一般社団法人起立性調節障害改善協会代表理事 竹田 浩一さん
青少年を中心に悩んでいる人が多い「起立性調節障害」は、中高年にも増えているといわれます。約20年にわたってこの症状に悩まされたという竹田浩一さんがたどりついた答えが「光」。当事者ならではの視点から開発した製品と独自の啓発活動が注目を集めています。
小学二年生の時から睡眠障害に苦しんで生活の質が著しく低下
「起立性調節障害」は青少年に多く見られる症状で、自律神経の調整機能の異変によって睡眠障害をはじめとする体調不良を引き起こします。外見から判断しにくいことから周囲の理解を得られにくく、本人が悩みを抱えがちになるのも特徴です。今月の情熱人は、一般社団法人起立性調節障害改善協会代表理事のさん。同協会の代表理事のほか、企業の代表も務める竹田さんは、自身が約20年間にわたって、現在でいうところの起立性調節障害になっていたと振り返ります。
「『自分だけが眠れない』と気づいたのは、小学2年生の時です。夜になってに入っても眠れないこと数時間。いつまでたっても眠りにつくことができません。毎晩2〜3時間ごとに起きて眠れない慢性的な睡眠不足状態ですから、朝がきても起きることができません。20年間、熟睡して朝を迎えたことは1日もありませんでした」
1990年代だった当時、起立性調節障害という言葉が一般的に知られていなかったことから、竹田さんは自身の症状を睡眠障害としてとらえていたといいます。
「親に連れられていくつもの病院で診察を受けましたが、睡眠障害は改善しませんでした。当時の私は、朝になんとか起きても昼間にボーッとしたり、だるさなどの体調不良が続いたりと、不健康そのものといえる毎日を過ごしていたんです」
竹田さんの睡眠障害を改善させるために、ご家族はあらゆる策を講じたとのこと。枕やベッドをはじめ、評判のいい寝具を買い揃えてみたり、リラックスさせるために入浴剤を試してみたりしたそうです。
「そのほかにも、入眠作用があるといわれるハーブティーを飲んでみたりもしました。民間療法と呼ばれる治療法を含めて、百万円以上の費用をかけたと思いますが、睡眠障害が改善することはありませんでした」
竹田さんを苦しめたのは、睡眠障害と、それに伴う体調不良だけではありませんでした。成長とともに、周囲からの視線を気にするようになったと、当時の心境を振り返ります。
「睡眠障害はケガと違って外見に現れません。睡眠障害による体調不良を訴えても理解されず、『なまけている』『だらけている』と誤解されることが多かったのです」
夜に寝られない・朝に起きられない——深刻な睡眠障害に伴う体調不良に苦しんだ竹田さんに人生を変える転機が訪れたのは、28歳の時でした。
スムーズな入眠・起床のキーワードが「光」と気づき人生が大きく好転!
睡眠障害を改善するために、広く情報を集めていたある日、竹田さんは友人から「睡眠には光が大切で、アメリカでは光を使った目覚まし時計がある」といわれ、高い関心を持ったといいます。
「友人が話してくれたのは、当時のアメリカで普及していた、音ではなく〝光で起きる〟目覚まし時計でした。当時の私は眠りの対策ばかり求めていたので、目覚めに関する情報には疎かったんです」
寝具やサプリメントではなく、光の存在に関心を持った竹田さん。当時、アメリカではスムーズな入眠と起床を促すために、光を用いた目覚まし時計が開発されていました。
「一般的な目覚まし時計は、セットした時間に音が鳴って目覚めを促しますが、光で起きる目覚まし時計は、定刻になると光が照射される仕組みでした。当時、手に入れることができた光で起きる目覚ましは数種類ありましたが、試してみたいと思った製品はアメリカ製で、価格は4万円でした。安くはありませんが、当時の私は結婚して1歳になる子どもを持つ親でもありました。夫の睡眠障害が原因で不規則な生活の中で子育てをしている妻のためにも、試してみることにしたんです」
光で起きる目覚まし時計がアメリカから届くと、すぐに試してみたという竹田さん。翌朝、これまでの人生観がひっくり返るほどの強烈な体験をしたそうです。
