二本松眼科病院副院長 平松 類
中途失明を招く疾患の第1位は緑内障で40歳以上の成人の20人に1人に発症
私たちが生活の中で得ている情報のうち、9割近くは目から入ります。視覚から入る情報がなくなったり、欠損があったりすると、生活の質が大幅に低下してしまいます。
厚生労働省が行った調査によると、中途失明を招く疾患は、1位は緑内障、2位は網膜色素変性で、糖尿病網膜症、加齢黄班変性(以下、黄斑変性と略す)が続きます。中でも、緑内障は数年間にわたって1位を独占しつづけているおそろしい疾患です。
日本緑内障学会は、2000~2001年に岐阜県多治見市で、2005~2006年に沖縄県久米島町で、緑内障を中心とした大規模な疫学調査を行っています。その結果、40歳以上の成人の緑内障の有病率は、多治見市で約5%、久米島町では約7.5でした。40歳以上の20人に1人が緑内障を発症していることになります。
緑内障の症状は気づきにくいのが特徴です。自覚症状がほとんどないまま進行し、症状が出てくる末期になってから初めて眼科を受診する人も少なくありません。私の父も緑内障を発症しましたが、自覚症状はありませんでした。
父は60歳になる前、私が眼科医だからと、軽い気持ちで眼科検査を受けました。ところが、検査の結果、左目が中期、右目が初期の緑内障と判明したのです。父は視野の欠損をほとんど自覚しておらず、緑内障という診断は信じられなかったと思います。
父の緑内障ですが、早期に治療を受けることで進行を抑えることができています。父のように早い段階で適切な処置を行えば、緑内障の進行を抑えることができ、失明を回避することも99%可能です。早期発見のため、40歳以上の人は年に1回は眼底検査を受けることをおすすめします。
緑内障は「視神経に障害をきたし、視野に欠損が見られる目の病気」と定義されます。視神経が障害される主な原因は複数ありますが、眼圧の上昇です。目の中では毛様体で作られる「房水」という透明な液体が常に循環しています。房水は「隅角」という目の出口から排出され、常に一定の量と眼圧を保っているのです。
なんらかの原因で房水の排出路である隅角が詰まったり、働きが悪くなったりすると、眼球内に房水がたまり、眼圧が上昇します。眼球の後ろから脳に向かって伸びている視神経はとても繊細で、眼圧に耐えられないと押しつぶされて、傷ついてしまいます。残念ながら、一度傷ついた視神経は元には戻りません。その結果、視神経の数が減ってしまい、視野が徐々に欠けていきます。これが緑内障の起こるしくみです。
眼圧は視神経を傷つける大きな原因ではあるものの、日本人の中には眼圧が正常にもかかわらず発症する「正常眼圧緑内障」の患者さんが多いことが分かっています。正常眼圧緑内障が起こる原因や発症のメカニズムはいまだに明らかではない点が多く、現在も研究が進められています。
緑内障、網膜症、黄斑変性は血圧・血糖・血流の異常により起こる目の生活習慣病
眼圧もさることながら、緑内障の発症には「3つのK」の異常が関わっているといわれています。3つのKとは「血圧」「血糖」「血流」です。
目の網膜では、ものを見るために絶えず映像の処理が行われています。そのため、大量の酸素や栄養を消費し、二酸化炭素や老廃物を排出しています。高血圧や高血糖の状態になると、動脈硬化(血管の老化)が促進します。動脈硬化は目の毛細血管でも起こり、血流が悪化してしまいます。すると、必要な酸素や栄養が目の細胞に行き渡らなくなってしまうのです。視神経が栄養不足になった結果、緑内障が発症するということは十分に考えられるでしょう。
3つのKに異常が起こって発症する目の疾患は、緑内障だけではありません。中途失明原因第3位の糖尿病網膜症、第4位の黄斑変性は、3つのKの異常と密接な関係にある疾患です。3つのKの異常は、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病によって引き起こされるため、緑内障や糖尿病網膜症、黄斑変性は「目の生活習慣病」といえるでしょう。
糖尿病網膜症は、糖尿病神経障害、糖尿病腎症とともに「糖尿病の三大合併症」と呼ばれています。網膜には、目に酸素や栄養を送るための毛細血管が集まっています。糖尿病などが原因で高血糖の状態が長く続くと、血管に障害が起こるようになります。その結果、網膜の毛細血管が出血して視覚に異常が起こります。激しい出血を起こすと網膜剥離を招き、失明することもあります。
