プレゼント

マイナス思考を受け入れるとらくになれる!

杉浦貴之の「治す力は自分の中にある!」
ミスター・メッセンジャー 杉浦 貴之

[すぎうら・たかゆき]——1971年、愛知県生まれ。28歳のときに腎臓がんを発症し、両親には余命半年、2年後の生存率0%と告げられ手術を受ける。以後、『メッセンジャー』編集長兼シンガーソングランナーとして精力的に活動中!

3月17日に三重県桑名市で開催されたトーク&ライブは、まさかのハプニングから始まりました。午前11時に会場に着いた瞬間、音響機材一式を家に置いてきてしまったことに気づいたのです。ライブの開始時刻は午後1時半。自宅がある愛知県岡崎市まで取りに帰って間に合うのか! でも行くしかない! 迷っている時間がもったいないので、すぐに家に向かいました。

「なぜ機材を載せなかったのか……」と自分を責めつつも、このピンチをどうしたらプラスに変えられるか考えました。

イメージの力を使うことにした私は、「絶対に、絶対に遅れてはいけない」「必ず間に合う」というプラスのイメージを持つようにしました。でも、このイメージを心の中で思い浮かべると、アドレナンがいっぱい出て、車のアクセルを踏み込みそうになるのです。やっぱり命が大事と思った私は「遅れてもいいや」と思うことにしました(笑)。

きっと今日のお客さんはいい人ばかりだし、主催者さんもスタッフさんも笑って許してくれるはず。もし遅れても、音響機器のセッティングを解説しながらお客さんに見せるというレアなライブをするのもありだろう。お客さん一人ひとりへのスペシャルサービスだと、いろいろなアイデアが浮かんできたのでした。


つまり、間に合わせようというプラスのイメージではなく、間に合わないというマイナスのイメージを受け入れたのです。すると、心が落ち着いてきて、トーク&ライブのネタを考えたり、歌の練習をしたり、楽しい時間となりました。そして、ライブの開始時刻に遅れることなく、桑名に戻ったのでした。

このエピソードは、がんの治療にも当てはまります。「絶対に治さなければならない」「1日も早い回復を!」「早く元気になろう」という無理なプラス思考ばかりでは、身も心ももちません。「この治療がうまくいかなかったとしても、他に方法はいくらでもある。人はいつか旅立つのだし、いまのこの瞬間を楽しく生きよう」という思いを素直に受け入れたほうがらくになれることもあるのです。

桑名でのトーク&ライブが開催される1週間前、主催者さんから「お客さんがあまり集まっていないんです」と連絡をいただいていました。私はいったん、お客さんがいないというマイナスの事実を受け入れました。そこから、「増えなくても全然OK! 来てくれる人たちが来てくれればいいさ。いま、参加してくれる人たちに感謝しよう。いまの人数でも十分。足りないのではなく、もう十分。いまも十分集まっているけど、もっと集まるといいな」と考えました。そう考えたら、ほんとうにたくさんのお客さんが来てくれました。

次回のトーク&ライブでは、音響機器を忘れることはないでしょう。もし忘れても、きっと大丈夫でしょう。

前回のコラムで、「侍の極意は『いかにともに負けないようにするか』ということ。決して『勝つ』ことではない」と書かせていただきました。人間なので、否定的な感情を抱くこともあります。そんなときに私は、その感情にふたをせず、俯瞰し、味わい、吐き出し、心を落ち着かせるようにしています。剣を抜いて闘いを挑むことはせず、自分が負けず、相手も負けさせないためにはどう行動したらいいかを考えるようにしています。

杉浦貴之「がんサバイバー・命を唄うシンガーソングライター&編集長」
杉浦貴之のがん克服の軌跡、活動内容、出演スケジュール、命のマガジン『Messenger』のご注文、イベント出演依頼などの情報を掲載しています。