「信じられないほどスッキリと目覚めることができたんです。体が軽く、気持ちは爽やか。20年間の苦しみはなんだったのかと感動しながら、睡眠と光の関係を体感しました。さらに驚いたのは、その日の晩です。我慢できないほどの眠気に襲われて、ベッドに入ると寝落ちしてしまったんです」
朝を迎えて活動的な状態へと切り替わる際に必要となるスイッチが「光」。つまり、朝起きて太陽の光を浴びることで私たちの体は目覚めることができます。この働きは自律神経をはじめ、メラトニンやセロトニンといった睡眠と深く関わるホルモンの面からも科学的に検証されています。
「朝の目覚めの後、日中にしっかり活動してエネルギーを使い切ることで夜に自然な入眠リズムが生まれます。私は長年、睡眠障害を改善しようと夜の就寝時に策を講じてきましたが、朝に正しく起きることが正しい眠りを手に入れる最善の方法だったんです」
本来は、太陽の光を浴びることで自然な目覚めを促すのが望ましいものの、天候や生活リズムに左右されない「光で起きる目覚まし時計」を普及させることで多くの睡眠障害に悩む人の役に立ちたいと思った竹田さん。2011年に、理想の目覚まし時計を製造開発するために会社を設立します。
「時計を作るノウハウは皆無でしたが、睡眠障害に悩む人たちの役に立ちたいという思いは強く持っていました。光によってすっきり目覚められたあの朝の感動を、悩んでいる人たちにも体験してもらいたい——その気持ちを胸に、自社製品の開発を目指しました」
苦労や失敗を伴いつつも、理解してくれる海外のメーカーや専門家などの協力を得た竹田さんは、自社製品の開発に成功。2012年に「OKIRO」と命名した光で起きる目覚まし時計を発表し、大きな注目を集めました。
「光で起きる目覚まし時計は改良を重ねて、現在は6代目になります。最近では他社さんからも光で起きる目覚まし時計が発売されるようになりましたが、私自身が睡眠障害の体験者であることを強みにして、患者さん目線のきめ細かいサービスを心がけています」
起立性調節障害の対策にも光が有効と実感して情報を発信
竹田さんが現在、活動に力を入れているのが、起立性調節障害に関する活動です。
「自分が20年間悩んだ睡眠障害から解放してくれた〝光〟の力を起立性調節障害にも役立てたいと考えたのがきっかけです。現在、青少年の10人に1人が起立性調節障害に悩まされていると推計されています。以前、講演をさせていただいたある中学校では、全校生徒約900人のうち約100人が不登校で、多くの原因が起立性調節障害だったんです。少子化が急速に進む日本において、青少年は日本の未来を担う大切な存在です。想像以上に深刻な起立性調節障害の問題に、経験者としての視点を生かして取り組んでいます」
2022年に設立した起立性調節障害改善協会の活動は現在、ホームページを中心とした情報提供をはじめ、竹田さんによる講演会など多岐にわたるといいます。
「協会の活動にご理解をいただいている医師の先生方のご協力もあり、協会のホームページは月に60万ページビューを超えるようになりました。反響の大きさは、起立性調節障害に悩んでいる人の多さでもあると考えています」
青少年に多いといわれる起立性調節障害ですが、竹田さんによると中高年からの悩みも多く寄せられるといいます。
「睡眠障害の治療を受けても改善しない方々が、起立性調節障害を疑って問い合わせをされるケースが増えています。ご高齢の方の場合は、夜間の就寝途中に目覚める中途覚醒や、夜明け前に目覚めてしまう早朝覚醒を併発している方が多いです。睡眠障害との境界線は難しいところですが、光で起きる目覚まし時計を自分だけの〝マイ太陽〟にして、目を覚ました後に朝日をしっかり浴びて体内時計を正しく整えることが大切だと思います」
世代を問わず、睡眠障害や起立性調節障害に悩む人が増える中、当たり前のように存在する「光」の効用に気づかない人がまだまだ多いと語る竹田さん。今後も積極的に「光」の健康効果を発信していきますと話してくれました。
竹田浩一さんが代表理事を務める一般社団法人起立性調節障害改善協会のHP