制限といった食事療法を実践されていると思います。今回の「尿酸抑制術」は、慢性腎臓病の食事療法を少し工夫するだけで実践できるため、大きな負担はかかりません。クレアチニン値やたんぱく尿に加えて尿酸値を管理することで、慢性腎臓病や高尿酸血症の悪化抑制につながることでしょう。