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前回に続き、イグ・ノーベル賞を受賞したアレルギー専門医が治療現場の最前線からの提言(後編)をお届けします

気になる病気の新見解を医師が提言!

木俣肇クリニック院長 木俣 肇

[きまた・はじめ]——1977年、京都大学医学部卒業。米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校に留学し、アレルギーの研究に従事。ステロイドホルモンを使わない治療を行い、多くのアトピー性皮膚炎の患者を完治に導いている。日本アレルギー学会(評議員)に所属。2015年9月、イグ・ノーベル賞医学賞を受賞。

私たちの生活は「光」に囲まれているといえます。例えばスマートフォンは、情報収集やコミュニケーション手段など、現代生活を送るうえで欠かせないアイテムの1つとなっています。そのほか、街灯や、商業・娯楽施設のイルミネーション、飲食店の看板をはじめとする照明なども、社会・経済活動を行ううえで必要といえるでしょう。

しかしながら、過剰なスマートフォンの使用や夜間の照明は、生物としての人間の健康に悪影響を与えてしまうのです。例えば、夜に寝室で暗い光をともすだけでも全身性の炎症を増強し、代謝や精神的に悪影響を与えることが学術論文で発表されています。私の専門でいえば、アトピーせいえん(以下、アトピーと略す)に多動症やうつ状態、不安神経症を伴う患者さんが増えています。以前であれば、それらの併発はアトピーの悪化に伴う精神的な症状と考えられ、皮膚症状が改善すれば精神的な症状も改善していました。しかし、現在では状況が大きく異なるのです。

そこで私は「こうがい」の影響を踏まえたアトピーの診療に取り組んでいます。ある日、私のクリニックに重症のアトピーを患った多動症のお子さん(Aくん)が来院しました。Aくんは、かゆみと精神的な不安定さで絶えず動き、とうとう診察室の床にひっくり返って騒ぎはじめました。母親はAくんの多動を抑えるためにスマートフォンでゲームをさせていました。

母親に話を聞いてみると、Aくんは夜もスマートフォンを手放さず、インターネットやゲームに夢中で夜更かしをしているとのこと。朝はきちんと起きられないAくんは、視力の低下から両眼とも強度の近視になり、食事中の多動によって食事も満足にできず、かなり痩せていたのが印象的でした。

多動によって騒ぎつづけるAくんをなだめながら、なんとか初めての診察を終えた私は、母親に処方薬の説明をしながら、ある説得を試みました。その内容は、「診察中と就寝前の1時間はスマートフォンでゲームをしないこと。そして、家ではAくんと積極的に会話をすること」というものです。母親は私のアドバイスを聞き入れてくれましたが、その後もAくんは受診のたびに診察室の床に寝転んで暴れていました。

そのような診察が数ヵ月間続いたある日のことです。Aくんの母親が、ふっくらとして物静かなお子さんを連れて受診しました。近視用のめがねをかけていなかったことから、私はAくんの兄弟かなと思いましたが、なんとAくん本人だったのです。光害を控えた生活によってAくんのアトピーは改善しはじめ、多動症にも改善の傾向が見られるようになったのです。食事をしっかりとれるようになったAくんに尋ねてみると、もうスマートフォンでゲームはしてないとのこと。その後、Aくんはアトピーも多動症も治癒ちゆし、さらに視力も改善してめがねを使わなくてすむようになりました。

私たちは「健康的な幸福」を求めて働き、生活しています。しかしながら、本質的な意味での「健康的な幸福」が見失われていると思います。アトピーの患者さんが健康になってほしいという気持ちは、どの医師も同じですが、改善が見られない時は次々と薬が追加されるのみで、生活習慣や環境調節の指導が行われていないのが実情です。

現代の医療は「足し算の治療」といえます。対症療法が加わって治療費が増える一方で、治癒は見られない。必要なのは、原因を把握するための適切な検査と治癒が望める治療であり、そのために必要なのは、余計なものを除去する「引き算の生活」ではないでしょうか。アトピーの実態をはじめ、合併症や悪化因子、さらには治癒が望める根本的治療の真実が広く社会に理解されることで、アトピーやアレルギー疾患の治癒につながることを願っています。