欧米では失明原因第1位の疾患なっている黄斑変性は、目の網膜の黄斑部に起こる病気です。黄斑部は網膜の中心部分で、視力や視界を維持するために最も大切な部分といっても過言ではありません。黄斑部には黄色の色素がたまっているのが特徴です。
目の網膜の中心にある黄斑部に異常が起こると、視界の中心部分が見えにくくなったり、周辺部がゆがんで見えたりするため、急激に視力が低下してしまいます。黄斑変性は黄斑部の血管が破れて出血したり、むくみが起こったりして発症する病気です。
目の病気を防ぐには「3つのK」の異常を回避することが大切で活性酸素の害に要注意
黄斑変性が発症する主な原因こそ、3つのKの異常です。目の細胞は、紫外線をはじめとした多くの光によって障害が生じます。血流が本来の状態であれば、目の細胞に酸素や栄養が行き渡って働きが回復します。ところが、3つのKに異常が起こると、障害を受けた目の細胞の回復が遅れ、黄斑部に障害が出てしまうのです。
3つのKの異常を回避して目の病気を防ぐためには、食生活の見直しが重要になります。肉などの動物性食品に偏った食生活を続けていると、血液がドロドロになり、緑内障や黄斑変性の発症や悪化を招きます。さらに、高脂肪食は黄斑変性を発症させる危険性を高めることも分かっています。
一方、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、α‐リノレン酸などのオメガ3系の脂肪酸を摂取すると、血液がサラサラになります。すでに緑内障や黄斑変性を発症していても、症状の悪化を食い止めることは十分可能です。
オメガ3系の脂肪酸は、サンマやサバなどの青魚のほか、アマニ油やエゴマ油などにも豊富に含まれています。また、緑黄色野菜にはポリフェノール(植物色素)などの抗酸化物質が豊富に含まれています。
抗酸化物質は、活性酸素の害を防ぐ働きがあります。活性酸素は酸化作用の強い酸素でウイルスなどの外的を撃退する働きがある一方で、必要以上に増えると正常な細胞を攻撃したり、動脈硬化を促進したりします。3つのKの異常を回避するためには、活性酸素の害を防ぐことが大切です。
活性酸素の過剰発生を防ぐためには、紫外線にも注意する必要があります。特に夏の時期は、強い紫外線によって目に活性酸素が大量に生じやすいため、注意が必要です。曇りの日でも快晴時の60%、雨の日でも20~30%と、晴れていなくても紫外線は降り注いでいます。外出する時はつばの深い帽子をかぶったり、UVカット機能のあるサングラスをかけたりして目を守るようにしましょう。
日常生活の工夫と「温熱マッサージ」や「毛様体ストレッチ」で目の血流が改善
日頃から目の血流を促進するためにおすすめしたいのが「温熱マッサージ」です。水で濡らしたタオルを電子レンジで温め、まぶたの上に乗せるだけという手軽なアイケア方法です。簡単な方法ではありますが、目の血流を促進することができるのでおすすめです。血流を促進するだけではなく、涙が水分と油分のバランスの取れた良質の状態に改善されるため、目の保護機能の向上にもつながります。
タオルは40℃前後の温度が適温です。1回5分、1日2回を目安に行うようにしましょう。電子レンジによってタオルの温まり方が異なります。やけどには十分に気をつけてください。
温熱マッサージは、シャワーで行う方法もあります。入浴時に目を閉じて、シャワーのお湯を一分間まぶたに当てましょう。温かく感じる程度の温度で、水圧は強すぎないようにしてください。水圧が強すぎると、眼球を傷つける原因になるので注意しましょう。
温熱マッサージは、手で行う方法もあります。手をこすり合わせて温め、お椀状にします。その手を、目をつぶった上に置いて空気で温めるという方法です。簡単なうえに時間や場所を問わないのでとてもおすすめの方法です。
目の血流改善には「毛様体筋ストレッチ」もおすすめです。毛様体筋とは、目のピントを合わせるために必要な筋肉です。遠くや近くを交互に眺めることで、緊張を緩めることができます。毛様体筋の緊張を緩めることで、目の血流もよくなって老眼など加齢で起こるさまざまな問題も改善させることが期待できます。
目の健康維持には「血圧」「血糖」「血流」の3つのKに異常が起こらないようにすることが大切です。そのためには、食生活の改善や紫外線対策など、日常生活の工夫が必要になります。また、温熱マッサージや目のグルグル体操などのセルフケアに取り組んで、目の血流を促進することを心がけるようにしてください。
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