神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域教授 石川 朗
神戸大学大学院医学研究科内科学講座・呼吸器内科学分野助教 桂田 直子
ながいき呼吸体操を半年間続けたらCOPDの息切れが改善して体力もアップ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは、進行に伴って息切れやセキ・タンなどが起こり、生活の質(QOL)が低下します。COPDの患者さんが何よりも最初に習得していただきたいのが、「口すぼめ呼吸」です。
COPDの患者さんは、空気を吸うことよりも吐き出すことが困難です。口すぼめ呼吸はほかの呼吸法と異なり、「息をらくに吐く」ことを意識して考えられた呼吸法です。口すぼめ呼吸の動きはシンプルで、「鼻から息を吸い、すぼめた口から吐き出す」呼吸法です。
口すぼめ呼吸の最大の利点は、狭くなった気管支を拡張させる働きがあることです。そのため、気管支拡張剤との相乗効果が期待できます。難しく感じるかもしれませんが、習得すれば息を吐くことがらくになり、息切れの改善につながる呼吸法です。日常生活で自然に口すぼめ呼吸ができるようになれば、劇的な生活の質の改善を実感できるはずです。なお、動く時は息を吸う時ではなく、吐き出す時に動くことがポイントです。
口すぼめ呼吸の次に取り組んでいただきたいのが運動です。運動の習慣によって体力がつくと、COPDの増悪を防げるだけでなく、酸素の消費効率が良くなって呼吸時の負担軽減につながります。とはいえ、COPDの患者さんにとっての運動は、散歩程度であっても大きな負担になってしまいます。
そこで私は、COPDの患者さんに負担をかけずに運動の習慣が身に付く方法として『ながいき呼吸体操』を考案しました。目的は肺機能の改善ではなく、COPDの患者さんの生活の質の向上です。ながいき呼吸体操は、約5分でできるごく簡易な動作をする体操です。
ながいき呼吸体操の効果は、試験でも確認しています。試験に協力していただいたのは、北海道に住む計42人のCOPD患者さんです。積雪で外出が困難になる時期を含む6ヵ月間にわたり、ながいき呼吸体操に取り組んでいただきました。患者さんたちには「可能であれば毎日、最低でも週に2回取り組んでほしい」と伝えました。
半年後に明らかになった試験の結果は、私たちの想像を超えるものでした。ながいき呼吸体操は、負荷が軽い運動です。試験に参加したCOPD患者さんのほとんどが高齢だったこともあり、ながいき呼吸体操によって体力の維持はできても向上は見込めないと考えていました。ところが、ながいき呼吸体操に取り組んだグループは、取り組んでいないグループと比べて運動機能が向上し、息切れも改善したのです。
ながいき呼吸体操は、座位と立位でそれぞれ行う2種類の体操があります。まずは自分で取り組みやすいほうの体操を選びましょう。体操中の呼吸は口すぼめ呼吸を基本とします。息を2秒で吸いながら体を動かし、4秒かけて息を吐きながらもとの姿勢に戻るのが基本動作ですが、呼吸が苦しくならないリズムで取り組みましょう。
ながいき呼吸体操を実践するうえで大切なのは、毎日きちんと続けることです。体操の中で難しいと感じた内容は無理に取り組む必要はありません。口すぼめ呼吸によって息をしっかりと吐く「長い息」は、健康寿命を延ばして「長生き」につながるでしょう。ながいき呼吸体操がらくに行えるようになったら、次のステップとして散歩などの軽い運動にも取り組みましょう。