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皮膚疾患に著効の「幹細胞培養上清液」による治療とは?

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会理事 小林 平大央

話題の幹細胞と幹細胞培養上清液との違いを知っていますか?

小林平大央
[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催。一般社団法人日本先進医療臨床研究会理事(臨床研究事業)、一般社団法人不老細胞サイエンス協会理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

最近話題の「幹細胞かんさいぼう治療」をご存じでしょうか。幹細胞とは、ヒトや動物などの体を作る多種多様な細胞に分化する能力を持つ細胞のことです。幹細胞が分裂して増えていくことで、ヒトは細胞の数を増やして成長していきます。

ところが、ヒトの幹細胞は年齢とともに数が減るといわれています。生まれた時の60億個をピークにして、20代で10億個、40代で3億個と激減し、幹細胞の減少に伴って老化すると考えられています。そこで、40歳を過ぎたあたりから自分の幹細胞を採血などで取り出し、培養加工施設で数を大幅に増やして点滴などで戻すという若返りのための治療法が存在します。

また、さまざまな臓器や組織が老化や摩耗、事故などで欠損して通常の働きを失った場合にも、臓器や組織の機能の復活を期待して治療が行われることがあります。こうした治療法を「再生医療」といいますが、この治療には細胞増殖に伴う危険性も指摘されているため、現在の日本でこの治療を行うためにはさまざまな制限があります。

まず、再生医療を行うためには2013年に制定され、翌年から施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(別名「再生医療法」)を順守する必要があります。再生医療の提供に対しては、提供計画の届出などに対する多大な労力と費用がかかるしくみとなっています。また、再生医療は、第一種、第二種、第三種とそのリスクに応じて区分されていますが、最も危険性が高い区分である第一種再生医療の申請はなかなか通らないため、現在はほとんど行われていません。

第一種再生医療には、世界が期待する医療技術であるiPS細胞やES細胞のほか、動物の細胞や他人の細胞を使用した再生医療が含まれています。そのため、現在の日本で行われている再生医療は、自分の細胞を増やして自分だけの治療に使用する完全オーダーメイドの治療となっています。

オーダーメイド治療は他人には使用できないため、大量生産や汎用性が効かず、非常に高額な治療となります。そのため、現在の再生医療を受けられる人はほんのひと握りとなってしまっているのです。

幹細胞を使用する高額な医療のデメリットを補うために登場した、比較的安価で再生医療に似た医療技術が「幹細胞培養上清液かんさいぼうばいようじょうせいえき」による治療です。幹細胞培養上清液とは、幹細胞を培養する際の培養液の上澄うわ ずみのことです。実はヒトの成長や細胞分裂を助ける働きは、幹細胞だけではなく、幹細胞が分泌ぶんぴつするさまざまな成分にもあることが近年分かってきたのです。

幹細胞を培養すると、幹細胞からさまざまな成分が分泌されます。サイトカインやエクソソームなど、各種の成長因子といわれる成分で、培養液中に多量に分泌され、これらの成分が細胞分裂を助けたり、ヒトの成長を促したりすることが明らかになってきたのです。

幹細胞培養上清液には細胞が含まれておらず、再生医療法の適用外となります。そのため、自分の細胞を培養した培養液だけではなく、他人の幹細胞を培養した上清液であっても特に使用に制限はないのです。つまり、幹細胞では非常に難しい大量生産が、幹細胞培養上清液であれば可能になるということです。大量に生産したものは安価に流通できるため、結果として医療現場での治療価格も安価に抑えられるのです。

『改訂版・驚異の再生医療—培養上清が世界を救う』上田 実著(扶桑社)

そしてもう一つ、現在の幹細胞を使用した再生医療に対して、幹細胞培養上清液での治療の利点があります。実は「幹細胞」とひと口にいっても、幹細胞にはさまざまな種類があるのです。ところが、現在の再生医療では自分の幹細胞しか治療に使用できないため、幹細胞治療といえば、ほぼ自分の脂肪細胞しか使用できないのです。

骨髄こつずい由来の幹細胞もかつては用いられていましたが、骨髄採取は通常医療を超える危険性を伴うと判断され、現在ではほとんど行われていません。また、ある種の治療に対して非常に効果が高いことが分かっている臍帯さいたい由来や臍帯血さいたいけつ由来、羊膜ようまく由来、歯髄しずい由来の幹細胞など、出産や幼児期にしか採取できない幹細胞はすでに失われているため、自分の治療には使えません。

それに対して幹細胞培養上清液による治療の場合、他人の幹細胞を培養した上清液も使用可能です。そのため、臍帯や臍帯血、羊膜、歯髄由来の幹細胞を培養した上清液が安価に使用できるのです。

このように一見いいことずくめのように見える幹細胞培養上清液による治療ですが、実は欠点もあります。それは、幹細胞培養上清液には再生医療と違って厳格な規定がないため、野放し状態で品質が悪く、医療に使用できないレベルのものも紛れ込んでいるということです。

ある程度以上のレベルできちんと成長因子が含まれている幹細胞培養上清液であれば、再生医療に匹敵するような治療効果が期待できると思います。現在、きちんとした成分を含む素材を使用した症例からは、さまざまな分野の医師たちから効果が期待できるという報告が上がってきています。そして、幹細胞の種類によって培養液の上澄みに分泌される成分の傾向が異なるため、疾患と素材を組み合わせることによって治療効果が変わってくることも分かってきました。

例えば、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に対する幹細胞培養上清液は特に羊膜由来が著効ちょこうであり、臍帯血由来、胎盤たいばん由来も効果が高いということが分かってきています。また、筋萎縮性側索硬化症きんいしゅくせいそくさくこうかしょう(ALS)やアルツハイマー型認知症、パーキンソン病などの神経変性疾患に対しては歯髄由来が著効であることも分かってきました。そして、臍帯血由来は育毛や美肌の効果が高く、骨髄由来は運動機能と視力の回復に優れ、脂肪細胞由来は著効ではないものの全般的に効果があるらしいことも分かってきたのです。

このように効果的な対象疾患が異なるため、疾患に合った特定の臓器由来の幹細胞培養上清液を選ぶほうが治療回数も少なく、効果が出るのも早いことが分かりはじめています。ただし、こうした知見は、多くの症例を積み上げ、ほかの素材による治療と比較して初めて分かってくるものです。現在、その道のりはまだ始まったばかりです。